21 / 31
怨霊の魔窟/7
しおりを挟む
――霊体、五十二。邪気、百七。
颯茄は霊力で矢のようなものを作りながら、浄化をしてゆく。攻撃と浄化。需要と供給。そのバランスは崩れることはない。
だが、それが一度狂ったのなら、確実にふたりは消滅の運命をたどるだろう。
焦りが生まれる、颯茄の中に。それでも、守られるだけになりたくないのなら、切り抜ける手段を考えなければいけない。有言実行だ。
赤い着物の袖を、宙でユラユラ揺らして、手で招くような仕草をしている女をまっすぐ見据えた。
「そうか。結局、あの女の人を倒さないと、どんどん新しい人たちが集まってきちゃうんだ」
戦いの基本は各個撃破。しかし、回復要員がそこにいれば、それを先に倒さなければ、無駄足を踏んでしまうのである。颯茄は弓矢を引き続けながら考える。
「他にも敵はいるし、どうすれば……?」
戦況は冷酷無惨に動いてゆく。最初に決めていた作戦のままでは、対応できないことは出てくる。それはよくあることだ。しかも、戦いながら対策を取っていかないといけない。
――霊体、七十六。邪気、百八。
ブラウンの髪を持つ颯茄とは正反対に、夕霧はどこまでも落ち着き払って、淡々とライフルで悪霊を吹き飛ばし続ける。
――殺気、左横。
和装に銃というミスマッチなはずなのに、はずすことがないものだから、
ズバーンッッッ!
――右前。
革新的で、
ズバーンッッッ!
――真後ろ……。
白と紺の袴の侍はスタイリッシュだった。
ズバーンッッッ!
浄化し続けながら、どこかずれているクルミ色の瞳はあちこちうかがい続ける。突破口が見当たらない。今日、初めて戦闘という非日常に出会った、女には。
だが、戦場に慣れている夕霧の地鳴りのような声が、攻撃の合間にふと響いた。
「こうする」
「え……?」
「俺が女の動きを封じる。その間に浄化しろ」
「はい!」
宙に浮かぶ真っ赤な着物姿の女は、勝ち誇ったように不気味な笑みを向けていた。
「無駄な抵抗とはのう。何とも無ざまじゃ」
颯茄はライフルを使うのだと、銃声が鳴り響くのを待っていたが、息が詰まったような声がきしんだ。
「くっ!」
それとほぼ同時に、女は後ろに半分倒れた状態で止まっている。背面跳びをする途中で静止画にしたような、やけに無理のある体勢の敵を前にして、颯茄は目を疑った。
「えっ!? また自作自演?」
そうとしか思えない。空中で一人、苦しそうに目をつぶったまま、動かないのだから。銃口は容赦なく向けられ、
ズバーンッッッ!
緑に光る銃弾が女の胸に当たると、血もなく悲鳴もなく大きな穴が空いた。どんよりとした曇り空が隙間から望める。
――霊体、九十八。邪気、百三十七。
しかし、技の効果はいつまでも持続しない。ぼうっと突っ立っている颯茄の背中に、夕霧の地鳴りのような低い声がかけられた。
「驚くのはあとだ」
「あぁ、はい!」
ずいぶん慣れてきた、矢もどきの作り方。手のひらにギリギリ入るくらいの特大のものを作って、流れるような仕草で正確に射た。
女の体前面に金の光がぶつかり、かき消すように広がってゆくが、何かに吸収されるように収縮し、女の体は元へと戻ってしまった。
「えっ!? 浄化しない!」
異常事態が起きてしまった。赤い着物の女を倒さなければ、自分たちの体力――霊力が尽きるまで、敵は次々にやってくるだろう。そうなると、自分たちが死ぬのは時間の問題だ。
「もう一度する」
触れていればかかるの合気。その応用編二。夕霧の体は勝手に反応する。
――空気を介して、合気をかける。
相手の呼吸と合わせる。
相手の操れる支点を奪う。
それを相手と自分の中間点の空中で、回すのを途中で止める。
合気。
故意に半ばで止められた技。赤い着物の女は苦しそうに息をつまらせ、後ろに半分倒れた状態で止まった。
「くっ!」
一番辛い体勢だ。いっそかけ切ってもらった方が楽なのである。何か支えがあって、体が止まっているのではなく、自分の力だけで倒れそうになるのを、耐えさせられているのだから。
――霊体、百二十五。邪気、百七十八。
殺気を消した銃弾は、情け容赦なく打ち込まれる。
スバーンッッッ!
袴の白い袖が衝撃で揺れると、また大きな穴が女の体に開いた。颯茄はあらかじめ用意していた矢らしきものを放つ。
「よし、今度こそ!」
颯茄は霊力で矢のようなものを作りながら、浄化をしてゆく。攻撃と浄化。需要と供給。そのバランスは崩れることはない。
だが、それが一度狂ったのなら、確実にふたりは消滅の運命をたどるだろう。
焦りが生まれる、颯茄の中に。それでも、守られるだけになりたくないのなら、切り抜ける手段を考えなければいけない。有言実行だ。
赤い着物の袖を、宙でユラユラ揺らして、手で招くような仕草をしている女をまっすぐ見据えた。
「そうか。結局、あの女の人を倒さないと、どんどん新しい人たちが集まってきちゃうんだ」
戦いの基本は各個撃破。しかし、回復要員がそこにいれば、それを先に倒さなければ、無駄足を踏んでしまうのである。颯茄は弓矢を引き続けながら考える。
「他にも敵はいるし、どうすれば……?」
戦況は冷酷無惨に動いてゆく。最初に決めていた作戦のままでは、対応できないことは出てくる。それはよくあることだ。しかも、戦いながら対策を取っていかないといけない。
――霊体、七十六。邪気、百八。
ブラウンの髪を持つ颯茄とは正反対に、夕霧はどこまでも落ち着き払って、淡々とライフルで悪霊を吹き飛ばし続ける。
――殺気、左横。
和装に銃というミスマッチなはずなのに、はずすことがないものだから、
ズバーンッッッ!
――右前。
革新的で、
ズバーンッッッ!
――真後ろ……。
白と紺の袴の侍はスタイリッシュだった。
ズバーンッッッ!
浄化し続けながら、どこかずれているクルミ色の瞳はあちこちうかがい続ける。突破口が見当たらない。今日、初めて戦闘という非日常に出会った、女には。
だが、戦場に慣れている夕霧の地鳴りのような声が、攻撃の合間にふと響いた。
「こうする」
「え……?」
「俺が女の動きを封じる。その間に浄化しろ」
「はい!」
宙に浮かぶ真っ赤な着物姿の女は、勝ち誇ったように不気味な笑みを向けていた。
「無駄な抵抗とはのう。何とも無ざまじゃ」
颯茄はライフルを使うのだと、銃声が鳴り響くのを待っていたが、息が詰まったような声がきしんだ。
「くっ!」
それとほぼ同時に、女は後ろに半分倒れた状態で止まっている。背面跳びをする途中で静止画にしたような、やけに無理のある体勢の敵を前にして、颯茄は目を疑った。
「えっ!? また自作自演?」
そうとしか思えない。空中で一人、苦しそうに目をつぶったまま、動かないのだから。銃口は容赦なく向けられ、
ズバーンッッッ!
緑に光る銃弾が女の胸に当たると、血もなく悲鳴もなく大きな穴が空いた。どんよりとした曇り空が隙間から望める。
――霊体、九十八。邪気、百三十七。
しかし、技の効果はいつまでも持続しない。ぼうっと突っ立っている颯茄の背中に、夕霧の地鳴りのような低い声がかけられた。
「驚くのはあとだ」
「あぁ、はい!」
ずいぶん慣れてきた、矢もどきの作り方。手のひらにギリギリ入るくらいの特大のものを作って、流れるような仕草で正確に射た。
女の体前面に金の光がぶつかり、かき消すように広がってゆくが、何かに吸収されるように収縮し、女の体は元へと戻ってしまった。
「えっ!? 浄化しない!」
異常事態が起きてしまった。赤い着物の女を倒さなければ、自分たちの体力――霊力が尽きるまで、敵は次々にやってくるだろう。そうなると、自分たちが死ぬのは時間の問題だ。
「もう一度する」
触れていればかかるの合気。その応用編二。夕霧の体は勝手に反応する。
――空気を介して、合気をかける。
相手の呼吸と合わせる。
相手の操れる支点を奪う。
それを相手と自分の中間点の空中で、回すのを途中で止める。
合気。
故意に半ばで止められた技。赤い着物の女は苦しそうに息をつまらせ、後ろに半分倒れた状態で止まった。
「くっ!」
一番辛い体勢だ。いっそかけ切ってもらった方が楽なのである。何か支えがあって、体が止まっているのではなく、自分の力だけで倒れそうになるのを、耐えさせられているのだから。
――霊体、百二十五。邪気、百七十八。
殺気を消した銃弾は、情け容赦なく打ち込まれる。
スバーンッッッ!
袴の白い袖が衝撃で揺れると、また大きな穴が女の体に開いた。颯茄はあらかじめ用意していた矢らしきものを放つ。
「よし、今度こそ!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
真実の愛は水晶の中に
立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。
しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。
※AIイラスト使用
※「なろう」にも重複投稿しています。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる