明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

文字の大きさ
903 / 967
Dual nature

夢の欠片/5

しおりを挟む
 翌日、七月十七日、水曜日。

 梅雨の合間の晴れ間が、にわか仕込みの夏空に青を放っていた。この色があのマゼンダ色の髪に反射したら、ヴァイオレットになって、今も机の上に突っ伏して寝ている男子高校生を作り出している色のひとつになるのだろうか。

 そんなことを考えていると、颯茄の視線は自然と、月へと向いてしまうのだ。恋とかそういうのではなく、彼女にとっては謎解きだ。月という男子生徒の小宇宙ミクロユニバース

 朝のホームルームが始まってもう少しで数分が経過するが、担任教師は珍しく遅れていて、教室はガヤガヤとしていた。だが、ガラガラと前のドアが開くと、

「静かにしにしろ」

 いつもなら、先生が入ってくれば、静かになるはずのクラスメイト。それが今日は収まることはなく、颯茄のどこかずれているクルミ色の瞳からマゼンダ色の長い髪は消え失せ、教卓が映った。

 するとそこには、背が非常に高く、誰がどう見ても好青年だと太鼓判を押すような青年が立っていた。

「転校生だ。はい、挨拶して」

 結い上げた漆黒の長い髪。春風吹く陽だまりみたいに柔らかに微笑んで、好印象のハキハキとした声が教室に響いた。

「みなさん、初めまして。ボクは安芸あき 孔明こうめいと言います。神主を目指してます。少し他の世界も見たいと思って、この学校へ転校してきました。よろしく」

 女生徒の黄色い声が悲鳴じみて上がった。

「きゃあっ! かっこいい!」

 颯茄はそんな見た目ではなく、別のところに目がいっていた。どこかと問われたら、答えようがないが、誰からも好かれる笑顔をしている孔明をぼんやり眺める。

(何だか不思議な男子だな……)

 ざわついたままの教室で、担任教師が颯茄の隣を指差した。

「席は花水木の隣だ」

 女子生徒の憧れの眼差しを浴びながら、違う制服を着た青年はやってきて、椅子を引きながら、

「よろしくね」

 ふたりの不思議な人物の登場で、颯茄は上の空で頭を軽く下げた。

「あぁ、はい。お願いします」

 孔明は春風みたい柔らかに「ふふっ」と笑って、

「タメ口でいいよ」

 同級生、クラスメイトに丁寧語。颯茄はハッとして、聡明な瑠璃紺色の瞳を初めて見た。

「あぁ、そう……だね」

 だが、すぐに、昨日初めて見たヴァイオレットの瞳を思い出して、マゼンダ色の長い髪を斜め後ろからうかがい始めた。眠り王子の魔法を解いて、月を救う手立てを考えて――

「何見てるの?」

 ふと声をかけられて、颯茄は気づくと、朝のホームルームはとうの昔に終わっていて、一時間目が始まっていた。

 隣で頬杖をついて、穏やかな笑みを向ける孔明と視線が合い、慌ててブラウンの長い髪を横へ振った。

「あぁ、いや、何でもない」
「そう」

 短いうなずきだけが返ってきて、颯茄はまたマゼンダ色の長い髪に興味を惹かれてゆく。何がどうなって、眠りの魔法を王子はかけられて――

「ねぇ、あそこでずっと眠ってる男子って誰?」

 孔明がまた話しかけてきて、颯茄の瞳はマゼンダ色の長い髪と、凛々しい眉の両方を行き来する。

「漆橋 月くん」

 自分の隣に座る女子の視線はずっと廊下側の席に座っている男子に注がれている。冷静さをたもったままで、「そう」と孔明はうなずき、あっけらかんと、

「付き合ってるの?」

 見当違いも甚だしく、颯茄は授業中だということも忘れて、思いっきり聞き返した。

「はぁ?」

 クラスメイトの視線が一気に集中した。数学の教科書を手にした教師から、注意が飛んできて、

「花水木と安芸、静かにしろ」

 孔明は気にした様子もなく、明るくさわやかな返事を返した。

「は~い!」
「すみません」

 颯茄は気まずそうに、小さく頭を下げる。孔明は春風みたいに穏やかに微笑んで、悪戯少年みたいに舌をぺろっと出した。

「ふふっ。叱られちゃった」

 颯茄は慌てて教科書とノートを机の中から引っ張り出して、シャープペンを握って、真面目に授業を受け出した。数式を書いていると、また孔明が話しかけてきた。

「彼、女性的で綺麗だよね?」
「うん、そうだね」

 マゼンダ色の長い髪をちらっと見たが、さっきと同じでまったく動いていなかった。シャープペンを指の間に挟んだ孔明は頬杖をつく。

「いつ話しかけようかなぁ~?」
「え……?」

 颯茄は隣に座った、不思議な男子生徒二号の横顔をじっと見つめた。これが、不思議な雰囲気の理由だったのか。同性を好きと言うことが。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...