明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

文字の大きさ
949 / 967
神の旋律

落日の廃城/10

しおりを挟む
 シュピーンッッッ!

 空中から突然、銃弾が鉛色の線を引いて現れた。レンの心臓を撃ち抜く軌跡は、三十七センチの身長差で、リョウカの後頭部に深く鋭く入り込んだ。

「うっ!」

 うめき声を上げて、リョウカはレンの腕の中に倒れてゆく。

 悪魔に銃弾は向かっていった。それなのに、リョウカは自分へと走ってきて、銃弾を浴びている。レンは両腕でしっかり受け止めながら、鋭利なスミレ色の瞳をあちこちに向ける。

「……どうなっている?」

 即死のはずなのに、リョウカは少し苦しそうに息をしながら、

「さっきから敵は私たちに攻撃してない。だけど、私たちは傷を負ってる。それって、私たちと敵の位置が逆になってる。空間が歪んでる。あなたを攻撃したいのなら悪魔。私を攻撃したいのならフローリアだったのよ。ゲホゲホッ……!」

 咳き込んだリョウカを、レンは強く抱き寄せた。

「お前、俺のことかばって……」
「ちょっと計算間違ったみたい……」

 全体重を預けられたレンは、奥行きがあり少し低めの声で必死に呼びかけたが、

「リョウカ? リョウカ? おい!」
「…………」

 彼女の唇が動くことはなかった。レンは左腕だけでリョウカの白いシャツを抱きしめ、ポニーテールの長い髪が不浄な空気の中で力なく揺れる。

 拳銃、フロンティアのハンマーをカチカチと押し倒しながら、鋭利なスミレ色の瞳は、自分の腕の中にいる女とそっくりなフローリアに向けられた。

「今救ってやる」

 何の躊躇もなく、トリガーは引かれ、

 ズバーンッッッ!

 銃声が悲鳴を上げ、スミレ色の鋭利な瞳の先で銃弾はどんどん離れていき、フローリアの額を撃ち抜いた。彼女の驚いた顔に赤い血がいくつもの筋を作る。

「うっ! ど、どうして……私を?」

 レンは銃を持つ手を脇へ下ろした。フローリアは青白い煙となり、玉座に座る白いローブを着た悪魔へと吸収され、消え去ってゆく。

「悪魔に取り込まれて、自殺した。だから、お前ももう悪魔だ」

 心の弱いところに入り込むのが悪の定義。逃れたいのなら自力で抜け出す。墜ちたのは自身の責任なのだから。それを教えてくれたのは、今腕の中にいるリョウカだ。

 レンは自分を引き入れようとしている悪魔と一人対峙する。雷光が窓の外を真昼のように染め、ザザーンと雷鳴がとどろいた。

 黒いロングコートの腕は銃口を、銀の髪に隠れたこめかみに当てた。

「…………」

 ガタガタと手と呼吸が震える。悪魔が話を聞いて、自分との位置を元に戻していたら、完全に自殺だ。引き金を引く指がやけに重く、鋭利なスミレ色の瞳は恐怖で閉じられた。

 ズバーンッッッ!

 銃声があたりに冴え渡り、レンとリョウカは大理石の上に重い砂袋のように同時に崩れ落ちた――

 バリバリ、ズドーンッッッ!

 空を引き裂くような音がして、遠くの地震がやってくるような地響きが起き、城はグラグラと揺れ、

「うがぁぁぁぁ~~!!!!」

 断末魔が雷雨の夜に飛び散った――

    *

 ――集中治療室のホルター心電図は、

 ピーーー!

 と言ったっきり戻らず、心臓マッサージが行われていた。何の感情も持たない黄緑色の瞳で現実を見つめ、山吹色のボブ髪はかき上げられ、

「ま、そういう終わり方もあるよね」

 コレタカの言葉は、人よりもはるかに長い時を生きているような威厳を持っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...