ガーディアン白書 〜イケメンたちが次々に口説いてくるので困っています!〜

明智 颯茄

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タイムジャンクション3

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 ――――ふと音がした。天に向かっていななくような、キキーッという自転車の急ブレーキの慟哭どうこく。小さな地鳴りのようなバタバタという靴音。何もかもが、数時間前に感じたタイミングも方向もまったく同じだった。

(もしかして、また戻って……)

 瑞希はそっと瞳を開ける。すると、予感していた通り、大きな駅のロータリーに戻ってきていた。突然、終わりを告げられた、夢の時間たち。

「やっぱり……」

 妙にがっかりした彼女の声が、石畳の上に落ちた。通り過ぎる人々の川の流れをぼうっと眺める、クルミ色の瞳は涙でにじんでゆく。

 どういうわけか、胸のあたりがギューッと絞られるように苦しい。人がたくさんいるはずなのに、どこからも切り離されたように寂しい。

 結局、自分の感情を言い表す言葉を見つけられず、離れてしまって。あともう少しそばにいたら、わかったかもしれない。

 引きずり回されっぱなしのゴーイングマイウェイ。
 歩幅は俺さま。
 言葉はひねくれ。
 物のように扱われる超不機嫌。

 意思の疎通も難しいはずなのに、抱きしめたり、抱きしめられたり。あの乾いた夜の空気が、全て取り払われて、不浄な湿ったものにすり変わっていた。

 たとえ、中途半端に途切れて、戻ってくることが2度目だとしても、慣れるはずもない。慣れたくもない。どうなっているのかも聞かず、秀麗しゅうれいのあの綺麗な姿にただただ見惚みとれたかと思えば、どんぐりの背比べみたいなケンカ。

 ひねくれで超不機嫌なはずなのに、純粋で無邪気な子供みたいな天使。あの月色の下。あの男の性的な匂いは今も、体の隅々まで刻印を残している。あの温もりも。あの鋭利なスミレ色の瞳も。あの針のような銀の長めの前髪も。何1つ覚えている。

 どうして、急に抱きしめてきたのか。
 どうして、バラの花を降らせたのか。
 どうして、ヴァイオリンを聞かせてくれたのか。
 どうして……。

 ノーリアクションだからこそ、どうして、がいくつも出てくる。もう一度会って、聞いてみたい。答えてくれるかどうかはわからないが。

 ここで、戸惑って待っていて、人ごみを通り抜けて、デパートの扉を開けたら、またあの限定版CDがあって、一緒につかんで、もう一度最初からやり直して――

「あ……」

 吐息交じりに見下ろした膝に、乗っている四角いものに気づいた。

「CDがある……」

 自分とあの男をつなぐ鍵は、手元に置いてあった――ここに持ってきてしまっていた。今から行っても、店の棚にはおそらくCDはないだろう。

 もう戻せない。戻れない。

 夢のような錯覚のような現実。あの銀色の長い前髪と鋭利なスミレ色の瞳は、今も遠い空の下にいる、のかもしれない――

 不確定。確信が持てない。証拠がどこにもない。

「ただ時間が巻き戻ってるだけじゃない……?」

 取り出した携帯電話の時刻は、17時58分――

 同じ時点なのに、物事は進んでいるという怪奇現象。やはり、あの外国のスイートルームでの出来事は、全て存在していたと認めざるを得ない。

 秀麗の忘れ形見みたいなCDをそっと抱きしめて、黒のシャツの向こうにあった胸の鼓動を思い返して――と、瑞希には、過去に浸っている時間は許されていなかった。

 ジャンッ!

 と、音が鳴って、ドーンと選択肢、再び登場。

 2.高級ホテルのラウンジに行こう
 3.楽器店に寄って行こう
 5.友達からの電話に出る
 6.高層ビル群に行く
 7.人気のない高架下をくぐろう
 8.ここにしばらくいよう
 9.本屋に寄って行こう

 数がまた減って、7個になっていた。瑞希のセンティメンタルはピュッと引っ込んだ。

「消化してる! 好感度は上がったのかな? それとも、バットエンディング? どうなったのかわからない~~!」

 現実はかき消され、いつの間にか、黄色とピンクのメルヘン世界へ連れてこられていた。フワフワとシャボン玉が浮かび、シャラシャラシャラン! と、ときめきの音が鳴る。

 天からやってきた。意気揚々としたイケイケなチビッコの声が。

「おう。さっきのゴーイングマイウェイの報告はしっかり受け取ったかんな」

 ここにきていたらしい。あの笑いの前振りは。

 瑞希はさっと立ち上がって、バシッと敬礼する。

「隊長、無事、会ってきました!」

 即行ツッコミ。

「いやいや、探検隊ゴッコさせるために行かせたわけじゃねぇんだって」

 瑞希はそれでもよかったのだが、違うらしい。

「じゃあ、何ですか?」

 いい機会がめぐってきた。このおかしな分岐点を是非とも説明していただきたいところである。

 ピピッ、ピピッ……。

 と、何かの電子音が少ししていたが、チビッ子もチビッ子で色々と大変なようで、ずいぶん困った響きが落ちてきた。

「あ~っと、人それぞれ違てっかんな。オレには何とも言えねぇな」

 出会って、話をして、別れる。これが大まかなストーリー。だが、同じ物事に出会ったとしても、個性がある。それをどう取るかは、十人十色。

 御銫みせね秀麗しゅうれいは確かに似ていた。相手に御構いなしで、自分のペースで進んでゆく。だが、細かいところは似て非なり。もっともな意見の前に、瑞希はうなずくしかなかった。

「あぁ、そうですか……」

 それはそれで、ここで諦めてなるものか。

 彼女はチャンスを逃さないように、素知らぬふりをして、データ収集をしようする。シャボン玉が真正面で仲良くくっつき双子になったのを見つめながら、あの2つの月明かりの中で、見たもの、感じたものを脳裏に鮮やかによみがえらせる。

 いきなり違う場所にいる。
 飛んだ?
 いきなり時間が巻き戻る。
 光る風。

 瑞希は予測をある程度つけて、ここに切り込んだ。

「魔法使いですか?」

 確かにそれなら説明がつく。全て筋が通る。合点がゆく。だがしかし、現実はシビアだった。

「あながち間違ってねぇな」
「あながち?」

 肯定してこない。そうなると、別のことが原因になる。瑞希はさらに、これらの現象が起きるであろう要因を探ろうとした。だがしかし、軽めのお子さまの声が阻止してきた。

「けどよ、今回は入ってねぇぞ」
「今回? 入ってない? どういうこと? 別の回もあったってこと?」

 ツッコミどころ満載の言葉を振られて、瑞希は右に左に首を傾けていたが、天の声が先をうながした。

「そこは話長くなっからよ。あとでしてやっから、いいから、選べって」

 パブロフの犬。選べと言われたら、自動的に瑞希は選択肢を眺め、追求することもやめた。慣れとは怖いものである。その中でも、彼女はあがこうとする。

「もう3回目だ。どうやったらここから抜けられ――」

 この変な出来事から脱出したいのだ。確かに、イケメンに会えるのはいい。だがしかし、7連勤という労働で、体は疲れている。家に早く帰って、自分の好きなものに囲まれた部屋で寝たいのである。だがしかし、途中でさえぎられてしまった。

「いいから、選べって。あとつっかえてっかんな」

 瑞希のどこかずれている瞳に、マゼンダ色の文字が並ぶ。

 2.高級ホテルのラウンジに行こう
 3.楽器店に寄って行こう
 5.友達からの電話に出る
 6.高層ビル群に行く
 7.人気のない高架下をくぐろう
 8.ここにしばらくいよう
 9.本屋に寄って行こう

 帰宅は試みた。場所移動はしてみた。それでも、抜けられないタイムループ。おのずと絞られてくる選択肢。白のローヒールサンダルは、シャボン玉クッションの前で、縦にトントンと動く。

「ん~~? いつもしないことをしたら終わるかな? よし、バイオレンスに行ってみよう。人気のない高架下をくぐろう!」

 岩を砕くがごとく、彼女の右手は大きく勢いよく持ち上げられた。

 ピポーンッ!

 と音が鳴り響き、以下の文字が数回点滅。

 ――――7番を選択。

 3度目の正直。このおかしな連鎖からの解放を、神に祈る瑞希。チビッ子からノリノリで補足の指示がやってくる。

「よし! ガンガンいけよ~」
「何を?」
「いや、後悔すんなよ、かもしれねぇな」
「何を?」
「違ぇな、惚れんなよ、かもしれねぇぞ」
「何を?」

 カラオケエコーつきの声が、瑞希がさりげなくしてきた前振りに突っ込んだ。

「いやいや、さっきから、同じこと3回も言ってるって~~っっ!!」

 お笑い。ボケ→ツッコミ。この構図にもれずに、終了。瑞希はパッと立ち上がり、歩き出そうとした。

「じゃあ、行って――」

 言い足りなかったようで、ニヤニヤ笑っているような声がもう1つ注意事項をつけ足した。

「笑いかもしんねぇな。まぁ、迫力負けすんなよ」
「はぁ?」

 迫力負け。お笑いの。これらが自動的に足され、機動力――燃料となった。瑞希の心のうちに、ライバルという業火がメラメラと燃え出す。彼女は力強く万歳するように両腕を上げ、

「よしっ! 気合い入れていくぜっ! おうおうっ!!」

 肩をいからして、足で右に左に蹴りを入れながら進んでゆく。彼女の中で、RPGゲームが開始スタート。オートの攻撃モードは、

 ガンガンいこう!

 後先考えず、自分の身を守ることもせず、攻撃と魔法で攻めに攻めまくる。が、こうして展開されることとなったのである。

 そうして、すうっと現実へ戻ると、瑞希のテンションは一旦平常を取り戻し、また棒読みみたいな言葉を残して、

「地下鉄の改札には、こっちの方が近道で、人も少ないから……」

 秀麗からもらったCDをバックの中へサッとしまって、人ごみの川を滑り出す。横断歩道も無事に渡り終えて、左へと歩いて行った――――
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