明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

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最後の恋は神さまとでした

翻弄される結婚と守護/4

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 恋人がいなくても、おまけの倫礼には寂しさも焦りもなく、とても平穏だった。どんな時でもすぐそばに、心からつながっている蓮がそばにいたからだ。何があっても永遠に別れないパートナーがいた。

 そんな日々の中で、兄弟も増えて、おまけの倫礼のそばには、小さな子供たちもよくくるようになった。

 彼女は持ち前の空想癖を爆発させて、パソコンへ文字を打ち込むスピードは、晴れ渡る草原を全力で駆け抜けてゆくように快速だった。

「ん~? そうだなあ~。考古学を学ばないと、この小説は書けないから、よし、これをあとであろう」

 未来を読み取れる守護神――蓮は背後にあるソファーに座り、鋭利なスミレ色の瞳で射殺すように、おまけの倫礼の背中を見ていた。

「あとでやる必要はない。それを書くことはこの先ないからな。まぁ、精神的には今は普通だから言うことはないが……!」

 いつもなら華麗に足を組むはずだったが、蓮はなぜかできないでいた。活火山が密かに地底深くでぐつぐつと煮えたぎるような怒りを覚える。

 口数の少ない神だからこそ、話しかけないと、いるのかいないのかさえわからない。おまけの倫礼は物事に集中しやすく、なおさら蓮という存在を忘れがちだった。

 鋭利なスミレ色の瞳には、人間の女の後ろ姿がしばらく映っていたが、振り返ることはなかった。

 ふと手を止めて、倫礼はキーボードから身を引いた。

「あれ? そういえば、蓮の姿を見て――!」

 前を向いたまま、霊感の視界だけを背後へ回す。そこで見た光景に、倫礼は驚愕して悲鳴を上げた。

「きゃあああぁぁっ!?!?」

 本を広げているイケメンの、綺麗な眉が怒りでピクついていた。倫礼は大きく開けた口に両手を当てる。

「二歳の三つ子の菖蒲あやめあざみ華灯かがりが……蓮に乗ってる~~!」

 先日生まれたばかりの弟たちが、婿養子を占領していた。蓮の持っている本は、怒りでプルプルと震えている。

(俺は本が読みたいんだがな……。くそっ! ガキはなぜ俺に寄ってくる?)

 倫礼は驚きすぎて、あたふたしながら見当違いなことを考えていた。

「頭に乗ってるのは誰? 肩に乗ってるのは誰? もたれかかって寝てるのは誰?」

 しかし、三つ子の弟など、やっと大人の神さまが見えるようになった、弱い霊感では見分けることなどできるはずもなく、火山噴火をかろうじて抑えている蓮を見つけて、人間である女は、神である男に手を自然と差し伸べた。

 椅子から立ち上がって、蓮から弟たちを抱き上げて、小さな頭を優しくなでてゆく。

「みんなおいで、お兄ちゃん本読みたいからね。お姉ちゃんが一緒に遊ぶよ」

 弟たちはくりっとした瞳で姉を見て、嬉しそうに微笑んだ。

「んん~っ♪」
「よしよし」

 可愛いと、おまけの倫礼は素直に思う。自分の膝に乗せて、パソコンの作業をまた再開し始めた。

 自分のように、人の心の声が聞こえるわけでもないのに、本を読めるようにして、願いを叶えていった、人間の女の後ろ姿を、蓮は不思議そうな顔で見つめた。

「なぜ、おまけのくせに俺の気持ちがわかった?」

 おまけとは違って、勘など持っていない蓮は自分なりの答えをすぐに見つけ、無理やり納得しようとする。

「偶然、そうだ。それしかない」

 超不機嫌は無邪気な笑みに変わってゆき、

(だがしかし、気分がいい。なぜだかわからないが……)

 神の心は羽が生えたみたいに軽くなり、本を小脇に抱えて部屋から出ていった。蓮が完全にいなくなったのを待って、倫礼も笑顔に変わる。

「怒ったから、ヴァイオリン弾きに行ったんだね。子供だな、小さい子に左右されてるなんて、まぁ、そこが可愛いと思うけど……」

 ピンと張り詰めた空気を漂わせながら、水の糸のような繊細でいて、荘厳なヴァイオリンの音が聞こえてきた。しかし、おまけの倫礼は首を傾げる。

「あれ? いつもの超不機嫌な三拍子の早い曲じゃない。スキップするような曲だ。何かいいことあったのかな?」

 伝染するように、倫礼は右に左に揺れて、美しい旋律に身を任せる。

「まぁ、いいか。幸せだ、自分は。好きな人がいて、その人と結婚してて、兄弟がこうして生まれてくる」

 隣の部屋の物音にビクッと驚くようなボロアパートの住まいで、独り身の暮らし。それでも、彼女は自然と笑みをこぼれる。

「現実は違っても……。ううん、私には見えない世界が現実だ。だから、とても幸せなんだ。一人じゃない」

 何かで寂しさを紛らわすでもなく、誰かに頼るでもなく、おまけの倫礼は目の前に起きることを前向きに解釈して乗り切ってゆく。

 泣かない日がないと言ったら嘘になるが、彼女は必ず一人で壁を乗り越えて、前向きに進んでゆく。

 かっこよく最初からはできないないが、踏まれても踏まれても元気に生え続ける雑草のようにあきらめることは何もなかった。
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