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コンサートへ行く
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7月26日、金曜日――
光命のコンサート当日である。
彼は神経質で繊細であるがゆえに、よく倒れる。
旦那さんたちはそれぞれの気遣いがある。
余計な負担をかけて、光命が倒れないように、大勢で押しかけない。
が、彼の夫としてできることだ。
一番仲のいい夕霧命でさえ、コンサート会場には行かなかった。朝起きてからの言動はいつも通りで、修業に行って、私のまわりに誰もいないから来ただけだった。
コンサート会場へ行くのは、大人は、月命と孔明だけである。
妻も行かないのだ。いや正確には基本行けないのだ。
だからこそ、心配なのだ。
何かで倒れたら、せっかくの機会が……。
とか、
光命の心の負担が増えるのでは……。
とか、もう、あれこれ考えすぎるのである。
そんな私をそばで見ていた夕霧命は、
「あれは、小さい頃から、ピアノの発表会をやって、よく1位を取っていたから心配いらない」
さすが、光さんです!
だがそれでも心配で、とうとうコンサート会場に行って、様子をのぞいでしまった。
やはり調子がよいとは言えず、
「座った方がいいですよ」
とか言われていた。
そうだ、そうだ!
倒れる前に、座って、座って!
そうして、一度家に戻ってくると、夕霧命はおらず、蓮にバトンタッチされたいた。
蓮も行かなかったんだ……。
心配してるはずなのに……。
そうこうしてるうちに、子供たちが月命と一緒にお出かけ。電車で一駅乗って、バスでいくつか先の停留所で降りる、らしい。
「行ってきま~す!」
元気な声が響き、電車に無事に乗ったが、パプニングが起きた。
「ねぇ? あの人……」
月命がバイセクシャル複数婚の夫の1人だと、他の乗客が気づいてしまった。
「明智さんですよね?」
「えぇ」
「旦那さんがたくさんいる……」
そこで、子供が元気に答えてしまった。
「パパが10人!」
一斉に写メのフラッシュが焚かれ始めた。子供たちは不思議そうな顔を見合わせる。
「どうして、僕たち写真撮られてるのかな?」
月命は凛とした澄んだ女性的な声を張り上げたが、
「子供たちの写真は撮らないでください!」
それでも、フラッシュは止むことはなく、隣に座っていた蓮が、
「行ってくる」
言い残して、電車の中にいきなり瞬間移動した。他の乗客たちの携帯電話を腕でさえぎって、
「撮らないで」
人々が今度は別の名前を叫んで、車内が騒然となった。
「ディーバだ! ディーバ!」
「きゃあああっ!」
だが、これで蓮の作戦は成功なのである。一気に、子供たちから興味は、有名人へと移ったのだから。
「すみません! 旦那さんと一緒のところ撮らせてください!」
そんなことを巻き起こしながら、子供たちは被写体にもならず、迷子にもならず、無事にコンサート会場へ到着。結局、蓮も立ち見で、聞くことになった。
私もコンサート会場へ瞬間移動。
光命の出番がやってきた。友人のヴァイオリニストが、光命の紹介を冗談交じりにステージの上で言って、観客を笑わせていた。
舞台の袖から、ピアニストらしい瑠璃色のタキシードを着て、光命が現れると、拍手が起こった。
顔はもう知れている。
人混みを歩くように、全員見惚れることはない。
そうして、曲が始まると、子供たちが目を輝かせた。それだけでなく、会場中の人々も。
「うわー!」
感嘆の吐息をもらした。強弱のバランスは良く、ステージ映えする、見せるピアニストだった。
曲が終わったと同時に、拍手喝采。マスコミ関係のカメラマンが一斉にステージ下に寄ってきて、
「すみません! 写真お願いします!」
「こっちもお願いします!」
「こっちも!」
CDだけで、15年も日の目を浴びることもなかったが、これで光命は新たな道を進んでゆくのだろう。
光命の友人の紹介が素敵だった。彼は一度も、
バイセクシャルの複数婚。
という言葉は出さなかった。友人の中では、光命はただ結婚をして、子供がいる、だけなのだろう。そこに、何の線引きもないのだろう。
光命が友人のことを語る。
「彼はいつも一生懸命な人ですよ」
あぁ、そうで――!
あれ、それ、私にも言ってましたよね?
ってことは!
「その人と結婚するってことですか?」
「彼のことはそのようには思っていませんよ」
また、旦那が増えるのかと思った。
でも、いつかは誰かが新しく恋をして、増えるのかも知れない。
2019年7月26日、金曜日
光命のコンサート当日である。
彼は神経質で繊細であるがゆえに、よく倒れる。
旦那さんたちはそれぞれの気遣いがある。
余計な負担をかけて、光命が倒れないように、大勢で押しかけない。
が、彼の夫としてできることだ。
一番仲のいい夕霧命でさえ、コンサート会場には行かなかった。朝起きてからの言動はいつも通りで、修業に行って、私のまわりに誰もいないから来ただけだった。
コンサート会場へ行くのは、大人は、月命と孔明だけである。
妻も行かないのだ。いや正確には基本行けないのだ。
だからこそ、心配なのだ。
何かで倒れたら、せっかくの機会が……。
とか、
光命の心の負担が増えるのでは……。
とか、もう、あれこれ考えすぎるのである。
そんな私をそばで見ていた夕霧命は、
「あれは、小さい頃から、ピアノの発表会をやって、よく1位を取っていたから心配いらない」
さすが、光さんです!
だがそれでも心配で、とうとうコンサート会場に行って、様子をのぞいでしまった。
やはり調子がよいとは言えず、
「座った方がいいですよ」
とか言われていた。
そうだ、そうだ!
倒れる前に、座って、座って!
そうして、一度家に戻ってくると、夕霧命はおらず、蓮にバトンタッチされたいた。
蓮も行かなかったんだ……。
心配してるはずなのに……。
そうこうしてるうちに、子供たちが月命と一緒にお出かけ。電車で一駅乗って、バスでいくつか先の停留所で降りる、らしい。
「行ってきま~す!」
元気な声が響き、電車に無事に乗ったが、パプニングが起きた。
「ねぇ? あの人……」
月命がバイセクシャル複数婚の夫の1人だと、他の乗客が気づいてしまった。
「明智さんですよね?」
「えぇ」
「旦那さんがたくさんいる……」
そこで、子供が元気に答えてしまった。
「パパが10人!」
一斉に写メのフラッシュが焚かれ始めた。子供たちは不思議そうな顔を見合わせる。
「どうして、僕たち写真撮られてるのかな?」
月命は凛とした澄んだ女性的な声を張り上げたが、
「子供たちの写真は撮らないでください!」
それでも、フラッシュは止むことはなく、隣に座っていた蓮が、
「行ってくる」
言い残して、電車の中にいきなり瞬間移動した。他の乗客たちの携帯電話を腕でさえぎって、
「撮らないで」
人々が今度は別の名前を叫んで、車内が騒然となった。
「ディーバだ! ディーバ!」
「きゃあああっ!」
だが、これで蓮の作戦は成功なのである。一気に、子供たちから興味は、有名人へと移ったのだから。
「すみません! 旦那さんと一緒のところ撮らせてください!」
そんなことを巻き起こしながら、子供たちは被写体にもならず、迷子にもならず、無事にコンサート会場へ到着。結局、蓮も立ち見で、聞くことになった。
私もコンサート会場へ瞬間移動。
光命の出番がやってきた。友人のヴァイオリニストが、光命の紹介を冗談交じりにステージの上で言って、観客を笑わせていた。
舞台の袖から、ピアニストらしい瑠璃色のタキシードを着て、光命が現れると、拍手が起こった。
顔はもう知れている。
人混みを歩くように、全員見惚れることはない。
そうして、曲が始まると、子供たちが目を輝かせた。それだけでなく、会場中の人々も。
「うわー!」
感嘆の吐息をもらした。強弱のバランスは良く、ステージ映えする、見せるピアニストだった。
曲が終わったと同時に、拍手喝采。マスコミ関係のカメラマンが一斉にステージ下に寄ってきて、
「すみません! 写真お願いします!」
「こっちもお願いします!」
「こっちも!」
CDだけで、15年も日の目を浴びることもなかったが、これで光命は新たな道を進んでゆくのだろう。
光命の友人の紹介が素敵だった。彼は一度も、
バイセクシャルの複数婚。
という言葉は出さなかった。友人の中では、光命はただ結婚をして、子供がいる、だけなのだろう。そこに、何の線引きもないのだろう。
光命が友人のことを語る。
「彼はいつも一生懸命な人ですよ」
あぁ、そうで――!
あれ、それ、私にも言ってましたよね?
ってことは!
「その人と結婚するってことですか?」
「彼のことはそのようには思っていませんよ」
また、旦那が増えるのかと思った。
でも、いつかは誰かが新しく恋をして、増えるのかも知れない。
2019年7月26日、金曜日
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