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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
血塗られた夜の宴/9
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崇剛が悪霊を封じる場所は、背後にある屋敷の壁と前方にある樫の木だけ。庭での戦闘で空間をさえぎるものがなく、かなり不利な戦場と化していた。
次々に放つダガーからの反動で、ターコイズブルーのリボンでもたつかせて結んでいた、紺の髪が背中にぶつかっては離れるを繰り返す。
後れ毛が神経質な頬に、艶やかに絡みつくがそれを振り払う暇もなかった。
(困りましたね。数が多すぎます。私ひとりでは対応できないかもしれません)
戦闘に参加せず、未だ上空に儚げに浮かんでいる、死装束の女を上目遣いに見た。
(これほどの人数が関係しているというのは、通常では考えられません。過去世で何があったのでしょう?)
腰に刺してあるダガーひとつを残して、左右両方の短剣で悪霊を刺し、体を左にひねり、屋敷の壁と樫の木と両方へ向かって、それぞれ左右一直線に同時に離し、武器がちょうど手の中になくなった。
その時、不意に左側から突風が吹いてきた。崇剛はそれを防ぐために、左腕で反射的に顔を覆う。
その動きと風の力で、瑠璃色の貴族服の裾が舞い上がり、聖なるダガーが薄闇に鈍い光を放ちながら、くっきりと輪郭を表した。
嵐の前の静けさのように、同じメロディーをさっきからずっと続けている聖なる歌声。
Obumbrata/陰に隠れて。
Et velata/ベールで覆われ。
Michi quoque niteris/月影は重くのしかかり。
Nunc per ludum/今は戯れに。
Dorsum nudum/赤裸な重荷に。
Fero tui sceleris/感情に流されず 悪に立ち向かえ。
静かで小刻みな調べが終わり、変化をもたらそうとした時、左腰に異変を感じた。それを見極めようと、崇剛は左に体をねじる。
顔をかばっていた腕を下ろそうとして、冷静な水色の瞳に映ったのは、後ろ蹴りしただけで、地面に伸びていた悪霊が気を取り戻した姿だった。
密かに背中まで近づいてきていて、青白い手が聖なるダガーの柄を握っていたのだ。
――赤い目をルビーのように月影にきらめかせている男が予測していたように、オリジナルのダガーは敵の手に渡りそうになって、崇剛に危機がやってきてしまった。
「そう」
無機質なほど無表情のまま、男は機会がめぐってきたというように、大鎌を頭上高くにかかげた。
崇剛は腰元へ慌てて手を落としたが、柄にかすかにかすった刹那、無情にも武器は敵へ持っていかれた。
(斬られる……!)
悪霊のダガーを持つ手は勢いよく振り上げられ、切り裂くように下され始める。
自分へ向かってくるダガーの刃の鋭い光を、冷静な水色の瞳いっぱいに映しながら、精巧な頭脳の持ち主はそれでも、焦ることなく、感情に流されることなく、迫りくる事実と対峙する。
カラになってしまったダガーの鞘を感じながら、天文学的数字の膨大なデータを脳裏に流しつつ、今必要なデータを抜き出す。
(国立氏の趣味。瑠璃の現れ方。これらから判断して、そちらの方法が勝つという可能性が非常に高い!)
全てを記憶する頭脳を駆使して、肉体を持っている時には決してできない動きを弾き出した。
ダガーを振り下ろそうとしていた幽霊の前にあった、線の細い崇剛の背中は一瞬にして消えた。
悪霊がキョロキョロしていると、その後ろに優雅に微笑んでいる策略家が、ロングブーツの足をクロスする寸前の、細身をさらに強調させるような出で立ちで、すうっと現れた。
風が横へ吹き抜け、紺の長い髪がサラサラと斜めに泳ぐ。
(瑠璃の動き、瞬間移動です。さらに……)
貴族服を着た崇剛は両手を握って、ボクサーのように胸の前で構えた。すると、神経質な指には太いシルバーリングが輪郭を表した。拳にはめて使う武器――ナックルダスターを思わせる金属たちが六つ。
水色の瞳はデジタルに冷静という色を失くし、鋭い眼光にとって変わった。崇剛は鼻でふっと笑い、口の端を歪めて吐き捨てるように言う。
「――れで、ノックアウトってか?」
次々に放つダガーからの反動で、ターコイズブルーのリボンでもたつかせて結んでいた、紺の髪が背中にぶつかっては離れるを繰り返す。
後れ毛が神経質な頬に、艶やかに絡みつくがそれを振り払う暇もなかった。
(困りましたね。数が多すぎます。私ひとりでは対応できないかもしれません)
戦闘に参加せず、未だ上空に儚げに浮かんでいる、死装束の女を上目遣いに見た。
(これほどの人数が関係しているというのは、通常では考えられません。過去世で何があったのでしょう?)
腰に刺してあるダガーひとつを残して、左右両方の短剣で悪霊を刺し、体を左にひねり、屋敷の壁と樫の木と両方へ向かって、それぞれ左右一直線に同時に離し、武器がちょうど手の中になくなった。
その時、不意に左側から突風が吹いてきた。崇剛はそれを防ぐために、左腕で反射的に顔を覆う。
その動きと風の力で、瑠璃色の貴族服の裾が舞い上がり、聖なるダガーが薄闇に鈍い光を放ちながら、くっきりと輪郭を表した。
嵐の前の静けさのように、同じメロディーをさっきからずっと続けている聖なる歌声。
Obumbrata/陰に隠れて。
Et velata/ベールで覆われ。
Michi quoque niteris/月影は重くのしかかり。
Nunc per ludum/今は戯れに。
Dorsum nudum/赤裸な重荷に。
Fero tui sceleris/感情に流されず 悪に立ち向かえ。
静かで小刻みな調べが終わり、変化をもたらそうとした時、左腰に異変を感じた。それを見極めようと、崇剛は左に体をねじる。
顔をかばっていた腕を下ろそうとして、冷静な水色の瞳に映ったのは、後ろ蹴りしただけで、地面に伸びていた悪霊が気を取り戻した姿だった。
密かに背中まで近づいてきていて、青白い手が聖なるダガーの柄を握っていたのだ。
――赤い目をルビーのように月影にきらめかせている男が予測していたように、オリジナルのダガーは敵の手に渡りそうになって、崇剛に危機がやってきてしまった。
「そう」
無機質なほど無表情のまま、男は機会がめぐってきたというように、大鎌を頭上高くにかかげた。
崇剛は腰元へ慌てて手を落としたが、柄にかすかにかすった刹那、無情にも武器は敵へ持っていかれた。
(斬られる……!)
悪霊のダガーを持つ手は勢いよく振り上げられ、切り裂くように下され始める。
自分へ向かってくるダガーの刃の鋭い光を、冷静な水色の瞳いっぱいに映しながら、精巧な頭脳の持ち主はそれでも、焦ることなく、感情に流されることなく、迫りくる事実と対峙する。
カラになってしまったダガーの鞘を感じながら、天文学的数字の膨大なデータを脳裏に流しつつ、今必要なデータを抜き出す。
(国立氏の趣味。瑠璃の現れ方。これらから判断して、そちらの方法が勝つという可能性が非常に高い!)
全てを記憶する頭脳を駆使して、肉体を持っている時には決してできない動きを弾き出した。
ダガーを振り下ろそうとしていた幽霊の前にあった、線の細い崇剛の背中は一瞬にして消えた。
悪霊がキョロキョロしていると、その後ろに優雅に微笑んでいる策略家が、ロングブーツの足をクロスする寸前の、細身をさらに強調させるような出で立ちで、すうっと現れた。
風が横へ吹き抜け、紺の長い髪がサラサラと斜めに泳ぐ。
(瑠璃の動き、瞬間移動です。さらに……)
貴族服を着た崇剛は両手を握って、ボクサーのように胸の前で構えた。すると、神経質な指には太いシルバーリングが輪郭を表した。拳にはめて使う武器――ナックルダスターを思わせる金属たちが六つ。
水色の瞳はデジタルに冷静という色を失くし、鋭い眼光にとって変わった。崇剛は鼻でふっと笑い、口の端を歪めて吐き捨てるように言う。
「――れで、ノックアウトってか?」
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