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最後の恋は神さまとでした
価値観の接点を探して/4
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孔明が丁寧に頭を下げると、漆黒の長い髪がタキシードの肩からさらっと落ちた。盛り上がっているパーティー会場で、孔明はまるで獲物を狙う猫のように忍足で近寄ってゆく。
(たった四百年では、軍を指揮して謀反を起こした人が地獄から出て、神界へは上がれない。たくさんの部下たちまで巻き添いにした罪は重い)
矛盾点が浮かび上がった。急に横切ってきた子供をさけるために、長い髪がふわりと舞い上がる。
(名が残っている人ほど、その後の時代に生まれた人々によくない影響を与えれば、それもまた罪を重ねることなる)
歴史に名が残っている以上、その人の行いは後世に語り継がれる。謀反が本当に罪だとしたら、何千年の時間がかかる。さらなる矛盾点。
(そうなると、まだ地獄にいる可能性が非常に高い。しかし、神の領域に上がっている。それを追い越す良い行いをしていないと、今ここにはいない。興味深い人物だ)
どのような心根で、このパーティー会場にいて、他の種族の人たちと親しげに会話ができるのか。まわりを囲んでいた人々が引いたところで、孔明は瞬発力を発して、特殊部隊に所属する男の前に立った。
「失礼いたします。諸葛 孔明と申します」
男を真正面から見ると、誰かに面影が似ていた。にこやかに微笑むわけではないが、礼儀正しくゆっくりと頭を下げた。その雰囲気は誰がどう見ても貴族的だった。
「お初にお目にかかります。明智 光秀と申します」
孔明の精巧な頭脳の中で計算して、成功する可能性が高い最初の言葉はこれだった。
「このような噂を耳にしました」
「どのようなことでしょう?」
光秀は決して低くわない百九十センチ越えの身長で、孔明の聡明な瑠璃紺色の瞳を真っ直ぐ見上げた。ふんわりした春風みたいな雰囲気は一瞬にして消え去り、氷河期のような冷たい声で、孔明は言った。
「地上で生きていた時に、謀反を起こされたと」
「さようでございますか」
光秀は気にした様子もなく、どこまでも平常でただ相づちを打った。孔明のデジタルな頭脳が猛スピードで動き出す。
(謀反を起こした理由は別にある――という可能性が高い。我の強い人間ならば反論してくる可能性が高い)
ただうなずいただけ。目の前にいる謀反を起こしたと言われている男は。
(反論しないとなると、彼は感情で動く人間ではない可能性が高い。そうなると、恨みや憎しみ、権力に踊らされて行動を起こすという可能性は非常に低いということになる)
プロファイリングされてゆく。誰かに面影が似ている男の性格が。対する光秀には、孔明はこう映っていた。
(初対面の人物と話す順番としては少々荒っぽい)
先日、陛下の部下が霊界へ降りて連れてきた人間だ。それだけで十分孔明の名は知れ渡っていた。
(この方は大変優れた方だと陛下もおっしゃっていた。そうなると、罠――)
天才軍師と言われた男ほどではないが、光秀にも理論がある。ここまでの時間はまだ0.5秒ばかりだった。
パーティーの音楽が一小節も進まないうちに、孔明の頭脳は稼働し続ける。
(謀反と人から言われれば、何か意見をする可能性が高い。しかし、それを口にしないのは、この方は地位や名誉に価値を見出していない。人からどう見られようと構わないという人間であるという傾向が高い。そうすると、彼が大切にしてたのは……)
ここまでの時間は一秒もかからなかった。会話としておかしくない間で、孔明は次の的確な質問を放った。
「ご家族は自害なさって、大変だったでしょうね?」
「そうかもしれません」
光秀の態度はどこまでも揺るぎのない大地という言葉が一番合っていた。すぐさま、孔明の頭脳に今の言動が取り込まれ、消化されてゆく。
(彼にとって大切なのは家族でもない。謀反と言われても仕方がないようなことを起こしたのだから、自分自身でももちろんない。そうすると……)
誰かに面影が似ているこの男――光秀の望んだものを、孔明は弾き出した。
「あなたが大切に想った、今現在の日本をどのように思いますか?」
(あなたは人間として生きていた時から、神と同じ心と目線で、未来を見て行動をした方だ)
聖獣隊の瑠璃色のマントが微かに揺れて、光秀は少しだけ微笑んだ。
「あなたは頭の優れた方だ」
だが、すぐに真摯な眼差しに戻った。
「ですが、私は人です。神ではありません。あの時代に生きた一人の人間として、今の未来まで予測できたのは、神のお力添えです」
素晴らしい頭脳を見せていただいた礼として、光秀は今会ったばかりの男――孔明にだけ聞こえるように言った。
「天下などどうでもよかった――。ただ弱き者たちも何もかもが平等で平穏に暮らせる日を願っただけです」
過ぎてしまったものは変えられない。ただの通過点でしか今はなく、それでも懸命に生きた結果が謀反だと言われようとも、永遠の世界へきては、それはたったひとつの人生に過ぎないのだ。
(たった四百年では、軍を指揮して謀反を起こした人が地獄から出て、神界へは上がれない。たくさんの部下たちまで巻き添いにした罪は重い)
矛盾点が浮かび上がった。急に横切ってきた子供をさけるために、長い髪がふわりと舞い上がる。
(名が残っている人ほど、その後の時代に生まれた人々によくない影響を与えれば、それもまた罪を重ねることなる)
歴史に名が残っている以上、その人の行いは後世に語り継がれる。謀反が本当に罪だとしたら、何千年の時間がかかる。さらなる矛盾点。
(そうなると、まだ地獄にいる可能性が非常に高い。しかし、神の領域に上がっている。それを追い越す良い行いをしていないと、今ここにはいない。興味深い人物だ)
どのような心根で、このパーティー会場にいて、他の種族の人たちと親しげに会話ができるのか。まわりを囲んでいた人々が引いたところで、孔明は瞬発力を発して、特殊部隊に所属する男の前に立った。
「失礼いたします。諸葛 孔明と申します」
男を真正面から見ると、誰かに面影が似ていた。にこやかに微笑むわけではないが、礼儀正しくゆっくりと頭を下げた。その雰囲気は誰がどう見ても貴族的だった。
「お初にお目にかかります。明智 光秀と申します」
孔明の精巧な頭脳の中で計算して、成功する可能性が高い最初の言葉はこれだった。
「このような噂を耳にしました」
「どのようなことでしょう?」
光秀は決して低くわない百九十センチ越えの身長で、孔明の聡明な瑠璃紺色の瞳を真っ直ぐ見上げた。ふんわりした春風みたいな雰囲気は一瞬にして消え去り、氷河期のような冷たい声で、孔明は言った。
「地上で生きていた時に、謀反を起こされたと」
「さようでございますか」
光秀は気にした様子もなく、どこまでも平常でただ相づちを打った。孔明のデジタルな頭脳が猛スピードで動き出す。
(謀反を起こした理由は別にある――という可能性が高い。我の強い人間ならば反論してくる可能性が高い)
ただうなずいただけ。目の前にいる謀反を起こしたと言われている男は。
(反論しないとなると、彼は感情で動く人間ではない可能性が高い。そうなると、恨みや憎しみ、権力に踊らされて行動を起こすという可能性は非常に低いということになる)
プロファイリングされてゆく。誰かに面影が似ている男の性格が。対する光秀には、孔明はこう映っていた。
(初対面の人物と話す順番としては少々荒っぽい)
先日、陛下の部下が霊界へ降りて連れてきた人間だ。それだけで十分孔明の名は知れ渡っていた。
(この方は大変優れた方だと陛下もおっしゃっていた。そうなると、罠――)
天才軍師と言われた男ほどではないが、光秀にも理論がある。ここまでの時間はまだ0.5秒ばかりだった。
パーティーの音楽が一小節も進まないうちに、孔明の頭脳は稼働し続ける。
(謀反と人から言われれば、何か意見をする可能性が高い。しかし、それを口にしないのは、この方は地位や名誉に価値を見出していない。人からどう見られようと構わないという人間であるという傾向が高い。そうすると、彼が大切にしてたのは……)
ここまでの時間は一秒もかからなかった。会話としておかしくない間で、孔明は次の的確な質問を放った。
「ご家族は自害なさって、大変だったでしょうね?」
「そうかもしれません」
光秀の態度はどこまでも揺るぎのない大地という言葉が一番合っていた。すぐさま、孔明の頭脳に今の言動が取り込まれ、消化されてゆく。
(彼にとって大切なのは家族でもない。謀反と言われても仕方がないようなことを起こしたのだから、自分自身でももちろんない。そうすると……)
誰かに面影が似ているこの男――光秀の望んだものを、孔明は弾き出した。
「あなたが大切に想った、今現在の日本をどのように思いますか?」
(あなたは人間として生きていた時から、神と同じ心と目線で、未来を見て行動をした方だ)
聖獣隊の瑠璃色のマントが微かに揺れて、光秀は少しだけ微笑んだ。
「あなたは頭の優れた方だ」
だが、すぐに真摯な眼差しに戻った。
「ですが、私は人です。神ではありません。あの時代に生きた一人の人間として、今の未来まで予測できたのは、神のお力添えです」
素晴らしい頭脳を見せていただいた礼として、光秀は今会ったばかりの男――孔明にだけ聞こえるように言った。
「天下などどうでもよかった――。ただ弱き者たちも何もかもが平等で平穏に暮らせる日を願っただけです」
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