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ペンギンの回り道

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神と少女と魔術師と

不思議は7つで収まらずep4

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「次で5個目だね」

「……そうだねー」

 所詮噂、何事も起こらないのが普通ではあるはずだ。しかし、今何かが起こっているような気がする。それが何かは分からないし、危機感値センサーにもなにも引っかからない。愛美に何か危害や危険が及ぶわけではないのだろうか。
 ただ何か愛美が変という漠然とした不安が私を襲っている。

 次の七不思議は屋上へ続く階段の段数が13段になり、登り切るとあの世に繋がるというものだ。
 実際は4階から先に進むと踊り場があり、その先が屋上に続く階段となっている。現状、屋上へ続く階段はテープで封鎖されており、生徒の侵入が禁止されており扉にも鍵がかかっている。
 外観からも分かるが高いフェンスに覆われている。それでも侵入禁止になっているのは単に危険性の問題だ。アニメや漫画などでは屋上が開放されている描写がよく見られるが、最近では屋上に入れない学校のほうが多い。予め、危険が起こりそうな場所には対策を立てているということだろう。万が一にでも生徒が落ちてしまっては学校の責任問題になってしまう。

 私たちは4階へ進む。学校に入ってから1時間は経っていた。短くもない時間、共に行動していては会話も少くなる。私と愛美ならまだしも明日空先生とは面識もほぼなく、養護教諭ということしか知らないため話す内容もない。
 唯一の共通点が社長なのだが、社長のこともよく知らないのだ。魔術師であることとサークルの社長であることくらいしか分からない。帰ってきたら少し聞いてみよう。聞かれれば答えるスタンスの人なので何か知れるだろう。

 格好内を無言で歩けば響くのは歩いている足音のみ。壁に反響し、嫌に耳に残る。静寂を破るように愛美が声をかけた。

「なんで階段が13段になるんでしょう。もっと多くてもいいと思うんですけど。神社とかすごく長い階段ありますし」

 階段が13段になり、あの世に繋がるというからには13という文字に意味がある。私が思い浮かぶのはトランプの枚数と殺し屋の漫画くらいだがどちらもあの世との関係性があるとは思えない。

「予想ですけど13っていうのは忌み嫌われる数字なんですよぉ」

「嫌われる数字?なんでですか?」

「聖書にの中でイエス・キリストの弟子であるユダが13番目の席に座ったからとかですかねぇ。まぁこの話は創作とされていて実際には12人の弟子の中の1人らしいですけど」

 ユダの名前は私でも知っている。イエス・キリストとを裏切った裏切り者。銀貨30枚でキリストが処刑される原因を作った人物。その程度の知識しかないが有名な話である。

「あとはタロットカードです。タロットカードの13番目は何か知っていますか?」

 タロットカードといえば事務所の入り口には逆さになった『吊るされた男』のカードが飾られている。もう1人の社員さんが飾っているものらしい。その社員さんに会ったことはないため一度会ってみたい。
 タロットカードの実物も事務所に来て始めて見たくらいなのでタロットカードの種類にまで造詣は深くない。

「知らないですー」

「13番目は死神のカードですねぇ」

 人に死をもたらすものと言われる死神。タロットカードに詳しくなくても死と関連付けられているものだということはわかる。私は死んでいるが死神というものを見たことがない。死んだあとに魂を持っていくものと創作で見たことがある気がするが私がここにいるということは魂がこの場にあるということ。

 私が死んだ時の事が影響して魂がこの世界に残っているのだとは思うが、私は自分がどうして死んだのか分からない。愛美にスマホのニュースを見せてもらったが路地裏で死んでいたのを発見されたらしい。死因は事故死として片付けられていた。ただの事故死ならば私はここに居ないだろう。死ぬ間際の記憶もない。何が起こって私が死んだのか、いつしか分かるときが来るのだろか。

「とは言え、学校の七不思議をつくるのは学生ですしぃ、13日の金曜日とかを見て13を不吉な数字とでも思ったんじゃないですかねぇ」

「そんなもんですか?」

「そんなもんですよぉ。学生なんて」




「先生、ちょっといいですか」

「なんでしょう?」

「今目の前にある階段が屋上に続く階段で間違いないですよね?」

「そうですねぇ。4階まで来てそこから階段を15段登ってから踊り場で切り返して目の前にあるのが屋上へ続く階段ですねぇ」

 私たちは今、屋上へ続く階段の目の前にいる。目の前にある階段には違和感がある。それは噂に対して目の前である階段が違いすぎるという違和感だ。

「どう見ても1段しかありませんよ」

「私もそう見えますねぇ」

 目の前にあるのは階段とも言えないただの段差であった。階段ではなく、登りのスロープみたいになっており、扉の前に一段段差があるだけだった。13段も階段はなかった。4階から踊り場に来るまでの階段を数えていたが、明日空先生の言う通り15段あり、ここも13段ではなかった。

「これも七不思議の噂とは違うみたいだねー」

「七不思議も常に起こってるわけじゃないのかも知れませんねぇ」

 そもそも深夜の学校に忍び込むような生徒はそうそう居ない。それなのにも関わらず、深夜の学校に関しての噂があるのはただの創作の可能性が高いだろう。仮に本当だったとしても異変が常に起こっていれば誰かが気付くだろうし、不思議にはなっていない。

「5個目まで来たけどなにもないねー」

「やっぱり七不思議なんて何もないんじゃない?噂はやっぱり噂だね」

「まだ残り2つありますよぉ。最後まで調べましょう。それが私が出した依頼ですしぃ」

 忘れていたが明日空先生は依頼主だった。少なくとも私たちは依頼を受けた身であるため、最低限仕事をしなければならなかった。

「次はどこですかぁ?」

「2階の踊り場の大きな鏡を見つめると鏡の中に導かれるってやつみたいです」

「じゃあ私映らないじゃーん」

 私は幽霊であるため鏡には映らない。

「僕も鏡は苦手でしてぇ。なんか自分がここにいるのに、目の前にもう1人の自分がいるのって変な感じしませんかぁ?」

 生前は身嗜みを整えるのに鏡を毎日使っていたからか、先生の言う感覚は分からない。鏡は光の反射自分を映すのものであり、自分の存在を映すのものではない。
 鏡に向かって「お前は誰だ」と言い続けると精神がおかしくなるという話や、合わせ鏡に自分を映すと何処かに映った自分が変になるなんて話を聞いたことがある。

 これもオカルト的なものであり、信じるほどの噂ではない。幽霊なのに意志を持って行動している私がオカルトを否定するのはおかしい気もするけど。

「じゃあ私がやるので付いてきてください」

 愛美がそういうと先頭を歩き出す。今は4階なのでまだ下に降りていけばいいだけだ。愛美が表立って何かをするのは本日初なのだが危機感値センサーは動かない。鏡の件も噂で片付くものだろう。

 踊り場には全身が映るような大きい鏡がある。なぜ2階にだけあるのかは分からない。このことについて先生に聞いたこともないし、ただそこにあることを当たり前のように感じて過ごしていた。

 愛美のノートに書かれた噂によると「私をお導きください」と鏡の前に立って言うらしい。そうすると自分の本来の姿が映し出されて自分を未来に導いてくれるというものだった。他の噂に比べると少しふわっとしている。他のものは何がどうなるか分かっていたが鏡の七不思議はどうなるか分からない。

「着きました」

「それじゃ来栖さんお願いしますねぇ。何かあっても大丈夫ですよぉ」

「それってどういう意味ですかー?」

 何かあっても大丈夫というのはこれから何かが起こると言っているようなものだ。なんだかんだ話しているうちにこの先生の事を怪しく感じなくなっていた自分がいる。なぜそう思えたのか分からないが、気付いた時には警戒心がなくなっていた。

「気にしないでください。ささ、七不思議調べましょう」

 愛美を急かすように声を掛ける明日空先生。おかしい。先程までは何かをするのに急かすような事は無かった。この鏡の七不思議に限ってだけ積極性を見せている。
 
 自分は何もしない鏡の七不思議の解明を愛美に任せて。

「愛美ー。これ大丈夫かな?」

 心配になり愛美に声を掛ける。鏡の前に立っている愛美は鏡を見つめたまま私に答える。
 
「空穂ちゃんは危険だと思う?」

「危険って感じはしないけど……」

 小声で「明日空先生の言動が気になる」と伝える。チラリと明日空先生を見ても意地悪そうな笑みを浮かべて此方を見ているだけだった。

「なら大丈夫だと思う。未来へ導くって未来の姿を見せるとかそういう物だと思うし、あくまで噂だよ。これまでも何事も無かったし、何かあったら守ってね。私の守護霊さん」

 私が愛美を守るのは当たり前であり頼まれるまでもない。ただ私が直接何かをできるわけでなく、危険を察知してそれを避ける事しか出来ない。現状危険を感じないため愛美を信じて待つことにする。

「それじゃはじめるね」

 鏡には私がいつも見ている愛美の姿が映っている。暗くてはっきりとは見えないが、暗闇に目が慣れているため僅かに差し込む月明かりだけでも鏡の愛美は見える。私の姿は当然映っておらず、明日空先生の姿も見えない。

 明日空先生の姿がない。

「(あれ?明日空先生どこ行ったの!?)」

 当たりを見回しても明日空先生の姿は見えない。愛美がこの場にいる以上動くわけにいかない。まずは愛美が鏡に話しかけるのを止めて明日空先生を探さないと。

「愛美。ちょっとま」

「私をお導きください」

 私の制止は間に合わず鏡に向かって愛美は語りかけた。今までどおり何も起こらなければ良かった。しかし、その期待は容易く裏切られる。

 鏡に映った愛美は、独りでに腕を動かし始めた。

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