20 / 31
怨霊の魔窟/6
しおりを挟む
感謝している人間が自分を殺す。ありえないからこそ、殺気は消えるのだ。妙な間が戦場をかけめぐる。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
一分経過。その間動くものは誰一人としていなかった。いやひとつだけあった。冷たい風が室内のはずなのに、木の葉をひゅるひゅる~と巻き上げて、足元を吹き抜けていった気がした。
「あ、あのぅ……。もういいですか?」
「あぁ、はい、どうぞ!」
颯茄の言葉を合図に、一気に戦況が動き出した。
だが。
達人の技が何よりも早かった。
――霊体、九十七。邪気、百三十三。
(間合いが狭すぎて、銃が使えん)
まわりを取り囲んでいた敵が、何もしていないのに、
「うわぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
凄まじい悲鳴を上げて、全員宙でバク転し、地面に強く落ちたのである。颯茄は唖然とした。
「え……? 自作自演?」
浄化することも忘れ、急に見通しのよくなった戦場を見渡す颯茄のブラウンの髪を見ている、無感情、無動のはしばみ色の瞳の奥に隠れている脳裏に、今の技の詳細が並んでいた。
――地面を介して、合気をかける。
触れていればかかるの、応用だ。かける手順がひとつ変わる。
――敵全員の呼吸と合わせる。
敵全員の操れる支点を奪う。
それを、正中線上で回す。
合気。
ということで、全員やられてしまったのである。一気に間合いもできたというわけだ。
――霊体、零。邪気、百三十三。
相手が強すぎるのだ。毎日、コツコツと積み上げた成果はこうやって、大きくなって返ってくるのである。地道な努力に勝るものなどない。
さっきは使えなかった。肉体に宿っている間にはできない。次元が違うのだから。だが、幽体離脱したのだ。同じ次元になったのである。技は存分に効果を発揮するのだ。
しかし、トドメはさせない。浄化しないと。待てど暮らせど、颯茄に動きはなく、夕霧は横からのぞき込んだ。
「何をしている?」
「……あっ、あぁ、はい」
颯茄は慌てて弓矢を流れるような仕草で動かして、いびつな形のものを飛ばす。
降り注ぐシャワーのような金の光を浴びると、倒れていた敵は煙にでも巻かれたように消え去り、何度か繰り返すうちに誰もいなくなった。
――霊体、零。邪気、零。
圧勝であった。
「はぁ~……」
颯茄は晴れ晴れとした気持ちで、夕霧へ振り返ろうとしたが、女の禍々しい怒りに満ちた声があたり一帯に響き渡った。
「おのれ~っ!」
限られた空間の病室ではなく、戦場は一気に広い荒野へと変わり、遠くの方からこっちへ向かって、
「うおぉぉぉっ!」
鬨の声と武器を上げながら、敵勢が迫ってくる。土煙が上がっているのを眺めながら、颯茄は首をかしげた。
「あ、あれ?」
「殺気が増えている」
――霊体、九十八。邪気、百三十三。
別働隊でも隠れていたのかと疑うところだが、林や山などがあるわけではない。召喚魔法でも使ったように出てきた敵。
血のような真っ赤な着物と乱れた黒髪。濁った目に、欲にまみれ、自分がブレまくっている女は何の特徴もない姿形をしていた。
自分たちと違って、浮遊する女。と、武器を持つ敵たちに四方を囲まれたら、生者必滅である。
その前に対処をしなければいけない。技の効果が効く射程に、ある程度の数が入るたびに、
――霊体、百二十五。邪気、百三十三。
夕霧は地面を介して相手のバランスを崩す。
「うぎゃぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
それを、颯茄が浄化するが続く。しかし、倒しても倒しても、次々に敵は現れ、埒があかない。やはり底なし沼のような敵のテリトリーへと連れ込まれてしまったのだ。
そうこうしているうちに、地面を走ってくるのではなく、二人の頭上近くの空に敵が突如現れ、落ちてくるが始まった。
無感情、無動のはしばみ色の瞳は驚きもせず、閉じられることもなく、
――殺気、右横。
長身の袴姿の夕霧が、空へ向かって銃口を向ける。
ズバーンッッッ!
――左前。
白く広い袖口が静かに揺れる先で、銃声が鳴り響く。
ズバーンッッッ!
――後ろ斜め右……。
裸足に草履はかかとをつけてきちんとそろえられたままで、
ズバーンッッッ!
銃声が空を震わせるように耳をつんざくたびに、敵は荒野へと力なく落ちてゆく。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
一分経過。その間動くものは誰一人としていなかった。いやひとつだけあった。冷たい風が室内のはずなのに、木の葉をひゅるひゅる~と巻き上げて、足元を吹き抜けていった気がした。
「あ、あのぅ……。もういいですか?」
「あぁ、はい、どうぞ!」
颯茄の言葉を合図に、一気に戦況が動き出した。
だが。
達人の技が何よりも早かった。
――霊体、九十七。邪気、百三十三。
(間合いが狭すぎて、銃が使えん)
まわりを取り囲んでいた敵が、何もしていないのに、
「うわぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
凄まじい悲鳴を上げて、全員宙でバク転し、地面に強く落ちたのである。颯茄は唖然とした。
「え……? 自作自演?」
浄化することも忘れ、急に見通しのよくなった戦場を見渡す颯茄のブラウンの髪を見ている、無感情、無動のはしばみ色の瞳の奥に隠れている脳裏に、今の技の詳細が並んでいた。
――地面を介して、合気をかける。
触れていればかかるの、応用だ。かける手順がひとつ変わる。
――敵全員の呼吸と合わせる。
敵全員の操れる支点を奪う。
それを、正中線上で回す。
合気。
ということで、全員やられてしまったのである。一気に間合いもできたというわけだ。
――霊体、零。邪気、百三十三。
相手が強すぎるのだ。毎日、コツコツと積み上げた成果はこうやって、大きくなって返ってくるのである。地道な努力に勝るものなどない。
さっきは使えなかった。肉体に宿っている間にはできない。次元が違うのだから。だが、幽体離脱したのだ。同じ次元になったのである。技は存分に効果を発揮するのだ。
しかし、トドメはさせない。浄化しないと。待てど暮らせど、颯茄に動きはなく、夕霧は横からのぞき込んだ。
「何をしている?」
「……あっ、あぁ、はい」
颯茄は慌てて弓矢を流れるような仕草で動かして、いびつな形のものを飛ばす。
降り注ぐシャワーのような金の光を浴びると、倒れていた敵は煙にでも巻かれたように消え去り、何度か繰り返すうちに誰もいなくなった。
――霊体、零。邪気、零。
圧勝であった。
「はぁ~……」
颯茄は晴れ晴れとした気持ちで、夕霧へ振り返ろうとしたが、女の禍々しい怒りに満ちた声があたり一帯に響き渡った。
「おのれ~っ!」
限られた空間の病室ではなく、戦場は一気に広い荒野へと変わり、遠くの方からこっちへ向かって、
「うおぉぉぉっ!」
鬨の声と武器を上げながら、敵勢が迫ってくる。土煙が上がっているのを眺めながら、颯茄は首をかしげた。
「あ、あれ?」
「殺気が増えている」
――霊体、九十八。邪気、百三十三。
別働隊でも隠れていたのかと疑うところだが、林や山などがあるわけではない。召喚魔法でも使ったように出てきた敵。
血のような真っ赤な着物と乱れた黒髪。濁った目に、欲にまみれ、自分がブレまくっている女は何の特徴もない姿形をしていた。
自分たちと違って、浮遊する女。と、武器を持つ敵たちに四方を囲まれたら、生者必滅である。
その前に対処をしなければいけない。技の効果が効く射程に、ある程度の数が入るたびに、
――霊体、百二十五。邪気、百三十三。
夕霧は地面を介して相手のバランスを崩す。
「うぎゃぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
それを、颯茄が浄化するが続く。しかし、倒しても倒しても、次々に敵は現れ、埒があかない。やはり底なし沼のような敵のテリトリーへと連れ込まれてしまったのだ。
そうこうしているうちに、地面を走ってくるのではなく、二人の頭上近くの空に敵が突如現れ、落ちてくるが始まった。
無感情、無動のはしばみ色の瞳は驚きもせず、閉じられることもなく、
――殺気、右横。
長身の袴姿の夕霧が、空へ向かって銃口を向ける。
ズバーンッッッ!
――左前。
白く広い袖口が静かに揺れる先で、銃声が鳴り響く。
ズバーンッッッ!
――後ろ斜め右……。
裸足に草履はかかとをつけてきちんとそろえられたままで、
ズバーンッッッ!
銃声が空を震わせるように耳をつんざくたびに、敵は荒野へと力なく落ちてゆく。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。
真実の愛は水晶の中に
立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。
しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。
※AIイラスト使用
※「なろう」にも重複投稿しています。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる