明智さんちの旦那さんは10人いるそうで……

明智 颯茄

文字の大きさ
67 / 80

柔らかで穏やかな笑顔

しおりを挟む
 孔明こうめい紅朱凛あしゅりゃんの仕事の関係で、宇宙空間を旅する、船の開港記念パーティーに参加した。

 今回は関係者のみで、一般の人は乗っていない。ただ、家族は連れてきてもOK!

 空気の心配はないから、船で星の海を渡って隣の宇宙へ行く、のんびりゆったりの旅が売りの乗り物だ。

 今までは、宇宙船に乗って、あっという間に着いてしまう旅だけだったが、他の選択肢も出てきたということだ。

 宣伝費はあまりかけていないらしい。関係者の家族が乗れば、それは自然とSNSで拡散されて、写真などから船の様子もわかる。もう少しで、春休みが来るタイミングを狙って、今開港したのだろう。

 光命ひかりのみことはなぜかそばにおらず、焉貴これたかがそばにいた。パーティー用のスーツ姿がよく似合う。

 子供が走り寄ってきて、風船を持っていた。

「これね、あそこにいるウサギさんの話を聞いたら、くれたよ」

 得意げに見せてくれた。人間が被り物をしてるんじゃなくて、本当の話上手な二足歩行のウサギだ。
 子供たちをターゲットにした、サービスなんだろう。夢のあるサービスだ。

 感心していると、もう一人子供が走ってきた。

「ママ、トイレ!」

切羽詰まっていた。スタッフの人に聞いて、急いで子供はトイレに行った。そこで気づいた。

 一人で平気?

 焉貴が、

「あれは、もう何年も生きてるから、一人で平気」

 その通りに、すぐに戻ってきた。もう少し早く行くようにすればと思ったが、十年近くも生きてれば、そんな失敗はないだろう。となると、

「友だちと話してた?」
「うん」
「友だちの話をきちんと聞いてたら、長い話だったんだね?」
「そう。だから、トイレに行くの遅くなった」
「優しいんだね」

 そこで、ピンときてしまった。光命がそばにいない理由が。焉貴が先回りして言う。

「もう始まるよ。あいつのピアノ」
「なんで言ってくれなかったのかな? 仕事するって」
「理由があるからでしょ?」
「あぁ、そうか。私を喜ばせるためなのか」
「ま、そうね」

 いつも通りの無機質な返事だった。近くに見に行くと、心地よいピアノの調べに酔いしれた。

 リズムに揺れながらピアノを弾く、光命が微笑む表情を見ると、涙がこぼれそうになる。
 ひだまりみたいに穏やかで優しい笑顔。出会った頃には、あんな微笑み方はしなかった。
 あんな幸せな表情をするようになったのだと思うと、涙がこぼれた。

 ありのままをここで書こうと決心しても、やはり書けないプライベートはある。
 平坦な道のりではなく、時には体当たりで乗り越えてきたこともあった。

 バイセクシャルの複数婚なんて、初めてで、戸惑うことも立ち止まることもあったが、それでもいい方向へ進んでいるのだろう。

 焉貴の声がピアノの音色に混じる。

「光の復帰、色々書かれてる。前と変わったって」

 ピアニストは弾いている時が一番幸せだ。

「今回の活動休止は、いい休みだったんだろうって」
「うん、そうだね」

 オーケストラが入って、急に曲調が変わった。大海原を立派な船が悠々と進んでような旋律だ。
 すると、スタンドマイクがひとつ出てきた。赤いドレスを着た女が中央へ出てきた。
 焉貴に気を取られていたが、私は視界の端で女を見た。

 あれは!
 もう一人の自分だ!
 よし、もう少しよく見て――

 そこまでだった。入れ替わってしまって、いきなり知らない曲を歌うことになってしまった。

 そこで、思い出した。オーケストラを従えて、壮大なバラード曲を作って欲しいと、光命にお願いしていたことを。きちんと作ってくれたのだ。
 そのお披露目が、今日のこの船の上だったらしい。

 光命は内緒にしてきたのではなく、もう一人の私と入念な打ち合わせしてきたのだ。何よりもいい宣伝方法だ。孔明と紅朱凛の仕事も、自分たちの仕事も相乗効果で、たくさんの人に伝えられるのだから。

 歌えない曲から慌てて逃げて、焉貴のそばにいる自分に戻って、光命の曲に酔いしれる。
 曲が終わると、人が集まってきてしまった。あの有名な夫婦のうちの二人だと言って。

 そこへ、焉貴がいるのも知られてしまって、夫婦三人で撮らせてという話が終わらないうちに、孔明も来て、いつの間にやら、我が家全員が集まって、記念写真になった。

 いい思い出だ。一泊の船旅。だが、我が家は出席が出遅れた上に、大人数のため、部屋は半分しか空いておらず、瞬間移動で我が家に半数は帰ってきた。

 明日は、船に泊まる予定だ。

 2020年2月26日、水曜日
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...