鳥籠の天翼と不屈の王子 ~初体験の相手をしたら本気になった教え子から結婚を迫られています~

須宮りんこ

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大人になる洗礼

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 ローシュの生誕を祝う式典は、午前中のうちに滞りなく終わった。

 正午にはローデンブルク城の周辺に集まった老若男女の国民に対し、王城のバルコニーに立ったローシュから挨拶があった。例年のそれと似たり寄ったりな文言を喋っているだけなのに、ローシュの話に耳を傾けている国民の眼差しは皆真剣そのものだった。

 ローシュは大国間の戦争を止め、フリューゲルを保護した国の英雄・アリック王に似ている、と国民の間ではもっぱら人気が高いそうだ。侍女たちがそう噂している所を、エアルは通りがけに耳にしたことがある。

 確かにローシュは、エアルの記憶の中にいるアリック王に似ている部分がある。周囲を自分のペースに巻き込む勢いの強さやカリスマ性においては、アリック王を連想させるかもしれない。

 でもそれは、実際にアリック王に会ったことのある自分だけが知ることだ。現代に生きる国民たちが比べているのは、所詮教科書に載るアリック王の肖像画に過ぎない。

 ローシュと話す機会もなく、あっという間に夕方になる。祝賀パーティーが始まったのは日が沈む頃だった。

 シャンデリアが天井に輝く大広間に、ローシュの生誕を祝うため各国の要人が集められている。煌びやかなドレスや衣装を着た大人たちが、食事やお喋りを楽しんでいる。上品に弾む声に乗せて演奏家たちが音楽を奏でる中、エアルはパーティーの開始早々、外のバルコニーに一人逃げた。

 エアルは今日、式典や祝賀パーティーに来賓として参加した。他にもローシュの教育を任されてきた教師たちがパーティーに参加しているようだが、エアルはその誰ともあまり話したことがない。

 そもそも人が集まる場所は、いろんな声や感情が肌から感じられて息苦しいのだ。まるで水を与えられ過ぎて枯れてしまう植物のように、背中の翼と心が重たくなってくる。

 それに夜の準備もまだできていない。ローシュの望み通り今日はすべての行事に参加したことだし、肝心のローシュは要人たちから贈られる祝いの言葉に阻まれ、エアルがどうしているかなんて気にする暇もないはずだ。祝賀パーティーぐらい、途中退席しても許されるだろう。

 エアルはちょうど目の前を通った給仕を呼び止めた。相手の盆の上から水の入ったグラスを取って飲み干す。「ありがとう」と空になったグラスを盆の上に戻し、バルコニーから空気の薄い大広間を抜け、廊下に出た。

 この後、神聖な血が流れている王族に身を捧げるのだ。汚れたままの体を差し出すわけにはいかない。

 エアルはパーティーが行われている西塔から、東塔にある湯殿ゆどのへ向かうため廊下を渡った。

 東塔の地下にある湯殿は、本来王族だけが使用できる間だ。だが、王族と交わる直前のみ、身を清めるためにエアルもそこを使用することが許されている。

 ローブを脱いで湯殿に入ったあと、エアルは洗い場で長い銀髪を洗ったのち、ヘアオイルを髪の先に塗り込んだ。油分が髪に浸透するまでの間に、時間をかけて石鹸を泡立たせる。作り上げたきめ細かい泡で首や腕、爪の間から足の指の間まで……自身の体を念入りに洗えば、準備の終わりも同然だ。

 洗い場の床に掘られた浴槽は、半地下になっている。大理石で造られた五段ほどの階段を下ると、温かい湯がエアルの肩から下をじんわりとほぐしていった。

 体が十分に温まってから、エアルは浴槽の縁に手をかけた。壁や天井に張り巡らされた大理石に水滴が光る。イランイランの甘い香りを乗せた湯気が鼻腔をくすぐる。強制的に淫靡な気分を高めていくように、エアルは小瓶に入った香油を手に垂らしつつ絡ませた。

 香油に濡らした自身の指を、後ろの蕾につぷりと差し込めば、あとはいつものように動かして広げるだけだ。

「んっ……」

 喉の奥から甘い声を絞る。くちゅくちゅと後孔をほぐしていくにつれ、下半身に血液が集まる。全体がジンジンと熱くなってくる。

 初めての相手を受け入れるときに緊張していたのは、最初の三人ぐらいだっただろうか。未経験の王子に性技を教えるのも、気づけば自分にとって当たり前の仕事となっていた。

 それでも王族に男児が生まれるたびに、翼の羽根を一本ずつ抜かれていくような気持ちになった。

 ローシュが生まれたのは、雲一つない夏のある日。空が高く、湿気もない。風もない。まるで太陽が祝福しやすいように空が計らっているみたいな、そんな晴れた日だった。

 ああ、自分はいつかこの子を大人にするときがくるんだな。

 どこまでも真っ青に晴れ渡った空を見上げながら、エアルは諦観した気持ちで、赤子の泣く声を聞いた。



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