鳥籠の天翼と不屈の王子 ~初体験の相手をしたら本気になった教え子から結婚を迫られています~

須宮りんこ

文字の大きさ
21 / 60
本気の嘘

しおりを挟む
***

 しばらく中断していた飛行訓練が再開されたのは、それからすぐのことだ。

 ローシュの強い希望により、再びエアルが飛行訓練の指導をすることになった。

「足元は見ないで、常に目線と意識は上を向いていてください。そう――そうです」

 エアルの身長分の高さまで浮上したローシュに向かって指示を出す。

 地上では体幹が強い男も、空では生まれたての小鹿のように全身をプルプルとさせている。フリューゲルの杖を垂直に両手で握ったまま、ローシュは背後にいるエアルに向かって気持ち振り返った。

「つ、次はどうすればいいんだっ?」

「行きたい方向に向かって杖の先を傾けてください」

「そのあとは!?」

「少しずつご自身の魔力を放出させるんです。飛ぶ前にご自身の魔力を杖に込め、一体化させたでしょう。杖はあなたの魔力の、いわばハンドルです」

 ローシュは「やってみる」と頷いた。男の手が恐る恐る杖を頭上で回転させると、ローシュの体が連動するようにゆっくりと空で回った。

 鍛え上げられた筋肉にあまり柔軟性はないのか、ローシュの動きはぎこちない。だが、わずかな距離ながらも一人で宙に浮上し、自身の体を杖で操ることができたのは、今回が初めてだった。

「どうだっ? 今のは成功かっ?」

 気が緩んだのか、ローシュの体に重力がずしんと乗る。まるでジャンプ後の着地のような品のない足音が、バルコニーの床を踏んだ。着地の仕方はまた後日教えるとして、宙への浮上と方向転換に関しては、

「今の段階では上出来かと」

 エアルはなるべく表情を変えずに答えた。もちろんお世辞ではない。

「本当か! よっしゃ!」

 王子とは思えない声を発しながら、ローシュは勢い良く肘を引いてガッツポーズをした。

 ローシュの寝室かつ膝の上で、エアルが爆睡したのは二日前のことだ。約束の時間を大幅に過ぎて訪れたエアルを責めることなく、ローシュはエアルに睡眠の場を与えてくれた。

 睡眠不足だったとはいえ王族の――いや、誰かの膝の上で無防備に寝てしまうなんて自分らしくない。目覚めたあと、エアルは自身の行動に酷く狼狽えた。ベッドから飛び起き、「どうして起こしてくれなかったんですか!」とローシュに詰め寄った。

「どうしてもこうしてもないさ」

 ローシュは苦笑交じりに言うと、「よく眠れたみたいでよかった」とホッとした顔で言った。

 そのあと、改めて奉仕することをエアルからローシュに提案した。だがローシュはエアルの声を聞いてくれなかった。

 代わりに要求されたのが、今まで何かと理由をつけて中断させていた飛行訓練の再開。そしてその指導をしてもらいたいという内容のものだった。

 苦手なことに再チャレンジしようとする心意気は応援したい。けれど空を飛べることができるようになれば、自分が振り向いてくれるとは……期待しないでほしかった。ローシュが空を飛ぶことができるようになっても、自分が想いには応えられないのだから。

 知らぬ間に微妙な顔をしていたのだろう。こちらが考えていることを見抜いたのか、ローシュは「そんな顔をするな」とエアルの頭を撫でた。エアルに気を遣わせないような口ぶりだった。

「いつか俺も王になるんだ。今までの王ができていたことは、俺もなるべくできていた方がいいだろう?」

 エアルは少し間を空けてから、「そうですね」と答えた。腑に落ちない理由が、自分でもよくわからなかった。

 飛行訓練に自ら再チャレンジしただけあって、ローシュの上達ぶりは目を見張るものがあった。訓練を再開させたばかりだというのに、もう杖を使いこなし始めているのだ。数年のブランクを感じさせないどころか、飛行のセンスが元々備わっていなければここまで早く飛行技術を身につけることは難しいだろう。

 センスや才能がなかったわけじゃない。飛行訓練に対して、今まで本当にいいイメージがなかっただけなのだなとエアルは納得した。

 ローシュは杖の石突き部分を床にコツンと置き、ふうと息を吐いた。汗ばんだ額が、太陽の光に反射する。

「ゼリオスに乗る方が好きだが、空を飛ぶのも案外楽しいものだな」

「まだ空を飛ぶというほどの飛行高さではありませんでしたけどね」

「まぁた、おまえはそういうことを言う。教え子の意欲を削がないようにするのも、教育係の努めじゃないのか?」

「教え子の特性を見極めることも教育係の努めです」

 褒められると調子に乗るタイプだと自覚しているのか、ローシュは「痛いところを突くなぁ」とばつが悪そうに背中を丸めた。

 こうやって話していると、まだまだローシュは子どもだなと思う。王になる自覚も少しずつ芽生えているみたいだが、まだまだ幼さが目立つように感じる。

 それなのに……どうして自分はあの日、ローシュの膝の上で眠ってしまったんだろう。頭を撫でる手を心地いいと感じたのだろう。

 何よりもあの日、ローシュの囁いた言葉が気になって今も頭から離れない。今さらもう一度言ってくれと頼んだところで、ローシュは再び口にしてくれるのだろうか。その言葉を聞いて、自分は一体どんな反応をすればいいのか……。

 小さいため息をつくと、「まだ疲れが取れていないんじゃないか?」とローシュの整った顔が覗き込んできた。ドキリとする。思わず息を止め、後ずさる。


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

囚われ王子の幸福な再婚

高菜あやめ
BL
【理知的美形王子×痛みを知らない異能王子】  触れた人の痛みは感じても、自分の痛みに気づけない──そんな異能を持つ王子カシュアは、政略結婚で嫁いだ異国で幽閉され、四年間忘れられていた。  彼が再び人前に姿を現したのは、クーデターの混乱のさなか。そして、存在を持て余された末、次期宰相である王子との再婚が決まる。  冷静で無口な王子が、なぜかカシュアにだけは優しいのは、かつて彼が妖精物語に恋をした少年だったから――不器用な王子とともに、愛をたしかめ合うストーリー。※2025/11/26第三部スタート

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

売り物の身体ー社長に躾けられる美形タレントー

しち
BL
芸能界で生き残るために身体を武器にしてきた清瀬累。 枕営業も厭わない累の“商品価値”に口を出してきたのは、所属事務所の若き社長・剣崎だった。 「価値を下げるな」 そう言って累を囲い込む男の真意は――。 身体で仕事を取ってきた若手タレント兼俳優を事務所社長が躾け直す話です。 この世界で生きるための「価値」を教え込まれる話。

魔法使い、双子の悪魔を飼う

よんど
BL
「僕、魔法使いでよかった」 リュシーは宮廷専属の優秀な魔法使い。 人が寄りつけない程強い自身の力のせいで常に孤独なリュシーは、ある日何気なく街を歩いていた際に闇商人の話を聞いてしまう。貴重で価値ある''モノ''を高値で買い取る悪趣味な会が近くであるらしく気になったリュシーは其処で不思議な双子と出逢いを果たす。 本の見よう見まねで無償の愛を与え続けるリュシーに育てられた双子はいつしか胸の内に何とも言えない感情を抱く様になり... 独りぼっちだった魔法使いが出逢いを通して彼等と関係を紡いでいき幸せを知る微闇要素有りのBLファンタジー。 (※) 過激描写のある話に付けています。 *** 攻め視点 ※不定期更新です。 ※誤字脱字の報告助かるので嬉しいです。 ※何でもOKな方のみ拝読お願いします。 扉絵  YOHJI@yohji_fanart様 (無断転載×)

処理中です...