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「あら、珍しいこの時間にお帰りなのね」
廊下を歩いているとリチャードが一応形ばかりに夫の部屋とされている部屋へと入って行った。
「そのようでございますね」
メルはさも興味が無いようにそう言った。
一応毎日屋敷には帰って来て朝もこの屋敷から仕事へと出掛けているのだが、如何せん生活リズムが私達とは全く異なるので屋敷の中でその姿を目にする事は滅多に無い。
結婚した当時は帰って来るのを待ってお迎えしたり朝も早く起きて見送ったりしたのだが「こちらの仕事の都合でこんな時間になっているのだから無理してこちらに合わせなくて良い」と言われてからは夫がいつ帰っていつ出掛けているかなどは知らされていない。
私がその部屋の前を通り過ぎる丁度その時、部屋の扉が開きそこから夫が現れた。
「「……………………………」」
何も言わない夫と何も言わない私…。
「…お久しぶりでございます」
私はそう言ってお辞儀を一つ。
「ああ……いや、そんなに久しぶり…だろうか」
私はアレクシスの誕生日の日とその前日に夫の姿を見ているけど…。
「こうしてお話させて頂くのは二ヶ月振りですわ」
「………そうだったか…」
このままここで弾まない会話をしていてもしょうがない。夫も普段から家族と交流する時間すら勿体ないと思っているのだろうし。
「私はこれから食事にいたしますが貴方はどうなさいますか?必要であれば用意させますが」
普通なら家主の食事など何も言わなくても準備されて当然であるものだが普段いない時間に居ないはずの人がいるのだからこれは当然の確認であろう。
「いや、これからまだ城に戻る」
私は概ね予想通りの返事に一つ頷いた。
「そうですか、差し出がましい事を申しました」
「いや、そんな事は無い」
「では行ってらっしゃいませ」
私はそれだけ言うと食堂へ向かって歩き出した。
食堂へ着くと既にアレクシスが待っていた。
「遅くなってごめんなさいね」
「お母様!いえ、大丈夫です。僕も今来たところです!」
「そう?お腹が空いたでしょう?すぐに食事にしましょう」
「はい!」
和やかに始まる食事。いつものように料理長の心遣いが感じられる美味しい食事にアレクシスも笑顔で食べている。
それでも少し前までは食事の度に「お父様は……」と聞いて来たアレクシス。
その度に「お父様はお仕事なの」と言う私に不満は言わなかったけれど落ち込んだ顔をよくしていた。
そんな不満を言わない子だったけれど一度だけ「どうしても今日はお父様と一緒に食事をしたい」と言ったことがあった。
どうやらどこかの子供が普段忙しいお父様と食事に行って嬉しかったと言ったらしく、羨ましくなってしまったようだった。
私はどうせ断られるから無駄だろうと思ったもののこのままではアレクシスがあまりに可哀想だと思いリチャードから夫に一度食事を一緒にしてもらいたいと伝えて貰った。
すると意外な事に明日ならば早く帰れるからと了承の返事を貰ってアレクシスにそう伝えた。
すると普段は何も言わないけれどやはり寂しかったのだろう、とてもとても喜んだ。
しかし、そんな食事の席にやはり夫は現れなかった。
あの日のアレクシスの顔は一生忘れられない。
廊下を歩いているとリチャードが一応形ばかりに夫の部屋とされている部屋へと入って行った。
「そのようでございますね」
メルはさも興味が無いようにそう言った。
一応毎日屋敷には帰って来て朝もこの屋敷から仕事へと出掛けているのだが、如何せん生活リズムが私達とは全く異なるので屋敷の中でその姿を目にする事は滅多に無い。
結婚した当時は帰って来るのを待ってお迎えしたり朝も早く起きて見送ったりしたのだが「こちらの仕事の都合でこんな時間になっているのだから無理してこちらに合わせなくて良い」と言われてからは夫がいつ帰っていつ出掛けているかなどは知らされていない。
私がその部屋の前を通り過ぎる丁度その時、部屋の扉が開きそこから夫が現れた。
「「……………………………」」
何も言わない夫と何も言わない私…。
「…お久しぶりでございます」
私はそう言ってお辞儀を一つ。
「ああ……いや、そんなに久しぶり…だろうか」
私はアレクシスの誕生日の日とその前日に夫の姿を見ているけど…。
「こうしてお話させて頂くのは二ヶ月振りですわ」
「………そうだったか…」
このままここで弾まない会話をしていてもしょうがない。夫も普段から家族と交流する時間すら勿体ないと思っているのだろうし。
「私はこれから食事にいたしますが貴方はどうなさいますか?必要であれば用意させますが」
普通なら家主の食事など何も言わなくても準備されて当然であるものだが普段いない時間に居ないはずの人がいるのだからこれは当然の確認であろう。
「いや、これからまだ城に戻る」
私は概ね予想通りの返事に一つ頷いた。
「そうですか、差し出がましい事を申しました」
「いや、そんな事は無い」
「では行ってらっしゃいませ」
私はそれだけ言うと食堂へ向かって歩き出した。
食堂へ着くと既にアレクシスが待っていた。
「遅くなってごめんなさいね」
「お母様!いえ、大丈夫です。僕も今来たところです!」
「そう?お腹が空いたでしょう?すぐに食事にしましょう」
「はい!」
和やかに始まる食事。いつものように料理長の心遣いが感じられる美味しい食事にアレクシスも笑顔で食べている。
それでも少し前までは食事の度に「お父様は……」と聞いて来たアレクシス。
その度に「お父様はお仕事なの」と言う私に不満は言わなかったけれど落ち込んだ顔をよくしていた。
そんな不満を言わない子だったけれど一度だけ「どうしても今日はお父様と一緒に食事をしたい」と言ったことがあった。
どうやらどこかの子供が普段忙しいお父様と食事に行って嬉しかったと言ったらしく、羨ましくなってしまったようだった。
私はどうせ断られるから無駄だろうと思ったもののこのままではアレクシスがあまりに可哀想だと思いリチャードから夫に一度食事を一緒にしてもらいたいと伝えて貰った。
すると意外な事に明日ならば早く帰れるからと了承の返事を貰ってアレクシスにそう伝えた。
すると普段は何も言わないけれどやはり寂しかったのだろう、とてもとても喜んだ。
しかし、そんな食事の席にやはり夫は現れなかった。
あの日のアレクシスの顔は一生忘れられない。
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