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僕は君の・・・ 2
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シャワーを浴びバスルームから出ると、柊さんが廊下で膝を抱えて座り込んでいた。
「あ・・・夏、あの・・・」
「今は柊さんと話したくありません。少し頭冷やしたいんで」
彼の前を素通りして、自室に戻り着替えてマンションを出た。
「もー、突然呼び出して何?わたしそんな暇じゃないんだからね!」
久しぶりに会う河森 千里が、ファミレスの安い白ワインを飲みながら文句を言う。
「締切近いんだから、そんなに長くいれないよ?あんたと違って忙しいんだから」
美術系の大学を出た河森は、今やちょっとした売れっ子絵本作家になっていた。
「悪かったな、暇で。でもたまには外に出ないと出逢いも無いままババアになんだろ」
「たまの外出が、ファミレスで夏くんと会うって時点で出逢いなんか無いでしょ。いいの!わたしの事はほっといて!・・・柊さんとなんかあった?」
鋭い。つーか、なんかあった時しか河森に連絡しないから、バレバレか。
「息子」
「は?」
「息子なんだって、俺」
「それがどうしたの?書類上は事実じゃない。そのおかげで柊さんと一緒にいれるんでしょ」
相変わらずの河森の物言いに、抉られた傷が更に深くなる。
「家族だから離れられない。わからない?」
「それはわかってるよ。俺は、息子扱いされんのが嫌なんだよ」
はあ、とバカにしたように呆れ顔をする河森。
「わかってないよ、あんたは。まだまだ子供なんだね、息子扱いされて当然だわ」
どういう事?
「血が繋がらなくても親子でいる間は、あんたは柊さんのものなの。簡単には手放せない、お互いにね」
「・・・」
「だけど、恋人だけの関係になっちゃったらそうはいかない。もし恋人を好きじゃなくなったら?嫌われたらどうする?」
恋人を好きじゃなくなったら、嫌われたら・・・
「別れる?」
「あんたは柊さんと、そういう関係になりたいの?何があってもずっと一緒にいたいんでしょ?」
柊さんと離れるなんて、想像すらしたくない。
「それに、いくらLGBTに対応してくれる世の中になったって言っても、世間からの風当たりはまだ強いんだよ。柊さんは『息子』っていう逃げ道、あんたに作ってくれてるんじゃないの?」
・・・なんだよ、それ。
離れていかないように『息子』として、それと同時に、離れた時の事を考えて『息子』として俺を見てるってことか?
俺は、ただ柊さんが好きで、独り占めしたくて、早く対等な関係になりたくて、頼って欲しくて・・・そればっかり考えてた。
敵わない。やっぱり俺はいつまでたってもガキのまんまなんだ。
あの人の優しさにも、淋しさにも気付いてやれない。
「どーせ、酷いこと言って家飛び出してきたんでしょ?早く帰って謝ったら?コドモの夏くんとは違うオトナに大事な柊さんが頼っちゃう前に」
河森は席を立つ。
「柊さんはもう俺以外の所には行かない。・・・ありがとな、河森」
「すっごい自信。もう春なのに鳥肌立ったわ、さっむ・・・じゃあね」
振り返る事無く河森は店を出ていく。
アイツはきっと俺より柊さんの事を理解してる。
美人なのに、柊さんを諦めてから誰とも付き合っていないのは何故だろう。
美術室にあった あの絵はどうなったんだろう。
もしかしたら、今も河森は柊さんを・・・
少しだけ軋んだ胸を拭うよう撫で下ろし、俺はマンションへと急いだ。
玄関のドアを開けるなり、俺は大声で叫ぶ。
「柊さん!ごめんなさい!」
・・・・・・・・・
あれ・・・「近所迷惑だろ」って叱る声がしない。
家の中を探しても、柊さんの姿がない。
え、俺が出てって2時間も経ってないのに、どっか出掛けた?
『コドモの夏くんとは違うオトナに・・・』
河森の言葉が頭を過ぎる。
イヤ、柊さんに限ってそんな・・・限ってそんな事、大いにあるな。
すぐに柊さんに電話をかける。
呼出音が鳴って、近くでスマホの着信音が鳴る。
リビングのソファの上、俺からの着信を知らせるロック画面。
ケンカの後で、スマホ置いて居なくなってる。
何コレ、探さないでください的な・・・?
多少 気が引けたけど、ロック解除のパターンを入力してスマホをチェックする。
こんな時のために、こっそりパターン チラ見しといて良かった。
発信履歴にいつも使ってるタクシー会社の名前。
他に連絡した形跡は無い。
突然居なくなって、ひとりでどこに行ったんだよ!
「あ・・・夏、あの・・・」
「今は柊さんと話したくありません。少し頭冷やしたいんで」
彼の前を素通りして、自室に戻り着替えてマンションを出た。
「もー、突然呼び出して何?わたしそんな暇じゃないんだからね!」
久しぶりに会う河森 千里が、ファミレスの安い白ワインを飲みながら文句を言う。
「締切近いんだから、そんなに長くいれないよ?あんたと違って忙しいんだから」
美術系の大学を出た河森は、今やちょっとした売れっ子絵本作家になっていた。
「悪かったな、暇で。でもたまには外に出ないと出逢いも無いままババアになんだろ」
「たまの外出が、ファミレスで夏くんと会うって時点で出逢いなんか無いでしょ。いいの!わたしの事はほっといて!・・・柊さんとなんかあった?」
鋭い。つーか、なんかあった時しか河森に連絡しないから、バレバレか。
「息子」
「は?」
「息子なんだって、俺」
「それがどうしたの?書類上は事実じゃない。そのおかげで柊さんと一緒にいれるんでしょ」
相変わらずの河森の物言いに、抉られた傷が更に深くなる。
「家族だから離れられない。わからない?」
「それはわかってるよ。俺は、息子扱いされんのが嫌なんだよ」
はあ、とバカにしたように呆れ顔をする河森。
「わかってないよ、あんたは。まだまだ子供なんだね、息子扱いされて当然だわ」
どういう事?
「血が繋がらなくても親子でいる間は、あんたは柊さんのものなの。簡単には手放せない、お互いにね」
「・・・」
「だけど、恋人だけの関係になっちゃったらそうはいかない。もし恋人を好きじゃなくなったら?嫌われたらどうする?」
恋人を好きじゃなくなったら、嫌われたら・・・
「別れる?」
「あんたは柊さんと、そういう関係になりたいの?何があってもずっと一緒にいたいんでしょ?」
柊さんと離れるなんて、想像すらしたくない。
「それに、いくらLGBTに対応してくれる世の中になったって言っても、世間からの風当たりはまだ強いんだよ。柊さんは『息子』っていう逃げ道、あんたに作ってくれてるんじゃないの?」
・・・なんだよ、それ。
離れていかないように『息子』として、それと同時に、離れた時の事を考えて『息子』として俺を見てるってことか?
俺は、ただ柊さんが好きで、独り占めしたくて、早く対等な関係になりたくて、頼って欲しくて・・・そればっかり考えてた。
敵わない。やっぱり俺はいつまでたってもガキのまんまなんだ。
あの人の優しさにも、淋しさにも気付いてやれない。
「どーせ、酷いこと言って家飛び出してきたんでしょ?早く帰って謝ったら?コドモの夏くんとは違うオトナに大事な柊さんが頼っちゃう前に」
河森は席を立つ。
「柊さんはもう俺以外の所には行かない。・・・ありがとな、河森」
「すっごい自信。もう春なのに鳥肌立ったわ、さっむ・・・じゃあね」
振り返る事無く河森は店を出ていく。
アイツはきっと俺より柊さんの事を理解してる。
美人なのに、柊さんを諦めてから誰とも付き合っていないのは何故だろう。
美術室にあった あの絵はどうなったんだろう。
もしかしたら、今も河森は柊さんを・・・
少しだけ軋んだ胸を拭うよう撫で下ろし、俺はマンションへと急いだ。
玄関のドアを開けるなり、俺は大声で叫ぶ。
「柊さん!ごめんなさい!」
・・・・・・・・・
あれ・・・「近所迷惑だろ」って叱る声がしない。
家の中を探しても、柊さんの姿がない。
え、俺が出てって2時間も経ってないのに、どっか出掛けた?
『コドモの夏くんとは違うオトナに・・・』
河森の言葉が頭を過ぎる。
イヤ、柊さんに限ってそんな・・・限ってそんな事、大いにあるな。
すぐに柊さんに電話をかける。
呼出音が鳴って、近くでスマホの着信音が鳴る。
リビングのソファの上、俺からの着信を知らせるロック画面。
ケンカの後で、スマホ置いて居なくなってる。
何コレ、探さないでください的な・・・?
多少 気が引けたけど、ロック解除のパターンを入力してスマホをチェックする。
こんな時のために、こっそりパターン チラ見しといて良かった。
発信履歴にいつも使ってるタクシー会社の名前。
他に連絡した形跡は無い。
突然居なくなって、ひとりでどこに行ったんだよ!
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