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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
Disturbed information/7
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スパーのかちゃかちゃという音と、カツンカツンと尖ったそれが交代と言うようにすれ違うと、国立と入れ替わりに、女らしい体の曲線美が思いっきり出た、マーメイドラインの黒いドレスが、元の前に輪郭をすうっと現した。
頭までかけられた涅色のレースは背中を覆い、足元まであった。それを引きずる形で、ヒールを鳴らしながら、元が拘束されている牢屋の鉄格子の近くまで歩み出た。
元が顔を上げたそこにいたのは、天使でもシスターでもなく、魔術師のような怪しい女だった。
頭に金のチェーンが円を描き、ひたいの真正面に十字架のヘッドが下がっていた。口元は黒い布で隠され、元から見えるのは目元だけ。いかにも占い師みたいな女は、まるで別世界を見るような焦点の合わない瞳をした。
「それでは見ます」
元は鉄格子から離れた場所で、視線を落ち着くなく彷徨わせる。
「え、えぇっ!? な、何をですか?」
国立と話している時よりも、ディープにスピリチュアルな世界へと入ってしまって、容疑者の意見はスルーしたままことは進んでゆく。
「過去世と魂です」
「はい……?」
元は顔を不思議そうに突き出した。
「こちらへきてください」
女性的なラインの見える黒い服を着ている女に手招きされて、元は警戒心を弱めた。
(女なら大丈夫か)
国立と違って、物を蹴ったり投げつけたりもせず、元は見た目で人を判断して、にっこり微笑んで軽くうなずいた。
「わかりました」
鉄格子へ足取り軽やかに近づていった。目元しか見えない女はくぐもった声で断りを入れる。
「肩に触れます」
「はい……」
女は片手で元の肩に触れると、目をすうっと閉じ、聖霊師として霊視を始めた。静かで重い時間が、気が遠くなるほどの長さで過ぎていった。
*
聖霊師の事情徴収が終わると、調査資料に記入する。そうして、次の聖霊師を元のところへ連れていき、国立は席をはずすを何度も繰り返し、逮捕から二日目の夕方を迎えていた。
待ち時間――。不浄な聖霊寮の回転椅子に浅く座り、心霊刑事は組んだ両足を机の上にどさっと乱暴に乗せた。カウボーイハットを頭にかぶせ、昼寝をするように目を閉じ、真っ暗な視界で思い返す。
(恩田に会って、フィーリングしたんだけどよ。今回の件は今までのヤマん中でワーストだ。がよ、それが何なのか――)
関係ないはずの寮の空気までが、深い谷底へ落とすようにまとわりついてくるようだった。あえていうなら、人の憎悪が渦巻く地獄への底という名が相応しかった。
国立は浅い妄想へ落とされた――。真っ赤な血の池に真っ逆さまに沈んでゆく。はい上がろうともがいでも、足を下から引っ張られ、それを振り切っても上から押さえつけられる。逃げ場のない血生臭い――
そこで、バタバタと近づいてくる足音とともに、若い男の声が割って入ってきた。
「――兄貴、大変っす!」
「あぁ?」
帽子を手でつかみ取り、血の池から正常な日常へ戻った。ブルーグレーの鋭い眼光の先には、いつも自分を慕ってくれる二十代前半の男が立っていた。
「恩田 元の……」
そこまで言って、若い男は国立の耳元でそっと告げた。内容は短かったが、心霊刑事は暮れゆく、窓からのオレンジ色の空を見上げて、珍しく盛大にため息をついた。
「……遅かったのか?」
国立は気づくと、水辺に座っていた――。見渡す限り真っ赤な彼岸花が血のように咲き乱れている。
奥にある平屋の縁側で、破れた障子戸に力なくもたれかかり、口から血を大量に流し倒れている女が傀儡のように座っていた。
節々のはっきりした手で、藤色の短髪をガシガシをかき上げる。どうもさっきからあの世に引き込まれ気味の精神を呼び戻すように。
「あの女、常世に向かって、カウントダウンに入ってやがる……」
頭までかけられた涅色のレースは背中を覆い、足元まであった。それを引きずる形で、ヒールを鳴らしながら、元が拘束されている牢屋の鉄格子の近くまで歩み出た。
元が顔を上げたそこにいたのは、天使でもシスターでもなく、魔術師のような怪しい女だった。
頭に金のチェーンが円を描き、ひたいの真正面に十字架のヘッドが下がっていた。口元は黒い布で隠され、元から見えるのは目元だけ。いかにも占い師みたいな女は、まるで別世界を見るような焦点の合わない瞳をした。
「それでは見ます」
元は鉄格子から離れた場所で、視線を落ち着くなく彷徨わせる。
「え、えぇっ!? な、何をですか?」
国立と話している時よりも、ディープにスピリチュアルな世界へと入ってしまって、容疑者の意見はスルーしたままことは進んでゆく。
「過去世と魂です」
「はい……?」
元は顔を不思議そうに突き出した。
「こちらへきてください」
女性的なラインの見える黒い服を着ている女に手招きされて、元は警戒心を弱めた。
(女なら大丈夫か)
国立と違って、物を蹴ったり投げつけたりもせず、元は見た目で人を判断して、にっこり微笑んで軽くうなずいた。
「わかりました」
鉄格子へ足取り軽やかに近づていった。目元しか見えない女はくぐもった声で断りを入れる。
「肩に触れます」
「はい……」
女は片手で元の肩に触れると、目をすうっと閉じ、聖霊師として霊視を始めた。静かで重い時間が、気が遠くなるほどの長さで過ぎていった。
*
聖霊師の事情徴収が終わると、調査資料に記入する。そうして、次の聖霊師を元のところへ連れていき、国立は席をはずすを何度も繰り返し、逮捕から二日目の夕方を迎えていた。
待ち時間――。不浄な聖霊寮の回転椅子に浅く座り、心霊刑事は組んだ両足を机の上にどさっと乱暴に乗せた。カウボーイハットを頭にかぶせ、昼寝をするように目を閉じ、真っ暗な視界で思い返す。
(恩田に会って、フィーリングしたんだけどよ。今回の件は今までのヤマん中でワーストだ。がよ、それが何なのか――)
関係ないはずの寮の空気までが、深い谷底へ落とすようにまとわりついてくるようだった。あえていうなら、人の憎悪が渦巻く地獄への底という名が相応しかった。
国立は浅い妄想へ落とされた――。真っ赤な血の池に真っ逆さまに沈んでゆく。はい上がろうともがいでも、足を下から引っ張られ、それを振り切っても上から押さえつけられる。逃げ場のない血生臭い――
そこで、バタバタと近づいてくる足音とともに、若い男の声が割って入ってきた。
「――兄貴、大変っす!」
「あぁ?」
帽子を手でつかみ取り、血の池から正常な日常へ戻った。ブルーグレーの鋭い眼光の先には、いつも自分を慕ってくれる二十代前半の男が立っていた。
「恩田 元の……」
そこまで言って、若い男は国立の耳元でそっと告げた。内容は短かったが、心霊刑事は暮れゆく、窓からのオレンジ色の空を見上げて、珍しく盛大にため息をついた。
「……遅かったのか?」
国立は気づくと、水辺に座っていた――。見渡す限り真っ赤な彼岸花が血のように咲き乱れている。
奥にある平屋の縁側で、破れた障子戸に力なくもたれかかり、口から血を大量に流し倒れている女が傀儡のように座っていた。
節々のはっきりした手で、藤色の短髪をガシガシをかき上げる。どうもさっきからあの世に引き込まれ気味の精神を呼び戻すように。
「あの女、常世に向かって、カウントダウンに入ってやがる……」
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