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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
心霊探偵と心霊刑事/8
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国立はいつの間にか、絶壁の下にある海でひとりもがいていた――。
沈むでも浮かぶでもなく、中途半端なまま、海面に顔を出しては沈んで、溺れるかと思う寸前でまた浮かび上がって、息苦しく蛇の生殺しだと、ひとり唾を吐く。
「神さんがわざと、心を変えさせなかったって話だったよな。エジプト王がモーセの解放断ったのってよ?」
そんな溺れそうな国立を眺めながら、砂浜に優雅にたたずみ、首にかけたロザリオを握りしめ、中性的な半開きの唇で口づけした神父は、慈愛の笑みを浮かべた。
「そうかもしれませんね」
岸へ上がれば、溺れるという苦しみからは逃げられるが、この物腰が上品な男にまたしてやられるのだ。
腰元に挿してある、心にまで届く聖なるダガーで心身ともにズタボロにされ、断崖絶壁から傷口に塩水がしみる海へと、冷酷にも突き落とされるのだ。
弱みを握られるとはまさにこのことだ。無抵抗のまま何度もノックアウトされ、真っ逆さまに海へと落ちてゆく――
気づくと、国立は聖霊寮のソファーに浅く座り、さっき見た男が目の前に足を組んで優雅に座っているのだった。
視線だけははずしてやるものかと、冷静な水色の瞳を真っ直ぐ見つめたまま、国立はぼそっと言った。
「いいぜ……見やがれ」
罠はもう過ぎたことなのだ。崇剛は事件に集中する。
「そうですか、それでは失礼――」
千里眼のメシアを開く。様々な音や映像が割り込んでくる。そうして、きちんとエチケットを守ろうとした。
(心は見ませんよ。恩田 元を逮捕した時の場面だけを見ます)
恩田堂の扉が、シルバーリング三つをつけた手で開けられ、いつもよりも高い視界――国立に完全に崇剛が重なり合って、早回しで逮捕する場面が次々と記録されていき、心霊刑事が店から出たところで、千里眼のチャンネルを切った。
「――終わりましたから、もう構いませんよ」
あごに手を当て、今はもう生きていない千恵の真剣な瞳をもう一度、脳裏で一時停止する。
『あなたを信じています、どのような状況になろうとも……』
何の穢れもない言葉に、崇剛には聞こえた。だからこそ、そこに事実が隠されていると踏み、推し量る。
逮捕時に言っています。
心の声とのズレはなし。
本当の言葉です。
問題は、どのような状況がどちらを指しているかで意味が違ってきます。
邪神界であったとしても信じているのか。
それとも、別のことであっても信じているのか。
どちらなのでしょう?
千里眼で見られるという珍事に出くわした心霊刑事は緊張から解放され、ローテーブルからウェスタンブーツの足を抜き取り、男らしく足を開いて座り直した。
体の内側を蛇に全て舐められたような、何とも言えない不快感だったが、国立は平気な顔で、
「何かわかったか?」
「今のところは何とも言えませんが、千恵さんの首のアザは直接、霊が手を下したものではないかもしれません」
首回りにべったりとついていたアザ。国立に聞かれ、両手をやって隠そうとしても、いくつもついていて、骨董屋の埃が光り踊る中で、やけに不吉に浮き彫りになっていた。
審神者ができない以上、この場では何もかもが不確定。国立と崇剛の見解に違いが出て、身を乗り出した。
「あぁ?」
「白血病の症状のひとつ――皮下出血みたいです」
「そうか」
自分のデスクで見た幻想を思い出す。座敷の障子戸に傀儡のようにもたれかかる、女の口から大量の血が流れていたのを。
あの時気づいたとしても、医者がほとんどいないこの時代に、何ができたのだと、中途半端な霊感は、心をやけにささくれ立たせる。
と、国立は苛立ちながら、ぽろっと灰が床へ落ちたのを視線で追った。崇剛は最後の青白い煙を口へ招き入れて、灰皿へ葉巻を置いた。
「夢の話は聞いていませんか?」
他の聖霊師が知らなかった情報を、簡単に持ち出してきた崇剛。一目置いてあるだけ、芸術的な手口はいつでも健在で、国立は楽しそうに鼻で笑う。
「恩田の野郎、泳がせて正解だったな。聞き出したぜ」
「どのような内容だったか順番を違えず、教えていただけませんか?」
沈むでも浮かぶでもなく、中途半端なまま、海面に顔を出しては沈んで、溺れるかと思う寸前でまた浮かび上がって、息苦しく蛇の生殺しだと、ひとり唾を吐く。
「神さんがわざと、心を変えさせなかったって話だったよな。エジプト王がモーセの解放断ったのってよ?」
そんな溺れそうな国立を眺めながら、砂浜に優雅にたたずみ、首にかけたロザリオを握りしめ、中性的な半開きの唇で口づけした神父は、慈愛の笑みを浮かべた。
「そうかもしれませんね」
岸へ上がれば、溺れるという苦しみからは逃げられるが、この物腰が上品な男にまたしてやられるのだ。
腰元に挿してある、心にまで届く聖なるダガーで心身ともにズタボロにされ、断崖絶壁から傷口に塩水がしみる海へと、冷酷にも突き落とされるのだ。
弱みを握られるとはまさにこのことだ。無抵抗のまま何度もノックアウトされ、真っ逆さまに海へと落ちてゆく――
気づくと、国立は聖霊寮のソファーに浅く座り、さっき見た男が目の前に足を組んで優雅に座っているのだった。
視線だけははずしてやるものかと、冷静な水色の瞳を真っ直ぐ見つめたまま、国立はぼそっと言った。
「いいぜ……見やがれ」
罠はもう過ぎたことなのだ。崇剛は事件に集中する。
「そうですか、それでは失礼――」
千里眼のメシアを開く。様々な音や映像が割り込んでくる。そうして、きちんとエチケットを守ろうとした。
(心は見ませんよ。恩田 元を逮捕した時の場面だけを見ます)
恩田堂の扉が、シルバーリング三つをつけた手で開けられ、いつもよりも高い視界――国立に完全に崇剛が重なり合って、早回しで逮捕する場面が次々と記録されていき、心霊刑事が店から出たところで、千里眼のチャンネルを切った。
「――終わりましたから、もう構いませんよ」
あごに手を当て、今はもう生きていない千恵の真剣な瞳をもう一度、脳裏で一時停止する。
『あなたを信じています、どのような状況になろうとも……』
何の穢れもない言葉に、崇剛には聞こえた。だからこそ、そこに事実が隠されていると踏み、推し量る。
逮捕時に言っています。
心の声とのズレはなし。
本当の言葉です。
問題は、どのような状況がどちらを指しているかで意味が違ってきます。
邪神界であったとしても信じているのか。
それとも、別のことであっても信じているのか。
どちらなのでしょう?
千里眼で見られるという珍事に出くわした心霊刑事は緊張から解放され、ローテーブルからウェスタンブーツの足を抜き取り、男らしく足を開いて座り直した。
体の内側を蛇に全て舐められたような、何とも言えない不快感だったが、国立は平気な顔で、
「何かわかったか?」
「今のところは何とも言えませんが、千恵さんの首のアザは直接、霊が手を下したものではないかもしれません」
首回りにべったりとついていたアザ。国立に聞かれ、両手をやって隠そうとしても、いくつもついていて、骨董屋の埃が光り踊る中で、やけに不吉に浮き彫りになっていた。
審神者ができない以上、この場では何もかもが不確定。国立と崇剛の見解に違いが出て、身を乗り出した。
「あぁ?」
「白血病の症状のひとつ――皮下出血みたいです」
「そうか」
自分のデスクで見た幻想を思い出す。座敷の障子戸に傀儡のようにもたれかかる、女の口から大量の血が流れていたのを。
あの時気づいたとしても、医者がほとんどいないこの時代に、何ができたのだと、中途半端な霊感は、心をやけにささくれ立たせる。
と、国立は苛立ちながら、ぽろっと灰が床へ落ちたのを視線で追った。崇剛は最後の青白い煙を口へ招き入れて、灰皿へ葉巻を置いた。
「夢の話は聞いていませんか?」
他の聖霊師が知らなかった情報を、簡単に持ち出してきた崇剛。一目置いてあるだけ、芸術的な手口はいつでも健在で、国立は楽しそうに鼻で笑う。
「恩田の野郎、泳がせて正解だったな。聞き出したぜ」
「どのような内容だったか順番を違えず、教えていただけませんか?」
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