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02 二度目の生と状況把握

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少年が意識を取り戻すと、そこは至る所に禍々しい装飾がなされた広い部屋だった。
少年はしばしの間ぼうっと周りを見渡していたが、不意に何かを思い出したように焦った様子で自分の体を見下ろす。

「手足は・・・ある、みたいだな。っていうかマジか、服が消えてやがる。」

幸い寒くはないみたいだが、と少年は一人呟く。その後も、体の各場所を見たり触ったりして確認する。服が無いことも、その確認をする上では良い方向に働いた。

「この分だとそんなにやばい姿になってるわけじゃ無さそうだな。でも鏡が無えから顔がわかんねえな・・・なんか口元に違和感があるんだが・・・」

そう言いながら少年は口元を触る。触った感覚ではそこまでおかしい所は感じないのだが、何かが歯に詰まった様な漠然とした不快感があった。

「それにしてもここ何処だ?つーかあのおっさん居ねえし。流石に着るものが欲しいんだが・・・。」

少年は辺りを見渡す。誰が見ている訳では無いとはいえ、いつまでも生まれたままの姿というのは少々居心地が悪い。

「でも全く知らない場所を一人で歩き回る気にもなんねえしな・・・おっさんと入れ違いになっても嫌だし。・・・ってか俺は何を一人でぶつぶついってんだか。柄にもなく心細くなってんのかね。」

そう言って少年は一人苦笑する。

「ま、とりあえずはここでおっさんを待つとするか。」

少年は近くの壁に背中を預けると、しばし無言で目を閉じる。
そして少しの静寂に、少年が弱い眠気に襲われた時。

「・・・何だ?なんか、聞こえる・・・?」

少年は立ち上がり無言で耳を澄ます。すると遠くから微かに、しかし確かにコツ、コツという硬い音が響いていた。

(・・・足音、だな。まあおっさんいわく知的生命体が色々といるらしいから別におかしかねえか。)

特にすることも無い少年は、取り留めのない思考をはじめる。

(音からして、恐らくは硬い素材の靴を履いてるか、外骨格もしくは硬質化した皮膚を持った生物だな。音の間隔的に四足歩行ではないみたいだが・・・かと言って人型であると断言も出来ねえか。)

少年は足を投げだして座ったまま思考を続ける。

(問題はそいつが友好的な存在か否か、だな。とりあえず知能の低い獣の可能性は捨てていいな。
対処できない以上考慮しても無意味だし、そもそもこの・・・神殿?は、明らかに何かしらによって整備されている。そんな場所に猛獣がうろついているとは考えにくい。
となると近付いてきてんのは何らかの知的生命体か。問題はそれが友好的か否か、だが・・・)

少年は周囲の装飾をみやる。そこには明らかに人骨をモチーフにした意匠や、直視すると吐き気を催すような気味の悪いオブジェなどがそこかしこにあった。

(こんな場所に来るやつと仲良くなれる気はしねえなぁ。・・・つーかなんだこれ、邪神信仰とか悪魔崇拝か?うおっシンプルにキモいなこれ。)

少年は自らの真横にあった正気と対極にあるような表情のオブジェを意味もなく触りながら呟く。その間にも、足跡は近づいてくる。

(とりあえずなんか投げられる物でも・・・ねえか。ま、すぐに動いて逃げられるようにしておくか。)

少年は投げ出していた足を畳み、すぐに立ち上がり走れるようにする。そして口を噤み、足音の聞こえる方向・・・恐らく唯一の出入口であろう扉を見やった。

(さてさて・・・鬼が出るか蛇が出るか。)

少年が見つめる先で、足音が止まる。少年の頬に(本人は気づいていないが)一筋の汗が伝った。そして、ゆっくりと扉か開いていく。その様子を見ながら少年は今更ながら一つのことに気付く。

(あれ?つーかこれ、おっさんが来るまでどっかに隠れた方が良かったんじゃね?よく見りゃ隠れる場所なんていくらでもあんじゃねえか・・・)

周囲を見渡せば巨大な像や祭壇がそこかしこにあり、人一人隠れることなど造作も無い。
しかし、時すでに遅し。少年が立ち上がったのと同時、扉は完全に開かれた。

(あ、これまずいか?)

少年の脳裏にいくつもの可能性が浮かぶ。腰にいくつもの生首をぶら下げた好戦的な話の通じない戦闘民族、周囲のオブジェに数多くみられる百足の足とカブトムシの胴体と牛の頭を合わせたような異形の化け物、謎のスライム、etc・・・
直前まで自分がしてた思考も忘れ、少年の頭は目まぐるしく、秩序なく回転していた。

しかし、結論から言えば少年の危惧は、全くの杞憂であった。

「・・・・・・・・・・・・え?」
「・・・・・・・・・・・・あ?」

開け放たれた扉の先にいたのは、

「・・・おんなの・・・こ?」

整った顔をした、華奢な身体の少女であった。しかしその少女はあらん限りに目を見開き、その細い、それでいて十分に女性としての魅力を主張をしている身体を震わせていた。
しかし少年はそれに気付かず、警戒を緩め少女に話しかける。

「お、思ったよりまともそうな奴だったな。あー・・・つーかこれ言葉通じてんのか?おいあんた、俺の言ってること分かるか?」
「・・・・・・・き」
「き?」

そこでようやく少年は、少女が震えながら目を見開き少年を・・・正確に言えばその腰の辺りを凝視していることに気づいた。

そして今更ながら、自らが一糸まとわぬ姿であることを思い出した。

「きゃあああああああああああ!!」
「うおおおおおおおおおおおお!?」

不気味としか言えないような神殿に、少女の悲鳴と少年の間抜けな絶叫が響き渡ったのはその直後だった。
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