貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご

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廊下を進み部屋に入ると
「お母様……お父様は……………」
そう言って不安そうな顔で私を見上げてきたのは息子のアレクシスだった。
私はアレクシスの頭をそっと撫でる。
「お父様は今日もお仕事なの」
私のその言葉に少し目を見開いて驚いたような表情をした後に悲しそうに目を伏せたアレクシス、しかし次に顔を上げた時にはその顔に笑みを浮かべていた。
「お仕事ならしょうがないね」
そう言った言葉は涙を堪えて震えていたがアレクシスが泣かないよう気丈に振舞っているので私も笑顔でアレクシスの頭を胸に抱いた。
「お誕生日おめでとう。貴方が私の元へと産まれて来てくれて本当に嬉しいわ」
そして泣くのを堪えているその顔を目の前からじっと見つめてその柔らかな頬にキスをおとす。
すると恥ずかしそうに、でも嬉しそうにはにかむアレクシス。
そしてアレクシスは屋敷の使用人達が今か遅しと今日の主役を待っているそのお祝いの輪の中へと駆けて行く。
その背中を見送りながら今ここにいない一応あの子の父親であるあの男の事を思う。

この場に来ないのであれば初めから期待させるような事を言わなければ良いのにと……。
昨日のやり取りを思い出してため息が出た。
あの男は確かに言ったのだ「明日はアレクシスの誕生日だな、屋敷のみんなで盛大にお祝いしよう」と、そして「明日はちゃんと仕事も休みをとったから」と。
普段からあまりに構って貰えない父親からそんな事を言われてしまえばそりゃ子供は期待してしまうだろう。普段どれだけ忙しくても自分の誕生日には休みをとって祝ってくれるのだと、その位には自分は愛されているのだと。当然だ。
使用人達に囲まれて誕生日を祝われて嬉しそうな顔をするアレクシスを見て私はそっと部屋を出る。
アレクシスに渡す誕生日プレゼントを自分の部屋へと取りに戻る。
その道すがら窓に映る自分の顔をみる。

あの男に期待を持たなければ楽になれるわよとまだ幼いアレクシスには言える訳も無い、だがもうそろそろ気付いたのだろう………期待するだけ無駄だと。
あの男には家族を大事にするという気持ちがそもそも無いという事を。
家族にとって大事な祝い事もあの男には重要では無い。もう何度こうして今度こそはと期待して裏切られたか。

そこには夫に愛されない死んだ目をした無表情な女の顔が映っていた。

こんな私だから愛されないのだろうか……。

それならばアレクシスは完全な被害者ね。

そう思ったたら無表情な私の顔に自然と笑みが浮かんだ。
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