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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
血塗られた夜の宴/7
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聖なる歌声が同じメロディーラインを、音ひとつひとつを絶妙に強調しながらリピートしてゆく。
Nunc obdurat/今は無情に。
Et tunc curat/そして、癒され。
Ludo mentis aciem/魂の目に戯れを。
Egestatem/貧困さえ。
Potestatem/権力さえ。
Dissolvit ut glaciem/氷のごとく溶かしさる。
運動を普段からあまりしない崇剛だが、なぜかいつもより――いややったことのない動き――片手で芝生に一度バウンドし、姿勢を立て直して両足から地面に優雅に着地してみせた。
相手がふたりだけとは限らないという可能性が非常に高い――
そちらのように思っていましたよ。
急に重力をほとんど感じなくなった崇剛の腰元には、物質界のダガーはなく、鞘のみが下がっていた。
霊と同じ戦場に立つために、右手をわざと差し出して肉体と魂を引き離した。それが崇剛の最初の作戦だった。
霊界は心の世界。
すなわち、自身の思ったように、動けるという可能性が非常に高い。
霊界の重力は、物質界の十五分の一。
従って、普段できないことができる……という可能性が非常に高い。
私は、こちらの情報を欲しかったのかもしれませんね。
お笑いでいうところの、前振りでしょうか――。
冷静さは持っていても、崇剛は決して保守的ではなかった。心霊刑事――国立と互角と言えるほどフットワークは軽かった。
ラジュと瑠璃は崇剛と同じ場所――地面へ降りてきて、ゆらゆらと姿を揺らしたと思うと、まったく違う姿形になった。
(やはり、偽物だったみたいです)
優雅に微笑み、崇剛は左手に持っていたダガーを、右へ二度取る仕草をして、三本に分身させた。
ひとつを鞘へスマートにしまい、二本を左右の手にそれぞれ握って、千里眼を使ってダガーの軌跡を読む――。
(そうですね、こちらでしょうか)
目の前にいる悪霊ふたりに向かって、左右の手を中央へ寄せるようにして、ダガーを投げ放った。
「ギャァー!!」
ふたつの青白い幽霊は隣り合わせでくっついたまま、崇剛から猛スピードで離れ始めた。
ズバン!
同時に庭の樫の木に刺さった時、後ろから襲いかかったもうひとりの悪霊に、崇剛の右手は自由を奪われた。
ダガーを抜く暇はなく、冷静な水色の瞳がついっと細められる。
(こちらはいかがでしょうか?)
やったことのない動きが再現できるかの情報を手に入れようとしている策略家。少しだけ上半身を前へかがめると、紺の後れ毛が崇剛の神経質な頬を、重力に逆えずするっとなでた。
左足だけで地面に立ち、反対側の足を芝生から離しざまに、後ろへ向かって素早く上げた。
国立が牢屋を後ろ蹴りしたように、膝を伸ばして足の平を背後へ勢いよく押し出した。幽霊の腹に崇剛のかかとがめり込み、ロングブーツの先でバックキックが見事に決まり、
「グハッ!」
地面の上で土煙を起こしながら、悪霊が吹き飛んでゆく。屋敷の壁――瑠璃とラジュが張った結界に、
ドジャーン!
と派手にぶつかって、衝撃で悪霊は一度壁から弾み、
「グフッ!」
そのまま、地面にどさっと崩れ落ちた。優雅な神父は横目でそれを見て、嫌悪感にも似た違和感を覚える。
「慣れませんね、足で人を蹴るというのは……」
崇剛の細い足が芝生の上へ戻ると、瑠璃色の上着の裾も地面と垂直になるように揺れ動き止まった。
樫の木に未だ宙吊りになっている幽霊たち。そこから風船のように黒い影が浮かび上がっているのを、冷静な水色の瞳に映す。
(邪神界であるという事実として、100%確定です――)
Nunc obdurat/今は無情に。
Et tunc curat/そして、癒され。
Ludo mentis aciem/魂の目に戯れを。
Egestatem/貧困さえ。
Potestatem/権力さえ。
Dissolvit ut glaciem/氷のごとく溶かしさる。
運動を普段からあまりしない崇剛だが、なぜかいつもより――いややったことのない動き――片手で芝生に一度バウンドし、姿勢を立て直して両足から地面に優雅に着地してみせた。
相手がふたりだけとは限らないという可能性が非常に高い――
そちらのように思っていましたよ。
急に重力をほとんど感じなくなった崇剛の腰元には、物質界のダガーはなく、鞘のみが下がっていた。
霊と同じ戦場に立つために、右手をわざと差し出して肉体と魂を引き離した。それが崇剛の最初の作戦だった。
霊界は心の世界。
すなわち、自身の思ったように、動けるという可能性が非常に高い。
霊界の重力は、物質界の十五分の一。
従って、普段できないことができる……という可能性が非常に高い。
私は、こちらの情報を欲しかったのかもしれませんね。
お笑いでいうところの、前振りでしょうか――。
冷静さは持っていても、崇剛は決して保守的ではなかった。心霊刑事――国立と互角と言えるほどフットワークは軽かった。
ラジュと瑠璃は崇剛と同じ場所――地面へ降りてきて、ゆらゆらと姿を揺らしたと思うと、まったく違う姿形になった。
(やはり、偽物だったみたいです)
優雅に微笑み、崇剛は左手に持っていたダガーを、右へ二度取る仕草をして、三本に分身させた。
ひとつを鞘へスマートにしまい、二本を左右の手にそれぞれ握って、千里眼を使ってダガーの軌跡を読む――。
(そうですね、こちらでしょうか)
目の前にいる悪霊ふたりに向かって、左右の手を中央へ寄せるようにして、ダガーを投げ放った。
「ギャァー!!」
ふたつの青白い幽霊は隣り合わせでくっついたまま、崇剛から猛スピードで離れ始めた。
ズバン!
同時に庭の樫の木に刺さった時、後ろから襲いかかったもうひとりの悪霊に、崇剛の右手は自由を奪われた。
ダガーを抜く暇はなく、冷静な水色の瞳がついっと細められる。
(こちらはいかがでしょうか?)
やったことのない動きが再現できるかの情報を手に入れようとしている策略家。少しだけ上半身を前へかがめると、紺の後れ毛が崇剛の神経質な頬を、重力に逆えずするっとなでた。
左足だけで地面に立ち、反対側の足を芝生から離しざまに、後ろへ向かって素早く上げた。
国立が牢屋を後ろ蹴りしたように、膝を伸ばして足の平を背後へ勢いよく押し出した。幽霊の腹に崇剛のかかとがめり込み、ロングブーツの先でバックキックが見事に決まり、
「グハッ!」
地面の上で土煙を起こしながら、悪霊が吹き飛んでゆく。屋敷の壁――瑠璃とラジュが張った結界に、
ドジャーン!
と派手にぶつかって、衝撃で悪霊は一度壁から弾み、
「グフッ!」
そのまま、地面にどさっと崩れ落ちた。優雅な神父は横目でそれを見て、嫌悪感にも似た違和感を覚える。
「慣れませんね、足で人を蹴るというのは……」
崇剛の細い足が芝生の上へ戻ると、瑠璃色の上着の裾も地面と垂直になるように揺れ動き止まった。
樫の木に未だ宙吊りになっている幽霊たち。そこから風船のように黒い影が浮かび上がっているのを、冷静な水色の瞳に映す。
(邪神界であるという事実として、100%確定です――)
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