貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご

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「一度私と領地の屋敷に行きましょうか?」
朝、いつものように二人朝食を摂りながら私はアレクシスにそう提案した。
「りょうち…ですか?」
聞き慣れない言葉にキョトンとした顔でこちらを見てくるアレクシスがとても可愛い。


結婚して直ぐに一度だけ夫と訪れた事が有る。
貰ったからには放っておくなんて無責任な事も出来ないので状況確認のため結婚祝いと称して夫の職場から与えられた唯一まともな休みを使った。
領地までは馬車で片道三日程かかる。
その時の夫の休みは七日、行ってもほぼトンボ帰りしなければならない日程。
それでもどうにか領地まで行き夫との初夜はそこで…しかしながら翌朝目覚めた時にはもう既に隣に夫の姿は無く、どうやら私が目を覚ます前に一人で王都に帰ったようだった。
流石にここまで蔑ろにされるとは思っていなかった。
朝起きたら優しく微笑んで挨拶を交わす……そんな事を夢見ていた訳では無かったけれど……黙って置いて帰られるなんて。
その時私の中の何かが急激に冷えて固まった。
初めこそ早く夫を追いかけて王都に戻った方がいいのかもしれないと思ったものの、黙って置いて帰る位に邪魔だと思っている妻が早く帰ったところで何故帰って来たのかと嫌な顔をされるかもしれないと考え直し、そこから三ヶ月程私は領地で過ごした。
勿論その間に夫から早く帰って来いなどと言われる事も無く………。
王都に戻る時には、結果辛い思い出しか無かったこの場所に二度と来る事は無いかもしれないと思っていたけれど……。



それでもあの領地はとても良い環境で今になって考えればあの時の私もあの土地と領地の人々には救われたのだと思う事が出来る……だからきっとアレクシスにとっても、とてもいい環境だと思う。
私は目の前に座るアレクシスに微笑みかける。
「そうよ、お母様のねお父様。アレクシスのお爺様が下さった所でね、自然も多くてとてもいい所なの。向こうのお屋敷の近くには大きな川もあってお魚もいたりして、敷地の林には小さな野生のうさぎも居るのよ」
そう言うとアレクシスの瞳がキラキラ輝き出した。
「行きたい!行きたいです!」
「そう?じゃあ決まりね。では三日後に出発にしましょう、それまでに準備をしないといけないわね」
「じゅんび?」
「ええ、そうよ。行ったらすぐには帰って来れないからアレクシスも大事な物を持って行かないといけないでしょう?」
「だいじなもの……」
「そうよ、例えばそうねぇ……アレクシスが毎日抱いて寝ているクマのお人形さんとか?」
私がそう言うと少し恥ずかしそうにしたアレクシスだったが「わかりました!すぐにじゅんびします!」と言って部屋へと駆けて行った。
その後ろ姿を見て思う。

父は一緒に行くのかと一度も聞かなかったアレクシス………。
遅かれ早かれいずれはこうなると思っていた。
あの子から父親の存在を消したかった訳では無いけれど、父親という存在があの子を傷付ける事しか出来ないのならばそれももう仕方ない事なのかもしれない。
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