明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

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リレーするキスのパズルピース

罠とR指定/3

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 学校の中庭で、ナンパが行われていた。マゼンダ色の髪の持ち主は振り向きもせず、凛として澄んだ丸みがあり儚げな女性的だが、男の声でこう返してきた。

「僕は女性ではありません。女装をしている小学校教諭です」

 女装する教師。
 ナンパする教師。

 そんな先生たちでも、学校にも保護者にもおとがめなく、仕事ができる平和で優しい世界だった。

 焉貴の白のシャツは前かがみになり、ベンチの背もたれに腕を乗せて、紺のデッキシューズは芝生の上で、軽く組まれた。男だと言っているのに、りずにおねだりする。

「え~、俺といいことしよう?」
「どのようなことですか?」

 顔だけで振り返ったマゼンダ色の髪の持ち主は、月のような綺麗な顔と、邪悪、誘迷ゆうめいという名が似合うヴァイオレットの瞳を持っていた。焉貴は振り返った男のあごに指先を添えて、ナルシスト的に微笑む。

「一緒に、お昼ご飯食べちゃうの」

 ムーンストーンのついた指輪をした手が、さりげなくセクハラをしている焉貴の手をつかみ取り、ポイッと投げ捨てた。

「四つ前と言葉は違えど、会話の内容は同じです」

 全然、めげない焉貴先生。高い声をわざと低くして、またナルシスト的に微笑んだ。

「そう? じゃあ、こうしちゃう!」

 パチンと指先が鳴ると、ベンチの後ろから一気に瞬間移動して、パステルブルーのドレスとガラスのハイヒールを身にまとった男の前――中庭の石畳の上に焉貴はいた。

 王女さま――いや一応、王子さまに最敬礼というように、片膝をすっと地面へつけてひざまずき、右手を斜め上に上げ、華麗に左下へ降ろす動きをともなって、歯が浮く用なセリフを平気でいった。

るなすさま、私と結婚していただけませんか?」

 二人の左薬指にしているリングが、春の風に優しくなでられてゆくが、月命から真面目にきっちりツッコミがきた。

「僕と君とでは、もう結婚はできませんよ」

 山吹色のボブ髪がまるで子供が駄々をこねるように左右に揺れ、月命の結婚指輪をしている手をつかんで、仲良くお散歩みたいにブンブン横にブランコをこぐように揺らした。

「え~? しちゃってよ~」

 まだまだ、食い下がっている焉貴。しかも、孔明よりも、甘さダラダラの言い回しと声。女子高生にも負けずおとらず、ハイテンションな高校教師だった。手を握られている月命は振動で声が揺れる。

「なぜ、僕に毎日、こちらでプロポーズするんですか?」

 習慣だった。遅めの昼食をとる、男性教師2人の日常。しかも、お姫様にダンスの申し込みをするみたいなプロポーズ。

 理由を問われた焉貴は、月命の顔に近づき、自信満々の笑みで、歯が浮くようなセリフを平気でまた言う。

「お前が綺麗だから……」

 学校の中庭で男性教諭同士で、堂々の同性愛が展開されていたが、月命は握られていた手の上に自分のそれを乗せて、顔を近づけて、意味ありげに微笑む。

「僕をほめても何も出ませんよ」

 焉貴のどこかいってしまっているような山吹色の瞳は下に落とされ、膝の上に置いてある水色の包みのさらに奥を見るようとした。ヴァイオレットの瞳に再び戻ってきて、男の香りが思いっきりする声で、確実に女を落とすように微笑む。

「嘘。男だから出しちゃうでしょ? 射○して」

 紺のデッキシューズが石畳の上でくるっと反転すると、パステルブルーのドレスの隣へ、ピンクの細身のズボンは腰掛けた。

「焉貴はいつでも破天荒はてんこうですね。そちらの話は生徒には聞かせられません」

 置き去りにしてきた弁当箱は、服というオレンジの布を脱がされた状態で、焉貴の手の中にすっと飛んできた。不思議現象が起きているの中で、彼はおかしな話をした。

「お前もそうでしょ? 十四年前はカエルのかぶり物して、学校きてたけどさ。何で、ここのところ、女装なの?」

 教師が被り物をする。それも、問題にならない学校。寛容な世界だった。だが、当の教師の口から出てきた言葉は、これだった。

「十四年前はカエルでした。今は女装なんです~」

 わざと言葉を抜かして行った月命に、焉貴先生がきっちり教育指導する。

「お前、言葉抜けすぎてて、変身したみたいになってんだけど……。はい、ほら、ちゃんと補足して」
「僕をモデルにした物語の中で、カエルと女装した男性になったんです~」

 ファンタジーの世界をリアルへ持ってきた結果だった。

「それで、まわりの反応はどうなの?」
「こちらで子供たちに会うと、彼らが笑うんです~。『先生、何で男の人なのに女の人の服着てるの? 面白い~』っと言って。生徒たちが笑顔でいることが、僕の何よりの幸せなんです~」

 孔明の公演中に、大爆笑しようとしていた生徒は男の先生が女装しているからだったのだ。大人には手厳しい月命だったが、教師の鑑のように子供にはとても優しかった。マゼンダ色の頭に乗っている銀のティアラを、焉貴の指先がトントンと軽く叩いた。

「だからって、趣味でも何でもない女装するって、どうなの?」
「僕は自虐的な性格なのでいいんです~」

 女装の小道具が落ちてこないように月命はしながら、さりげなく性癖が春風に舞った。会話が途切れ、遅めの昼食がお弁当のふたを取るという行為を合図にして始まった。
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