明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

血塗られた夜の宴/4

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 順調に会話は進んでいるように思えたが、全てを記憶する策略家には事実に大きなズレが生じていた。

「…………」

 聖霊師をひとり置き去りにして、天使と聖女で話は続いてゆく。

「ラジュ、何をじゃ?」
「こちらへ手を伸ばしてほしいと言ったんですが……」
「崇剛、お主、何をしとるのじゃ?」

 若草色の瞳は濃い緑色の瞳となっていた。未だ優雅な笑みは崩れないまま、崇剛の遊線が螺旋を描く芯のある声が薄闇に舞う。

「どのような意味ですか? そちらの言葉は」

 疑問形に疑問形を投げかけ、相手からの要求を無効化した。そうして、返事を待った。

「…………」

 生暖かい風が何度か吹いたが、誰も返してこなかった。崇剛はほんの一、二秒のこの時間に、出来事を一度整理した。
 
 問いかけたのに、誰も何も言ってこない。
 おかしい――。
 私が問いかけて、ラジュ天使と瑠璃が何も返してこないという可能性は6.43%――
 コミニュケーションの取れない方々ではありません。

 いつでもどんな時でも、三十二年間ずっと、この三人でやってきたのだ。会話の流れもデジタルに記憶している。

 瑠璃がした『お主、何しに参ったのだ?』の質問。
 そちらへ対しての返答で、ラジュ天使が口にする可能性が一番高い言葉は――
 『今日は、〇〇で、瑠璃さんを手中に収めようかと思いましてね?』です。

 聖女は天使に百年間ずっと口説かれっぱなしで、崇剛が罠を仕掛けて聞き出そうとするたび、少女は憤慨して地団駄を踏むのだ。それを見るのが、崇剛の趣味のひとつなのである。

 従って、今目の間にいる瑠璃も偽物であるという可能性が87.98%――
 目の前にいる、ラジュ天使が偽物であるという可能性は上がり、85.43%――
 これらから判断して、以下の可能性が、92.34%出てきます。
 彼らは、邪神界の者である――

 急いでいるのに、会話が途切れてしまったことにイラついて、瑠璃が空中で地団駄を踏んで憤慨した。

「遊んでいる場合ではなかろう!」

 幼い少女の声が、死を意味する霊界に鋭く響き渡った。激情という名の獣が暴れ出しそうになったが、冷静な頭脳が氷の刃で見事に押さえ込む。

 涼介が私の気持ちを知ってしまったことで、邪神界の者が作戦の中に、瑠璃を使うという可能性が98.98%――
 さっそく使ってきたみたいです。

 冷酷なほどどこまでもデジタルだったが、自身の守護霊に特別な感情を抱いてしまった、策士の思考回路が少しだけ乱れた。いや、まるで誰かに操られているように0.01の狂いが生じた。

 屋根の上――外に立つ全身白の服を着た男。大きな三日月型の刃物――大鎌が鋭い光を背中で放つ。

 何か重要なことを、必要なデータとして拾い上げないまま、崇剛は敵へと向かってゆく。

 私は彼女を守りたい。
 彼女を……邪神界が狙ってくるという可能性は87.56%――
 そちらの可能性を低くするためには……。
 私ひとりで乗り切れる方法を探し出せばいい。
 
 ここまでの思考時間、約一秒。偽物の瑠璃が遊んでいないで、ラジュの言うことを聞けと言う言葉に、崇剛はこう返す。

「なぜ、そのように思われるのですか?」

 戦うことを決めた聖霊師は、素早く作戦を立ててゆく。

 勝つために必要なもの。
 肉体を持ったままでは、敵に勝てるという可能性は38.76%――
 非常に低い……。
 ですから、先ほどの幽体離脱を使います。
 しかしながら、私だけでは発生させられません。
 ですから、そちらを発生させる方法を考えなくてはいけません。
 
 三日と十一時間十九分三十二秒前。
 すなわち、四月十八日、月曜日、十三時四十三分二十六秒過ぎ。
 旧聖堂の時と同じ方法を使います――

 その時だった、ラジュと瑠璃の間――少し離れた背後に、白い着物を着た女が現れたのは。

 死装束の女――。
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