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お題に答えて/4
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妻の右隣に座っていた夫は、短い金髪で、晴れ渡る青空のような天色をした瞳をしていた。それは人懐っこそうで、優しげだった。かっこいいではなく、ヤンチャと言う言葉がよく似合うイケメン。
「張飛っす。職業は、小学校の体育教師っす」
粋のいい言い方で気さくに返事が返ってきた。しかも簡潔。
「普通すぎだ」
みんなため息まじりに言った。おかしすぎた今までがあると、なんだか物足りない気分になるのだった。
孔明は自分の爪を見ながら、つっけんどうな感じて言う。
「あれ? 張飛、今までの職業遍歴は言わないの?」
「え、先生だけじゃないんですか?」
初耳の妻は、思わず隣の人の横顔をじっと見つめた。
「違うよ。色んなことやったよね?」
「そうっすね」
「じゃあ、それもお願いします」
聞けるのなら、聞けるうちに収集してしまえと、大雑把な妻は即決した。
「最初、料理屋をやったっす」
「料理できるのか?!」
明智家の料理担当である独健は少し驚い顔をした。
「きちんと習ったっすよ」
「知らなかった」
張飛の斜め前の席で、テーブルに肘をついて、孔明は自分の爪を見ながら、
「で、どうして辞めちゃったんだっけ?」
「食材全部自分で食っちゃうんす。仕入れても仕入れても、お客さんに出す前になくなるっす」
張飛はこう言って、照れたように笑った。妻はああとため息まじりに言い、何とも言えない顔になった。
「そう言う落とし穴があったか」
大食いの夫に飲食店は向いていなかった。
孔明は爪を見るのをやめて、頬杖を気怠そうにつき、視線はなぜか訝し気だった。
「それで、次は何したんだっけ?」
「金物屋をやったんす」
「食べ物じゃないから、今度は売り物になりますね」
妻はいい予感を覚えて、隣でうんうんとうなずいた。
「で、どうして辞めちゃったんだっけ?」
「困ってる人に無料であげてたら、品物がなくなったっす」
「人がよすぎる……」
夫婦十人があきれたため息をついた。妻は思う。張飛は憎めない性格なのがいいところだ。他にも色々やったのだろうが、なぜ今の職業になったのか気になった。
「じゃあ、教師になろうとしたのはどうしてですか?」
天色の瞳はにっこりとこっちを見つめた。
「落ち込んでた時に、近所の小学生に声をかけられたんす。それで、子供相手の仕事をしようと思って、教師になったんす」
「そういうことがあったんだ。いい話聞かせてもらったなあ」
妻は思いがけずほっこりした気持ちになって、椅子の上で少しだけ足をパタつかせた。
「子供ってかわいっすよ。心も洗われるっす。だから……」
やっと一周終わりそうだったのに、張飛はまだ話を続けようとしていた。もしも叶うのなら、もう一ターンケーキをリレーさせて、他のことも聞きたいところである。妻は夫の話の途中でさっと話をまとめ出した。
「と、ここまでに今はします。時間がなので、また今度聞かせてください」
とりあえず、十人は回った。
「はい、終了」
だが問題ありありで、颯茄は声を荒げたが、
「っていうか! 真面目に答えたの、十人中五人だけなんですけど!」
テーブルの上にだらっともたれかかって、頬づえをついている焉貴から指摘がやってきた。
「それは、お前が最初に言わないからでしょ?」
「何をですか?」
名前と職業を言うようにと振った。颯茄としては、きちんと伝えたつもりだったが、夫たちには違う風に取られたのだ。光命が中性的な唇に、神経質な細い手の甲をつけてくすくす笑う。
「おかしな人ですね、あなたは」
地獄への扉がギギーッと開くように、月命の含み笑いが聞こえてきた。
「うふふふっ。僕がお仕置きして、君の思考回路を直して差し上げましょうか~?」
颯茄はパッと椅子から飛び上がって、両手を頭の上で大きく横へ振りながら猛反発する。
「いやいや、やめてください! その鎖でぐるぐる巻きにした上に、牢屋に監禁して、一気に殺すんじゃなくて、細い針でチクチク刺すから始まって、火で下から炙りジワジワといたぶり殺すような、目をするのは……! 月さんは本気でしてきます!」
月命という夫は、人の弱点は絶対に見逃さないのである。滅多に姿を現さない邪悪なヴァイオレットの瞳は鋭く妻を捉えた。
「すぐに思いつくということは、そちらを望んでいるということでしょうか~?」
陛下から懲罰を受けようと、逮捕されようと、そんなのはどうでもいいのである。月命にとっては、実験をしてみたいのだ。死なない世界だからこそ、人が死ぬことを純粋に知りたいのだ。死ぬとは殺すとは、どんなものなのかと、常に想いを馳せている。
通常と違う価値観を持っている夫を前にして、颯茄は首を横にプルプルと振って大慌てで叫んだ。
「いやいや! 違います! 死は望んでません!」
のんびりと自分の爪を見ていた孔明が、間延びした陽だまりみたいな穏やかな声で聞いた。
「颯ちゃん、失敗しちゃった~?」
「ん?」
原因は自分にあるようだった。どこかずれている妻の頭では、何を指摘されているのかさっぱり。
遊線が螺旋を描く優雅で芯のある、光命の声がなぜ全員答えてこなかったのかの理由を告げた。
「真面目に答えてくださいと言っていませんでしたよ」
颯茄は頭を抱えて、以心伝心ではない夫婦の絆というリングに沈められたのだった。
(あぁ~、やってしまった。名前はとりあえず、全員あってた。ただ、みんなの職業がわからない~! よし、こうしよう!)
今も刻々と時を刻んでいる、時限爆弾ケーキを手元に置いて、妻は再度決意を固めるのだった――――
「張飛っす。職業は、小学校の体育教師っす」
粋のいい言い方で気さくに返事が返ってきた。しかも簡潔。
「普通すぎだ」
みんなため息まじりに言った。おかしすぎた今までがあると、なんだか物足りない気分になるのだった。
孔明は自分の爪を見ながら、つっけんどうな感じて言う。
「あれ? 張飛、今までの職業遍歴は言わないの?」
「え、先生だけじゃないんですか?」
初耳の妻は、思わず隣の人の横顔をじっと見つめた。
「違うよ。色んなことやったよね?」
「そうっすね」
「じゃあ、それもお願いします」
聞けるのなら、聞けるうちに収集してしまえと、大雑把な妻は即決した。
「最初、料理屋をやったっす」
「料理できるのか?!」
明智家の料理担当である独健は少し驚い顔をした。
「きちんと習ったっすよ」
「知らなかった」
張飛の斜め前の席で、テーブルに肘をついて、孔明は自分の爪を見ながら、
「で、どうして辞めちゃったんだっけ?」
「食材全部自分で食っちゃうんす。仕入れても仕入れても、お客さんに出す前になくなるっす」
張飛はこう言って、照れたように笑った。妻はああとため息まじりに言い、何とも言えない顔になった。
「そう言う落とし穴があったか」
大食いの夫に飲食店は向いていなかった。
孔明は爪を見るのをやめて、頬杖を気怠そうにつき、視線はなぜか訝し気だった。
「それで、次は何したんだっけ?」
「金物屋をやったんす」
「食べ物じゃないから、今度は売り物になりますね」
妻はいい予感を覚えて、隣でうんうんとうなずいた。
「で、どうして辞めちゃったんだっけ?」
「困ってる人に無料であげてたら、品物がなくなったっす」
「人がよすぎる……」
夫婦十人があきれたため息をついた。妻は思う。張飛は憎めない性格なのがいいところだ。他にも色々やったのだろうが、なぜ今の職業になったのか気になった。
「じゃあ、教師になろうとしたのはどうしてですか?」
天色の瞳はにっこりとこっちを見つめた。
「落ち込んでた時に、近所の小学生に声をかけられたんす。それで、子供相手の仕事をしようと思って、教師になったんす」
「そういうことがあったんだ。いい話聞かせてもらったなあ」
妻は思いがけずほっこりした気持ちになって、椅子の上で少しだけ足をパタつかせた。
「子供ってかわいっすよ。心も洗われるっす。だから……」
やっと一周終わりそうだったのに、張飛はまだ話を続けようとしていた。もしも叶うのなら、もう一ターンケーキをリレーさせて、他のことも聞きたいところである。妻は夫の話の途中でさっと話をまとめ出した。
「と、ここまでに今はします。時間がなので、また今度聞かせてください」
とりあえず、十人は回った。
「はい、終了」
だが問題ありありで、颯茄は声を荒げたが、
「っていうか! 真面目に答えたの、十人中五人だけなんですけど!」
テーブルの上にだらっともたれかかって、頬づえをついている焉貴から指摘がやってきた。
「それは、お前が最初に言わないからでしょ?」
「何をですか?」
名前と職業を言うようにと振った。颯茄としては、きちんと伝えたつもりだったが、夫たちには違う風に取られたのだ。光命が中性的な唇に、神経質な細い手の甲をつけてくすくす笑う。
「おかしな人ですね、あなたは」
地獄への扉がギギーッと開くように、月命の含み笑いが聞こえてきた。
「うふふふっ。僕がお仕置きして、君の思考回路を直して差し上げましょうか~?」
颯茄はパッと椅子から飛び上がって、両手を頭の上で大きく横へ振りながら猛反発する。
「いやいや、やめてください! その鎖でぐるぐる巻きにした上に、牢屋に監禁して、一気に殺すんじゃなくて、細い針でチクチク刺すから始まって、火で下から炙りジワジワといたぶり殺すような、目をするのは……! 月さんは本気でしてきます!」
月命という夫は、人の弱点は絶対に見逃さないのである。滅多に姿を現さない邪悪なヴァイオレットの瞳は鋭く妻を捉えた。
「すぐに思いつくということは、そちらを望んでいるということでしょうか~?」
陛下から懲罰を受けようと、逮捕されようと、そんなのはどうでもいいのである。月命にとっては、実験をしてみたいのだ。死なない世界だからこそ、人が死ぬことを純粋に知りたいのだ。死ぬとは殺すとは、どんなものなのかと、常に想いを馳せている。
通常と違う価値観を持っている夫を前にして、颯茄は首を横にプルプルと振って大慌てで叫んだ。
「いやいや! 違います! 死は望んでません!」
のんびりと自分の爪を見ていた孔明が、間延びした陽だまりみたいな穏やかな声で聞いた。
「颯ちゃん、失敗しちゃった~?」
「ん?」
原因は自分にあるようだった。どこかずれている妻の頭では、何を指摘されているのかさっぱり。
遊線が螺旋を描く優雅で芯のある、光命の声がなぜ全員答えてこなかったのかの理由を告げた。
「真面目に答えてくださいと言っていませんでしたよ」
颯茄は頭を抱えて、以心伝心ではない夫婦の絆というリングに沈められたのだった。
(あぁ~、やってしまった。名前はとりあえず、全員あってた。ただ、みんなの職業がわからない~! よし、こうしよう!)
今も刻々と時を刻んでいる、時限爆弾ケーキを手元に置いて、妻は再度決意を固めるのだった――――
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