文字の大きさ
大
中
小
6 / 18
⑥
「一度私と領地の屋敷に行きましょうか?」
朝、いつものように二人朝食を摂りながら私はアレクシスにそう提案した。
「りょうち…ですか?」
聞き慣れない言葉にキョトンとした顔でこちらを見てくるアレクシスがとても可愛い。
結婚して直ぐに一度だけ夫と訪れた事が有る。
貰ったからには放っておくなんて無責任な事も出来ないので状況確認のため結婚祝いと称して夫の職場から与えられた唯一まともな休みを使った。
領地までは馬車で片道三日程かかる。
その時の夫の休みは七日、行ってもほぼトンボ帰りしなければならない日程。
それでもどうにか領地まで行き夫との初夜はそこで…しかしながら翌朝目覚めた時にはもう既に隣に夫の姿は無く、どうやら私が目を覚ます前に一人で王都に帰ったようだった。
流石にここまで蔑ろにされるとは思っていなかった。
朝起きたら優しく微笑んで挨拶を交わす……そんな事を夢見ていた訳では無かったけれど……黙って置いて帰られるなんて。
その時私の中の何かが急激に冷えて固まった。
初めこそ早く夫を追いかけて王都に戻った方がいいのかもしれないと思ったものの、黙って置いて帰る位に邪魔だと思っている妻が早く帰ったところで何故帰って来たのかと嫌な顔をされるかもしれないと考え直し、そこから三ヶ月程私は領地で過ごした。
勿論その間に夫から早く帰って来いなどと言われる事も無く………。
王都に戻る時には、結果辛い思い出しか無かったこの場所に二度と来る事は無いかもしれないと思っていたけれど……。
それでもあの領地はとても良い環境で今になって考えればあの時の私もあの土地と領地の人々には救われたのだと思う事が出来る……だからきっとアレクシスにとっても、とてもいい環境だと思う。
私は目の前に座るアレクシスに微笑みかける。
「そうよ、お母様のねお父様。アレクシスのお爺様が下さった所でね、自然も多くてとてもいい所なの。向こうのお屋敷の近くには大きな川もあってお魚もいたりして、敷地の林には小さな野生のうさぎも居るのよ」
そう言うとアレクシスの瞳がキラキラ輝き出した。
「行きたい!行きたいです!」
「そう?じゃあ決まりね。では三日後に出発にしましょう、それまでに準備をしないといけないわね」
「じゅんび?」
「ええ、そうよ。行ったらすぐには帰って来れないからアレクシスも大事な物を持って行かないといけないでしょう?」
「だいじなもの……」
「そうよ、例えばそうねぇ……アレクシスが毎日抱いて寝ているクマのお人形さんとか?」
私がそう言うと少し恥ずかしそうにしたアレクシスだったが「わかりました!すぐにじゅんびします!」と言って部屋へと駆けて行った。
その後ろ姿を見て思う。
父は一緒に行くのかと一度も聞かなかったアレクシス………。
遅かれ早かれいずれはこうなると思っていた。
あの子から父親の存在を消したかった訳では無いけれど、父親という存在があの子を傷付ける事しか出来ないのならばそれももう仕方ない事なのかもしれない。
朝、いつものように二人朝食を摂りながら私はアレクシスにそう提案した。
「りょうち…ですか?」
聞き慣れない言葉にキョトンとした顔でこちらを見てくるアレクシスがとても可愛い。
結婚して直ぐに一度だけ夫と訪れた事が有る。
貰ったからには放っておくなんて無責任な事も出来ないので状況確認のため結婚祝いと称して夫の職場から与えられた唯一まともな休みを使った。
領地までは馬車で片道三日程かかる。
その時の夫の休みは七日、行ってもほぼトンボ帰りしなければならない日程。
それでもどうにか領地まで行き夫との初夜はそこで…しかしながら翌朝目覚めた時にはもう既に隣に夫の姿は無く、どうやら私が目を覚ます前に一人で王都に帰ったようだった。
流石にここまで蔑ろにされるとは思っていなかった。
朝起きたら優しく微笑んで挨拶を交わす……そんな事を夢見ていた訳では無かったけれど……黙って置いて帰られるなんて。
その時私の中の何かが急激に冷えて固まった。
初めこそ早く夫を追いかけて王都に戻った方がいいのかもしれないと思ったものの、黙って置いて帰る位に邪魔だと思っている妻が早く帰ったところで何故帰って来たのかと嫌な顔をされるかもしれないと考え直し、そこから三ヶ月程私は領地で過ごした。
勿論その間に夫から早く帰って来いなどと言われる事も無く………。
王都に戻る時には、結果辛い思い出しか無かったこの場所に二度と来る事は無いかもしれないと思っていたけれど……。
それでもあの領地はとても良い環境で今になって考えればあの時の私もあの土地と領地の人々には救われたのだと思う事が出来る……だからきっとアレクシスにとっても、とてもいい環境だと思う。
私は目の前に座るアレクシスに微笑みかける。
「そうよ、お母様のねお父様。アレクシスのお爺様が下さった所でね、自然も多くてとてもいい所なの。向こうのお屋敷の近くには大きな川もあってお魚もいたりして、敷地の林には小さな野生のうさぎも居るのよ」
そう言うとアレクシスの瞳がキラキラ輝き出した。
「行きたい!行きたいです!」
「そう?じゃあ決まりね。では三日後に出発にしましょう、それまでに準備をしないといけないわね」
「じゅんび?」
「ええ、そうよ。行ったらすぐには帰って来れないからアレクシスも大事な物を持って行かないといけないでしょう?」
「だいじなもの……」
「そうよ、例えばそうねぇ……アレクシスが毎日抱いて寝ているクマのお人形さんとか?」
私がそう言うと少し恥ずかしそうにしたアレクシスだったが「わかりました!すぐにじゅんびします!」と言って部屋へと駆けて行った。
その後ろ姿を見て思う。
父は一緒に行くのかと一度も聞かなかったアレクシス………。
遅かれ早かれいずれはこうなると思っていた。
あの子から父親の存在を消したかった訳では無いけれど、父親という存在があの子を傷付ける事しか出来ないのならばそれももう仕方ない事なのかもしれない。
感想 242
あなたにおすすめの小説
わたくしは、すでに離婚を告げました。撤回は致しません
ユリアーナは夫である伯爵のブレフトから、完全に無視されていた。ブレフトの愛人であるメイドからの嫌がらせも、むしろメイドの肩を持つ始末だ。生来のセンスの良さから、ユリアーナには調度品や服の見立ての依頼がひっきりなしに来る。その収入すらも、ブレフトは奪おうとする。ユリアーナの上品さ、審美眼、それらが何よりも価値あるものだと愚かなブレフトは気づかない。伯爵家という檻に閉じ込められたユリアーナを救ったのは、幼なじみのレオンだった。ユリアーナに離婚を告げられたブレフトは、ようやく妻が素晴らしい女性であったと気づく。けれど、もう遅かった。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
初恋の人を思い出して辛いから、俺の前で声を出すなと言われました
「俺の前で声を出すな!!」
マトート子爵令嬢シャルリーの婚約者であるレロッズ伯爵令息エタンには、隣国に嫁いでしまった初恋の人がいました。
シャルリーの声はその女性とそっくりで、聞いていると恋人になれなかったその人のことを思い出してしまう――。そんな理由でエタンは立場を利用してマトート家に圧力をかけ、自分の前はもちろんのこと不自然にならないよう人前で声を出すことさえも禁じてしまったのです。
自分の都合で好き放題するエタン、そんな彼はまだ知りません。
その傍若無人な振る舞いと自己中心的な性格が、あまりにも大きな災難をもたらしてしまうことを。
※11月18日、本編完結。時期は未定ではありますが、シャルリーのその後などの番外編の投稿を予定しております。
※体調の影響により一時的に、最新作以外の感想欄を閉じさせていただいております。
【完結】捨てられた侯爵夫人の日記
十五歳で侯爵家に嫁いだイベリス。
夫ハイドランジアは、愛人と別邸に住み、三年の月日が経った。
白い結婚による婚姻不履行が間近に迫る中、イベリスは、高熱を出して記憶を失う。
戻ってきた夫は、妻に仕える侍女アリッサムから、いない月日の間書き綴られた日記を手渡される。
そこには、出会った日から自分を恋しいと思ってくれていた少女の思いの丈が詰まっていた。
十八歳になり、美しく成長した妻を前に、ハイドランジアは、心が揺らぐ。
自分への恋心を忘れてしまったとしても、これ程までに思ってくれていたのなら、また、愛を育めるのではないのか?
様々な人間の思いが交錯し、物語は、思わぬ方向へと進んでいく。
【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです
貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。
どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。
ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。
旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。
現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。
貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。
それすら理解せずに堂々と……。
仕方がありません。
旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。
ただし、平和的に叶えられるかは別です。
政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?
ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。
折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。
夫と息子に捨てられたので、全部置いて出て行きます。明日から、タオルがなくても知りません。
夫と息子に裏切られ、すべてを奪われた女は、何も言わずに家を出た。
「どうせ戻ってくる」
そう思っていた男たちの生活は、あっけなく崩壊する。
食事も、金も、信用も失い、
やがて男は罪に落ち、息子は孤独の中で知る。
――母がいた日常は、当たり前ではなかった。
後悔しても、もう遅い。
王太子に「戦友としか思えない」と言われたので、婚約を解消しました
婚約者である王太子ヘンリーから「君のことは戦友としか思えない」と告げられた、公爵令嬢アリスティア。
十年以上の王妃教育を積んできた彼女は、静かに婚約解消を受け入れる。
一年後、幸せな結婚を迎えた彼女にとって、ヘンリーのその後は――もうどうでもいいことだった。
【完結】聖女と国王は恋仲にしか見えませんので、私は妻をやめます
王妃アリアは、国王レオンと聖女セレナが愛し合っているという噂に苦しんでいた。夜通し共に過ごし、人前で名前を呼び合い、触れ合う二人は、誰の目にも恋仲にしか見えない。
それでもレオンは「国を守るために必要なことだ」と妻の痛みに気づかず、セレナも王妃の席へ座り、妻のように振る舞い続ける。ついに礼拝堂で、アリアは皆の前で二人を問いただす。
「お二人には、本当に呆れましたわ」そして結婚指輪をレオンへ投げつけ、「私は、あなたの妻をやめます」と宣言する。だが王妃が去った直後、妻になったつもりで振る舞う聖女へ、王宮中の視線は冷たく変わっていき。