鳥籠の天翼と不屈の王子 ~初体験の相手をしたら本気になった教え子から結婚を迫られています~

須宮りんこ

文字の大きさ
39 / 60
洞窟

しおりを挟む

***

 二年ぶりに受け入れた熱杭は、まだエアルの弱点を覚えていた。

 杭の先が敏感になった箇所を擦り潰せば、「あぁっ」とあられもない嬌声と一緒に、唾液が土の上へとこぼれ落ちる。足元には、丸い染みが何滴かできている。自分の唾液と汗、そして芯の鈴口からあふれた蜜で形作られたそれらは、後ろから突き上げられるたびに二人分の影の上に散った。

 これ以上強い刺激を与えられたら、おかしくなりそうだ。大木の幹に両手をついた体勢のまま、エアルは顔を後ろに捻った。

「ぁ……っローシュ、さま……っ」

 逃げられるなんて思っていない。だが呼びかけた次の瞬間、獲物を逃がすまいとする雄の目がギロッとエアルを捕らえた。

 腰を折った男に顎を掴まれ、唇を奪われる。舐めるように絡めとられた舌を、付け根が痛むほどに吸われる。

「ふぁっ……んあっ」

 キスの合間を縫ってなんとか呼吸しようとするが、その間にもぐちゅぐちゅと後孔を掻き乱す男杭の律動は止まない。

 さっきまであんなに理性の壁を張っていた男とは思えないほどの変わりようだ。背後に立つローシュへ腰を突き出し、エアルは男の口づけと抽挿を一身に浴びながら恍惚に浸った。

 抱いてほしい――。そうローシュに願った直後、相手の理性の糸がプツンと切れた音がした。大木の幹に両手を押さえつけられ、キスの嵐を受けた。口内や耳の中に舌をねじ込まれ、食むような口づけを顔や首、鎖骨じゅうに浴びた。凝り固まっていた欲をたっぷりほぐしてもらった。

 ローシュのキスは強引だったが、少しも嫌ではなかった。王城から離れた場所、しかも虫の音が聞こえる夜空の下という特殊な環境にいるからだろうか。
見栄や建前、理性やプライドなど。人間の生活に合わせて体の表面に纏ってきた無駄なものを、少しずつ剥がされていくような感じがした。

 ローシュの寝室にある大きなベッドはここにはない。あるのは互いの体を支える大木の幹と雲の合間から見え隠れする月、そしてパチパチと弾ける焚き火の音だけ……。非日常を彩る開放的な場が新鮮で、エアルの体はいつもより感じやすかった。

 ほぼ全裸状態のエアルとは反対に、ズボンを太ももまで下げたローシュは邪魔そうにシャツの裾を捲り上げ、前歯で噛んでいる。くっ、と堪える吐息が律動とともにシャツの生地を通して聞こえてくる。男のその声だけで、どうしようもなく興奮した。

「ああっ、はっ……ン、そこ、ばっか、やめ……ああッ!」

 ローシュの動きにあわせて、男の腰骨がエアルの双丘を弾く。何かにしがみついていないと、今にも膝が崩れ折れてしまう。指先が大木の幹割れによって傷ついても構わなかった。

「……止めるか?」

 意地悪な声ではない。あくまでもこちらを気遣う声音で、ローシュが問うてくる。エアルはいやいやと首を横に振る。

「きも、ち……っ、ローシュさ、ま……っはあ、んっ! やめな、ぃで……っ」

 次の瞬間、内側から膝裏に侵入してきた手によって片脚をグイッと上側に開かれた。もう片方の脚のみで全身を支えることになったエアルの体に、ローシュは遠慮なく杭を打ちつけてくる。

 まるで動物の交尾のようだ。大股に開かれたせいで、結合部分があらわになる。互いの混じり合った体液が太股をツーッと流れていく。埋め込まれた杭をより深い箇所で感じ、挿されている感覚を鋭く拾った。

 腰を折ったローシュに耳朶を舐められながら、「エアル……っ」と濡れた囁き声で呼ばれる。そのあとに続く言葉を、容易に想像できてしまう自分が怖かった。

「……愛している。誰よりも何よりも……エアルさえいてくれれば、何もいらないんだ……っ」

 耳の奥がキンとなる。どうしてそんなに切ない声を出すのだろう。こちらまで苦しくなる。

 ふとエアルは思った。もしかすると、ローシュはエアルが考えているよりもずっと、自分の立場をわきまえているのではないだろうか……と。自分の恋がいかに不毛であるか。そして前途が茨の道となるか。王や国民の前でエアルへの想いを宣言したことの重みが、ようやく腹の底で蠢いた。男の覚悟というものが、どれだけ真摯なものだったか理解した。

 ローシュの痛いほどの想いに喉の奥が締め付けられる。切なさが腹の奥からこみ上げる。思わず「私も」と口から出てしまいそうなり、エアルは揺さぶられる体を支えながらハッと自身の口を手で封じた。

 今自分はなんて返そうとした? ローシュから与えられた愛の囁きに対して、自分も同じ気持ちだと伝えようとしなかったか?

 心臓がバクバクした。自然と口を衝きそうになった言葉に愕然とした。

 エアルが突然手で口を押さえたのを不思議に思ったのか、背後からローシュが「我慢しなくていい」と頭に口づけを落とした。大きくなっていく嬌声を、エアルが恥ずかしがっていると考えたのだろう。

 ローシュの勘違いだが、今は訂正する理由が見当たらなかった。エアルは相手の考え違いを指摘することなく、誤魔化すように首を後ろにやって男の唇に自身のそこを押し当てた。柔らかい唇が、パズルのようにフィットする。

「……もっと、ください」

 エアルは相手の唇をぺろりと舐め、誘うような目を送った。ゴクッと唾を呑んだローシュの喉仏がゴクッと嚥下する。

 ローシュが純情ならば、自分は淫乱になろう。そうすれば、お互いの気持ちに距離ができる気がした。自身の心を熱くする感情を、この気持ちを、ローシュに近づけてはいけない。距離が近くなればなるほど、自覚してしまうから。言葉にして、伝えたくなってしまうから。

 自分もローシュのことを、愛しているのだと。

 言葉を飲み込んだエアルとは反対に、ローシュは苦しそうに笑って言った。

「……愛してる」





しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

囚われ王子の幸福な再婚

高菜あやめ
BL
【理知的美形王子×痛みを知らない異能王子】  触れた人の痛みは感じても、自分の痛みに気づけない──そんな異能を持つ王子カシュアは、政略結婚で嫁いだ異国で幽閉され、四年間忘れられていた。  彼が再び人前に姿を現したのは、クーデターの混乱のさなか。そして、存在を持て余された末、次期宰相である王子との再婚が決まる。  冷静で無口な王子が、なぜかカシュアにだけは優しいのは、かつて彼が妖精物語に恋をした少年だったから――不器用な王子とともに、愛をたしかめ合うストーリー。※2025/11/26第三部スタート

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

売り物の身体ー社長に躾けられる美形タレントー

しち
BL
芸能界で生き残るために身体を武器にしてきた清瀬累。 枕営業も厭わない累の“商品価値”に口を出してきたのは、所属事務所の若き社長・剣崎だった。 「価値を下げるな」 そう言って累を囲い込む男の真意は――。 身体で仕事を取ってきた若手タレント兼俳優を事務所社長が躾け直す話です。 この世界で生きるための「価値」を教え込まれる話。

魔法使い、双子の悪魔を飼う

よんど
BL
「僕、魔法使いでよかった」 リュシーは宮廷専属の優秀な魔法使い。 人が寄りつけない程強い自身の力のせいで常に孤独なリュシーは、ある日何気なく街を歩いていた際に闇商人の話を聞いてしまう。貴重で価値ある''モノ''を高値で買い取る悪趣味な会が近くであるらしく気になったリュシーは其処で不思議な双子と出逢いを果たす。 本の見よう見まねで無償の愛を与え続けるリュシーに育てられた双子はいつしか胸の内に何とも言えない感情を抱く様になり... 独りぼっちだった魔法使いが出逢いを通して彼等と関係を紡いでいき幸せを知る微闇要素有りのBLファンタジー。 (※) 過激描写のある話に付けています。 *** 攻め視点 ※不定期更新です。 ※誤字脱字の報告助かるので嬉しいです。 ※何でもOKな方のみ拝読お願いします。 扉絵  YOHJI@yohji_fanart様 (無断転載×)

処理中です...