216 / 243
愛していても/3
しおりを挟む
だからと言って、こっちの動揺しているなんて知られたくもないし、知られてたまるかと歯を食いしばって、明引呼は窓の外を見つめたまま言った。
「前からごちゃごちゃしてやがったから、この機会になくしちまえ」
「それでは、失礼」
月命は振り向きもしないで言うと、瞬間移動ですっと消え去った。もうあの男はそばには戻ってこない。他の男と幸せに暮らす。妻も子供たちもいる家で、暖かな家庭を築く。
「どうすることもできねえだろ……」
一人きりの部屋に、明引呼の声が小さくしぼんでいった。
*
それから、約一ヶ月後の、明引呼の家の応接間。訪れた月命は婚約指輪の入った箱を開けて、明引呼に差し出していた。
「てめぇ、結婚して一ヶ月もたたねぇ内に、プロポーズするって、どうなってやがんだ?」
あきれてものが言えないとはこう言うことだ。バイセクシャルの複数婚なんてものをしてから、この男の感覚がどうも狂っていやがる。相変わらず、おかしなことをしてきやがって。
月命は明引呼の心のうちを知ってかしらずか、しれっと言った。
「妻の一人がどなたかを思い出すと、自然と結婚がうまくいくようになっているんです」
「俺が思い出されたってか? っつうか、俺のこと知ってる女なんて、そん中じゃ楽主ぐらいだろ。どうなっていやがる?」
まるで以前知っていたのに、忘れていたみたいな言い方だった。そうなると、元々月命の妻だった楽主じゃない。
「君は知っているんではないんですか? 地球にいる女性――広菜という魂が入っていた肉体を……」
「あれか……」
もう十四年以上も前の古い話だが、兄貴は思い出して、ふっと鼻で笑った。
「知ってっけどよ。オレのことは見えてなかったぜ。しかも、邪神界がいた頃の話だろ? 直接会ってもいねぇぜ」
あれも不思議な出会いだった。
「ですが、君の子供の白と甲は話したことがあるんではないんですか?」
「あいつらはあんだろ。絵書いてもらったとか言って、喜んでたからよ」
「彼女が絵を描いたんですか?」
月命には寝耳に水だった。
「おう。八人ガキがいてよ、そいつらが大きな龍に一緒に乗ってる、平和な絵だったみてえだぜ?」
「おや? 彼女は歌と作詞が得意で、絵はまったくできないとのことでしたが……。あの大きな本棚のどこかにスケッチブックでもあるのでしょうか?」
のらりくらりと話を続けている月命に、明引呼は鋭く突っ込んだ。
「っつうかよ、話元に戻せや。プロポーズはどこに行ったんだよ?」
また失敗しやがって。まともに話が進みやしない。
「彼女が思い出すと、新しい配偶者が増えるんです~。僕もそうやって思い出されて、蓮と結婚したんです。彼は恋愛に鈍感なので、まったく気づいていなかったそうなんです。僕のことを愛していると。ですが、彼女が僕の名前を出した時に、僕のことを愛していると気づいたみたいなんです~」
ディーバさんのおかしな恋愛観は脇へ置いておいて、明引呼は先に話を進めた。
「で、肉体の記憶を使って、オレを思い出したってか?」
「えぇ、ですから、僕は君にプロポーズしにきたんです~」
「ってかよ、あの人間の女なんか何とも思ってないぜ?」
明引呼も多少なりとも関係はあったが、同じチームメイトみたいなものだが、言葉も交わしたことのない付き合いだった。そんな女と結婚するなんざ、どうにも頭がいかれている。
「そちらは彼女も少々頭を抱えていました」
「あぁ?」
戸惑っているのは、お互い様か。
「好きじゃない人を思い出すのが怖い~! 結婚して増えていくことになるから~! どうすれば好きになれるんだ~! だそうです」
全てを記憶している月命は、おまけの倫礼の言葉を一字一句間違えずに伝えた。
「霊感に引っ張り回されてるってか?」
「前からごちゃごちゃしてやがったから、この機会になくしちまえ」
「それでは、失礼」
月命は振り向きもしないで言うと、瞬間移動ですっと消え去った。もうあの男はそばには戻ってこない。他の男と幸せに暮らす。妻も子供たちもいる家で、暖かな家庭を築く。
「どうすることもできねえだろ……」
一人きりの部屋に、明引呼の声が小さくしぼんでいった。
*
それから、約一ヶ月後の、明引呼の家の応接間。訪れた月命は婚約指輪の入った箱を開けて、明引呼に差し出していた。
「てめぇ、結婚して一ヶ月もたたねぇ内に、プロポーズするって、どうなってやがんだ?」
あきれてものが言えないとはこう言うことだ。バイセクシャルの複数婚なんてものをしてから、この男の感覚がどうも狂っていやがる。相変わらず、おかしなことをしてきやがって。
月命は明引呼の心のうちを知ってかしらずか、しれっと言った。
「妻の一人がどなたかを思い出すと、自然と結婚がうまくいくようになっているんです」
「俺が思い出されたってか? っつうか、俺のこと知ってる女なんて、そん中じゃ楽主ぐらいだろ。どうなっていやがる?」
まるで以前知っていたのに、忘れていたみたいな言い方だった。そうなると、元々月命の妻だった楽主じゃない。
「君は知っているんではないんですか? 地球にいる女性――広菜という魂が入っていた肉体を……」
「あれか……」
もう十四年以上も前の古い話だが、兄貴は思い出して、ふっと鼻で笑った。
「知ってっけどよ。オレのことは見えてなかったぜ。しかも、邪神界がいた頃の話だろ? 直接会ってもいねぇぜ」
あれも不思議な出会いだった。
「ですが、君の子供の白と甲は話したことがあるんではないんですか?」
「あいつらはあんだろ。絵書いてもらったとか言って、喜んでたからよ」
「彼女が絵を描いたんですか?」
月命には寝耳に水だった。
「おう。八人ガキがいてよ、そいつらが大きな龍に一緒に乗ってる、平和な絵だったみてえだぜ?」
「おや? 彼女は歌と作詞が得意で、絵はまったくできないとのことでしたが……。あの大きな本棚のどこかにスケッチブックでもあるのでしょうか?」
のらりくらりと話を続けている月命に、明引呼は鋭く突っ込んだ。
「っつうかよ、話元に戻せや。プロポーズはどこに行ったんだよ?」
また失敗しやがって。まともに話が進みやしない。
「彼女が思い出すと、新しい配偶者が増えるんです~。僕もそうやって思い出されて、蓮と結婚したんです。彼は恋愛に鈍感なので、まったく気づいていなかったそうなんです。僕のことを愛していると。ですが、彼女が僕の名前を出した時に、僕のことを愛していると気づいたみたいなんです~」
ディーバさんのおかしな恋愛観は脇へ置いておいて、明引呼は先に話を進めた。
「で、肉体の記憶を使って、オレを思い出したってか?」
「えぇ、ですから、僕は君にプロポーズしにきたんです~」
「ってかよ、あの人間の女なんか何とも思ってないぜ?」
明引呼も多少なりとも関係はあったが、同じチームメイトみたいなものだが、言葉も交わしたことのない付き合いだった。そんな女と結婚するなんざ、どうにも頭がいかれている。
「そちらは彼女も少々頭を抱えていました」
「あぁ?」
戸惑っているのは、お互い様か。
「好きじゃない人を思い出すのが怖い~! 結婚して増えていくことになるから~! どうすれば好きになれるんだ~! だそうです」
全てを記憶している月命は、おまけの倫礼の言葉を一字一句間違えずに伝えた。
「霊感に引っ張り回されてるってか?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる