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思いやりは返ってくる
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調子がよくない。そう思うからまた、悪循環に陥るのだ。
ふと考える。自分が聞こえない、見えない間にも、配偶者の誰かに話しかけられているのかもしれない。そう思うと、大変申し訳ないなと反省する。話しかけられているのに、視線も合わせない。返事もしないのだから。
凹みながらお風呂に入っていると、夕霧命が言った。
「お前が逆の立場だったらどう思う?」
配偶者の誰かが、理由があって話しかけても、返事もしない、見向きもしない。私は――微笑みながら待ち続ける。
気づかなくてもいい。返事を返さなくてもいい。ただそばにいれれば、それでいい。それ以上は何も望まない。
「他のやつもお前と一緒だ。だから、気負いする必要はない」
ふと、脳裏に蘇った。まだ配偶者が六人しかいなかった時の出来事が。
私とは理由は違っていたが、トランス状態となった配偶者を、私はどうしても救いたかった。普通の生活を普通に、その人が送れるようにしたかった。
だから、私は体を張って、その人が解放されるのをただ待った。苦痛が私を襲ったが、そんなことはどうでもよかった。本当に苦しんでいるのは、その人で、私ではないのだから。
そうして、その人が無事に自身を取り戻し、ぐっすりと眠りについたのを見て、
「この人が安心して眠れるようになってよかった」
心の底からそう思った。何も期待などしてなかった。その話は、配偶者全員に伝わっているそうだ。
とても幸せだと思う。自分と同じレベルで、思いやりが通じるのは。そうそうないことだ。さすが、魂を交換する結婚をしただけある。みんな、深くつながっているのだ。
先日、こんなことがあった。子供たちを寝かしつけていた光命が、私と自分の手のひらの間に子供の小さな手を挟んで、指を互い違いに絡めた――。
他の人にとってみれば、それは何ともないことかもしれないが、私にとっては宝物の時間だった。
まだ、私が倫礼の魂の影響を受けた仮の魂で、肉体が滅べば、存在が消えてなくなる私だった頃には感じることのできなかった幸せだ。
何もかもが、無に帰るのだと、生まれ変わることもないのだと、二度と会うこともできないのだと、言い聞かせる毎日だった。
それでも、光命は、私を愛したのだと言った。彼は、私の死後、倫礼に吸収された私の部分を見て、永遠の世界で愛し続けると誓った。
この人はなんて、切ない人の愛し方をするのだろうと、消えてゆく自分に何ができるのだろうと悩んだ日々からすれば、何もかもが宝物の日々だ。
2020年2月28日、金曜日
ふと考える。自分が聞こえない、見えない間にも、配偶者の誰かに話しかけられているのかもしれない。そう思うと、大変申し訳ないなと反省する。話しかけられているのに、視線も合わせない。返事もしないのだから。
凹みながらお風呂に入っていると、夕霧命が言った。
「お前が逆の立場だったらどう思う?」
配偶者の誰かが、理由があって話しかけても、返事もしない、見向きもしない。私は――微笑みながら待ち続ける。
気づかなくてもいい。返事を返さなくてもいい。ただそばにいれれば、それでいい。それ以上は何も望まない。
「他のやつもお前と一緒だ。だから、気負いする必要はない」
ふと、脳裏に蘇った。まだ配偶者が六人しかいなかった時の出来事が。
私とは理由は違っていたが、トランス状態となった配偶者を、私はどうしても救いたかった。普通の生活を普通に、その人が送れるようにしたかった。
だから、私は体を張って、その人が解放されるのをただ待った。苦痛が私を襲ったが、そんなことはどうでもよかった。本当に苦しんでいるのは、その人で、私ではないのだから。
そうして、その人が無事に自身を取り戻し、ぐっすりと眠りについたのを見て、
「この人が安心して眠れるようになってよかった」
心の底からそう思った。何も期待などしてなかった。その話は、配偶者全員に伝わっているそうだ。
とても幸せだと思う。自分と同じレベルで、思いやりが通じるのは。そうそうないことだ。さすが、魂を交換する結婚をしただけある。みんな、深くつながっているのだ。
先日、こんなことがあった。子供たちを寝かしつけていた光命が、私と自分の手のひらの間に子供の小さな手を挟んで、指を互い違いに絡めた――。
他の人にとってみれば、それは何ともないことかもしれないが、私にとっては宝物の時間だった。
まだ、私が倫礼の魂の影響を受けた仮の魂で、肉体が滅べば、存在が消えてなくなる私だった頃には感じることのできなかった幸せだ。
何もかもが、無に帰るのだと、生まれ変わることもないのだと、二度と会うこともできないのだと、言い聞かせる毎日だった。
それでも、光命は、私を愛したのだと言った。彼は、私の死後、倫礼に吸収された私の部分を見て、永遠の世界で愛し続けると誓った。
この人はなんて、切ない人の愛し方をするのだろうと、消えてゆく自分に何ができるのだろうと悩んだ日々からすれば、何もかもが宝物の日々だ。
2020年2月28日、金曜日
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