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39 隠者と始祖
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目的を果たし、一度夢喰族の隠れ里に戻ってきたレイジは、キリエの家を訪ねていた。
リリィは里の者たちと話しているため、この場にいるのはレイジとキリエだけである。
安楽椅子に座るキリエの前で、レイジは床に無造作に座りながら話をしていた。
「・・・ってことで、魔力減衰の原因を排除した訳だが。あのお粗末な警備を見るに、替えがきかない存在ってわけでもなさそうだな。」
「・・・・・」
「恐らく、向こうも完全に始祖の存在に気付いただろうし、人員の補充と警備の強化、それと夢喰族の残党の掃討に入るだろうな。あるいは始祖を警戒して砦の放棄か・・・つってもこっちに時間を与えるリスクくらい理解してるからそれはねぇか。ともかく、向こうが対処をしてくる前にさっさと強襲して砦を落とさねぇとならねぇ。」
「・・・・・・・」
「おい、キリエ。聞いてんのか?」
淡々と状況を説明するレイジに対し、キリエは頭痛を堪えるように黙ったままこめかみをおさえていた。
レイジに問われたキリエは、1度小さく嘆息すると口を開く。
「・・・ああ、聞いてるよ。聞いた上で理解が追いつかないってだけさ。」
「そこまで複雑な話はしてねぇだろ。事実と推測、それとこれからの行動について確認してるだけだ。」
「あんたは他人に歩み寄るってことを覚えた方が良いね。少しは老人の心臓を労りな。」
「その老人の貴重な時間を無駄にしないように簡潔に話してるんだろうが。」
「く、口の減らない小僧だね・・・」
レイジの軽口に、キリエは額にうっすらと青筋を浮かび上がらせる。
そんなキリエの様子を気にもせず、レイジは話を続ける。
「真祖の眷属を増やすかどうかに関してはあいつに任せている・・・言い換えれば、現時点では戦力として新しい吸血鬼は考慮に入れてねぇ。」
「それはまた随分と悠長なことだ。」
「眷属になったばかりの吸血鬼が、訓練無しでどこまでできるのか未知数だからな。だが、その点キリエのウッドゴーレムはわかりやすい。」
レイジはナイフを取り出すと、軽く床面を撫でる。
当然、その程度では生木を利用した家が傷付く事は無い。
「関節部がどういう仕組みなのかは俺には分からねえが・・・基本的に動かない、動けないが故の植物の堅牢さを保ったまま人型に近い動作ができるのは白兵戦用の兵器としてはかなり優秀だ。そういや聞いていなかったが、ウッドゴーレムには弱点や核みたいな部分はあるのか?」
「条件によるってとこさね。アタシが直接操作している時は、魔力の糸で繋がっている人形みたいな感じさ。だから、魔力そのものを阻害されない限りは物理的に破壊されない限り動かし続ける事はできる。」
「ふむ・・・」
レイジは顎に手を当てて少し考える。
「逆に言えば、操作していないとき・・・簡易的な命令を自動で実行している時はその限りじゃねぇってわけだ。」
「ああ、その通りさ。ウッドゴーレムを動かす術式の中に命令を記録する魔力回路があってね。それを定着させている場所を破壊されると記録された命令を読み取れなくなって動かなくなる。」
「なるほど・・・いや、細かい理屈はわかんねえが、とりあえず弱点があるって事はわかった。」
レイジは座ったまま腕を組む。
「もっとも、一番の問題点はそもそもの行軍速度・・・戦場に辿り着くのに時間がかかりすぎる点な訳だが。もう一度聞くが、自動で休み無しで動いた場合、神殿までどれくらいかかる計算だ?」
「さっきも言ったけど、短く見積もっても三日はかかるね。」
「大きさと距離を考えれば早すぎるくらいだが・・・微妙なラインだな。流石に魔力減衰が出来る人員が補充されるとは思わねぇが、神殿が占領されたりしたら面倒だ。出来ればパンドラの存在は隠しておきたい。」
レイジのその言葉にキリエも頷く。
「アタシは直接見た訳じゃないけど・・・そのパンドラってのはワイバーンを一蹴できる戦力を持ってるんだろう?それだけの存在を知られていないのは大きいからね。」
「・・・まあ火力って点で言えばリリィやカインも大概だからな。あくまで温存や秘匿は可能な限りで構わねぇか。」
そう言って一人頷くと、レイジは立ち上がる。
「キリエ、ウッドゴーレムの移動はもう始められるか?可能なら砦方面に向けてもう動かして欲しい。エネルギーが足りないようならリリィ・・・いや、ルルアに頼んでくれ。里のすぐ外にいるし、デカイから場所はわかるだろ。」
「アンタは簡単にとんでもないことを言うね。」
「カインとルルアはワイバーンだが、それ以前に真祖直系の吸血鬼だ。こちらの言葉を理解しているのはもちろん、主のために今自分が何をすべきかも分かっている。」
「いや、そういう話をしてる訳じゃなくて・・・ああもういい、わかったよ。」
当然のように負担を押し付けてくるレイジに文句のひとつでも言おうと思ったキリエだったが、隠れ里の皆のためだ、と納得することにした。
「ところで、アンタはさっき新しい吸血鬼は作戦の考慮に入れてないって言ってたけどね。実際のところ、何人かは間違いなく小娘の眷属になるよ。それを遊ばせておくのかい?」
「いや、一応考えてはある。作戦の中心じゃねえが、いたら助かるって感じの配置をな。その辺はまた後で話す。ウッドゴーレムとの連携もあるしな。」
「はいよ。じゃあアタシは自分の仕事を済ませてくるとするさ。」
キリエはそう言って安楽椅子から立ち上がる。
「頼んだ。俺はリリィのところに行ってくるから、何かあったら呼んでくれ。」
そして二人はキリエの家を出ると、それぞれの目的地へと向かって行った。
リリィは里の者たちと話しているため、この場にいるのはレイジとキリエだけである。
安楽椅子に座るキリエの前で、レイジは床に無造作に座りながら話をしていた。
「・・・ってことで、魔力減衰の原因を排除した訳だが。あのお粗末な警備を見るに、替えがきかない存在ってわけでもなさそうだな。」
「・・・・・」
「恐らく、向こうも完全に始祖の存在に気付いただろうし、人員の補充と警備の強化、それと夢喰族の残党の掃討に入るだろうな。あるいは始祖を警戒して砦の放棄か・・・つってもこっちに時間を与えるリスクくらい理解してるからそれはねぇか。ともかく、向こうが対処をしてくる前にさっさと強襲して砦を落とさねぇとならねぇ。」
「・・・・・・・」
「おい、キリエ。聞いてんのか?」
淡々と状況を説明するレイジに対し、キリエは頭痛を堪えるように黙ったままこめかみをおさえていた。
レイジに問われたキリエは、1度小さく嘆息すると口を開く。
「・・・ああ、聞いてるよ。聞いた上で理解が追いつかないってだけさ。」
「そこまで複雑な話はしてねぇだろ。事実と推測、それとこれからの行動について確認してるだけだ。」
「あんたは他人に歩み寄るってことを覚えた方が良いね。少しは老人の心臓を労りな。」
「その老人の貴重な時間を無駄にしないように簡潔に話してるんだろうが。」
「く、口の減らない小僧だね・・・」
レイジの軽口に、キリエは額にうっすらと青筋を浮かび上がらせる。
そんなキリエの様子を気にもせず、レイジは話を続ける。
「真祖の眷属を増やすかどうかに関してはあいつに任せている・・・言い換えれば、現時点では戦力として新しい吸血鬼は考慮に入れてねぇ。」
「それはまた随分と悠長なことだ。」
「眷属になったばかりの吸血鬼が、訓練無しでどこまでできるのか未知数だからな。だが、その点キリエのウッドゴーレムはわかりやすい。」
レイジはナイフを取り出すと、軽く床面を撫でる。
当然、その程度では生木を利用した家が傷付く事は無い。
「関節部がどういう仕組みなのかは俺には分からねえが・・・基本的に動かない、動けないが故の植物の堅牢さを保ったまま人型に近い動作ができるのは白兵戦用の兵器としてはかなり優秀だ。そういや聞いていなかったが、ウッドゴーレムには弱点や核みたいな部分はあるのか?」
「条件によるってとこさね。アタシが直接操作している時は、魔力の糸で繋がっている人形みたいな感じさ。だから、魔力そのものを阻害されない限りは物理的に破壊されない限り動かし続ける事はできる。」
「ふむ・・・」
レイジは顎に手を当てて少し考える。
「逆に言えば、操作していないとき・・・簡易的な命令を自動で実行している時はその限りじゃねぇってわけだ。」
「ああ、その通りさ。ウッドゴーレムを動かす術式の中に命令を記録する魔力回路があってね。それを定着させている場所を破壊されると記録された命令を読み取れなくなって動かなくなる。」
「なるほど・・・いや、細かい理屈はわかんねえが、とりあえず弱点があるって事はわかった。」
レイジは座ったまま腕を組む。
「もっとも、一番の問題点はそもそもの行軍速度・・・戦場に辿り着くのに時間がかかりすぎる点な訳だが。もう一度聞くが、自動で休み無しで動いた場合、神殿までどれくらいかかる計算だ?」
「さっきも言ったけど、短く見積もっても三日はかかるね。」
「大きさと距離を考えれば早すぎるくらいだが・・・微妙なラインだな。流石に魔力減衰が出来る人員が補充されるとは思わねぇが、神殿が占領されたりしたら面倒だ。出来ればパンドラの存在は隠しておきたい。」
レイジのその言葉にキリエも頷く。
「アタシは直接見た訳じゃないけど・・・そのパンドラってのはワイバーンを一蹴できる戦力を持ってるんだろう?それだけの存在を知られていないのは大きいからね。」
「・・・まあ火力って点で言えばリリィやカインも大概だからな。あくまで温存や秘匿は可能な限りで構わねぇか。」
そう言って一人頷くと、レイジは立ち上がる。
「キリエ、ウッドゴーレムの移動はもう始められるか?可能なら砦方面に向けてもう動かして欲しい。エネルギーが足りないようならリリィ・・・いや、ルルアに頼んでくれ。里のすぐ外にいるし、デカイから場所はわかるだろ。」
「アンタは簡単にとんでもないことを言うね。」
「カインとルルアはワイバーンだが、それ以前に真祖直系の吸血鬼だ。こちらの言葉を理解しているのはもちろん、主のために今自分が何をすべきかも分かっている。」
「いや、そういう話をしてる訳じゃなくて・・・ああもういい、わかったよ。」
当然のように負担を押し付けてくるレイジに文句のひとつでも言おうと思ったキリエだったが、隠れ里の皆のためだ、と納得することにした。
「ところで、アンタはさっき新しい吸血鬼は作戦の考慮に入れてないって言ってたけどね。実際のところ、何人かは間違いなく小娘の眷属になるよ。それを遊ばせておくのかい?」
「いや、一応考えてはある。作戦の中心じゃねえが、いたら助かるって感じの配置をな。その辺はまた後で話す。ウッドゴーレムとの連携もあるしな。」
「はいよ。じゃあアタシは自分の仕事を済ませてくるとするさ。」
キリエはそう言って安楽椅子から立ち上がる。
「頼んだ。俺はリリィのところに行ってくるから、何かあったら呼んでくれ。」
そして二人はキリエの家を出ると、それぞれの目的地へと向かって行った。
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