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ベッドに誘って
武術で解決:夕霧命の場合
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結局のところ、神様からの電話――ひらめきは今日もなかった。ショットグラスを一気飲みし、颯茄は唇を手の甲で拭く。
「ぷはーうまい。酒はやっぱりいいなあ」
「くっ!」
颯茄は椅子の上でいきなり、詰まるような声を出し、一瞬だけ動きを止めた。こんなことをするのは一人しかいない。彼女は恨めしそうな目で、後ろに振り返る。
「夕霧さん、今技をかけましたね? 記憶が途切れました」
「軽くかけた」
合気の技をかけたと、夕霧命は言ってのけた。颯茄は酒をまた継ぎ足しながら、
「どうしてそんなことするんですか?」
「お前が凝り固まってるからだ」
「うぐ……。確かにそうですけど、一人で抜けられます、スランプだとしても」
痛いところを突かれて、颯茄は言葉をつまらせたが、それでも言い返した。
「なぜ、頼らん? 夫婦だ」
夕霧命は真っ直ぐ颯茄を見下ろす。彼女は視線を外して、上着の裾を手でいじった。
「音楽をやる人はいますけど、小説を書く人はいません。だから、聞くのはお門違いだと思って」
相談できる人はいない。しかしそれは、颯茄の勘違いだった。
「何をするにも基本は一緒だ」
「丹田と正中線ですね」
いつも夫が言っている言葉。小説にだって使ってきた。
「正中線へと、金の筋が空から入ってきた時、アイディアは浮かぶ。だから、武術にも通じている。俺に話せ」
夕霧には閃きは視覚化されていた。
「『ベッドに誘って』っていうタイトルで、色々考えてるんですが――」
「くくく……」
夕霧命が噛み締めるように突然笑う。
「え、何で笑ってるんですか?」
「やはり夫婦だと思ってだ」
「あ」と小さな声をあげて、颯茄はここ数日のことにやっと合点がいった。
「もしかして、ここのところ毎日、夜に誘われたのって、みんなで何かしてたんですか?」
「貴増参が、『ベッドに誘う』という名目で、それぞれの誘い方をしろと話し出した。だから、俺が最後になる」
「そうか。どうりでみんなそうしてると思ったら」
「ただ、お前を心配してるのは、みんな同じだ」
「みなさん、ありがとうございます。神様にも感謝だ。こんな夫たちと巡り逢わせてくれて」
颯茄は胸の前で十字を切った。
「するか?」
夕霧らしいまっすぐな言葉。颯茄は少し照れたように笑う。
「はい、みんなの優しさなら、します」
「俺の部屋へお姫様抱っこしてやる」
「え!? いいですよ」
らしくないことをする。颯茄は慌て出した。
「遠慮するな」
次の瞬間には、夕霧の両腕の中に、颯茄はすっぽりとおさまっていた。彼女は辺りを見渡して妙に感心する。
「うわ、やっぱり背高いな。視界が高くなった」
「瞬間移動だ」
二人が消え去ると、テーブルの上のショットグラスもなくなった。
夕霧の部屋は和テイストだと思ったが、洋間でベッドに上に静かに降ろされる。間接照明のろうそく揺れるたび、影が遊び出す。
二人は黙って見つめ合ったまま、どちらともなくキスを繰り返していた。
「愛している」
「私もです」
颯茄はとびきりの笑顔で微笑んだ。これで小説が書ける。みんながアイディアを与えてくれた。感謝するばかりだ。
「ぷはーうまい。酒はやっぱりいいなあ」
「くっ!」
颯茄は椅子の上でいきなり、詰まるような声を出し、一瞬だけ動きを止めた。こんなことをするのは一人しかいない。彼女は恨めしそうな目で、後ろに振り返る。
「夕霧さん、今技をかけましたね? 記憶が途切れました」
「軽くかけた」
合気の技をかけたと、夕霧命は言ってのけた。颯茄は酒をまた継ぎ足しながら、
「どうしてそんなことするんですか?」
「お前が凝り固まってるからだ」
「うぐ……。確かにそうですけど、一人で抜けられます、スランプだとしても」
痛いところを突かれて、颯茄は言葉をつまらせたが、それでも言い返した。
「なぜ、頼らん? 夫婦だ」
夕霧命は真っ直ぐ颯茄を見下ろす。彼女は視線を外して、上着の裾を手でいじった。
「音楽をやる人はいますけど、小説を書く人はいません。だから、聞くのはお門違いだと思って」
相談できる人はいない。しかしそれは、颯茄の勘違いだった。
「何をするにも基本は一緒だ」
「丹田と正中線ですね」
いつも夫が言っている言葉。小説にだって使ってきた。
「正中線へと、金の筋が空から入ってきた時、アイディアは浮かぶ。だから、武術にも通じている。俺に話せ」
夕霧には閃きは視覚化されていた。
「『ベッドに誘って』っていうタイトルで、色々考えてるんですが――」
「くくく……」
夕霧命が噛み締めるように突然笑う。
「え、何で笑ってるんですか?」
「やはり夫婦だと思ってだ」
「あ」と小さな声をあげて、颯茄はここ数日のことにやっと合点がいった。
「もしかして、ここのところ毎日、夜に誘われたのって、みんなで何かしてたんですか?」
「貴増参が、『ベッドに誘う』という名目で、それぞれの誘い方をしろと話し出した。だから、俺が最後になる」
「そうか。どうりでみんなそうしてると思ったら」
「ただ、お前を心配してるのは、みんな同じだ」
「みなさん、ありがとうございます。神様にも感謝だ。こんな夫たちと巡り逢わせてくれて」
颯茄は胸の前で十字を切った。
「するか?」
夕霧らしいまっすぐな言葉。颯茄は少し照れたように笑う。
「はい、みんなの優しさなら、します」
「俺の部屋へお姫様抱っこしてやる」
「え!? いいですよ」
らしくないことをする。颯茄は慌て出した。
「遠慮するな」
次の瞬間には、夕霧の両腕の中に、颯茄はすっぽりとおさまっていた。彼女は辺りを見渡して妙に感心する。
「うわ、やっぱり背高いな。視界が高くなった」
「瞬間移動だ」
二人が消え去ると、テーブルの上のショットグラスもなくなった。
夕霧の部屋は和テイストだと思ったが、洋間でベッドに上に静かに降ろされる。間接照明のろうそく揺れるたび、影が遊び出す。
二人は黙って見つめ合ったまま、どちらともなくキスを繰り返していた。
「愛している」
「私もです」
颯茄はとびきりの笑顔で微笑んだ。これで小説が書ける。みんながアイディアを与えてくれた。感謝するばかりだ。
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