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「ザイール様、国王陛下のご用意が整いましたので謁見の間までお願い致します」
私たちを控え室まで案内してくれたお城の侍女がザイールに声をかける。
「ああ、わかった。…さぁパメラリア行こうか」
そう言って立ち上がったザイールは私をエスコートするかのように手を差し出した。
不本意ながら皇子の婚約者をやっていた経験から慣れた手つきで差し出された手に自らの手を重ね立ち上がる。
「…ありがとう」
言いたい事は沢山ある。
ザイールははっきり言わなかったけど多分私の考えは間違ってない。
「ザイール様」と呼ばれて返事をした彼の顔は私がよく知っている王族のソレと重なって…何だか知らない人の様だった。


「よく来たなザイール。こうして会うのは久しぶりだな」
砂の国の国王陛下……褐色の肌にザイールによく似た顔。
「そうですね、お久しぶりです父上…いえ、陛下」
「父上で構わん」
「ありがとうございます」
……やっぱりそうだったのね。国王陛下に挨拶をするザイールの顔を横目でチラリと見る。
そうだとは思っていたけど……ザイールはこの国の王子だった。
「で、そちらがパメラリア嬢だな」
急に国王陛下がこちらを向く。ザイールに気を取られていた私は慌てて挨拶をする。
「お初にお目にかかります。わたくしリステリアから参りましたパメラリアでございます」
スカートを持ち上げ深く腰を折る。
「いい、いい構わん。堅苦しい挨拶はよい、さぁ顔を上げよ」
チラリ横にいるザイールを見ると笑顔で頷いたので私は顔を上げた。
「ありがとうございます」
「さて、パメラリアだったな…。だいたいの事はザイールから聞いているが、婚約破棄されて失意の中この国に来たとか…大変だったのだな」
「!」
うおーい!ザイール!何言ってんの?なんで私があの皇子に振られてショックでこの国に来たみたいになってんの?ちがーう!断じてちがーう!
見てよ!あの国王陛下の憐れみの表情!
「いや!違います!いや、婚約破棄は本当なんですけど!でも!あの!その!失意の中とかでは無く!本当に馬鹿な元婚約者の事はどうでも良かったのでむしろ婚約破棄されてラッキーみたいな!だからですね、その私は自ら進んで喜んでこの国に来たのであって決して失恋の痛手を癒すとかそういう事ではないのです!私があんなクズな婚約者に捨てられてショックのあまり国を出てここにいると思われるのは大変遺憾と言いますか!そういう事ですので誤解しないで下さい!」
あんなクズな元婚約者に婚約破棄されてこの国にいると思われるのが嫌すぎて必死に«そうでは無い»と言ったけど………国王陛下のあの顔……すごくビックリしてる………。鳩が豆鉄砲をくらったみたいな…いや、ホントにこんな言葉を使う事があるとは…って現実逃避している場合では無い!
私がどうしたものかと慌てていると豪快な笑い声が聞こえて来た。
「あっはっはっはっはっ!」
見ると国王陛下が豪快に膝を叩きながら笑っていた。
呆気に取られる私と苦笑いのザイール……。
「いや、すまんな。ザイールからリステリアの侯爵令嬢だと聞いて婚約破棄の事をつつかれてどんな高飛車な反応をするのかと思っていたが…ふっははは!婚約破棄されてラッキーなどと……くっくっく…」
どうやら何かがとてつもなく国王陛下のツボにハマったらしい…大笑いする国王陛下に思わずジト目になってしまった事はしょうがないと思う。
「だからパメラリアは大丈夫だと言ったでしょう」
そんなザイールの言葉にやっと笑いが収まったらしい国王陛下が「そのようだな」と頷いた。
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