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20.裏側の連中
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数日後、僕は再度、病院を訪れていた。トゥクルカはまだ本調子じゃない上、抱えている業務の一部に深刻な問題が見つかって拘束されることになったらしいので、単独で軽く接触を図るつもりだ。
事態のおおよそは確認済みということもあり、あとは詳細を詰めていく予定だけど、今回は状況が状況なだけに冷静に事を運ぶ自信がない。身内を穢されて自分達の命まで狙われたとなりゃ、さすがの僕も腹立ちますって。
その点、トゥクルカは一切の私情を挟まずに動ける種類の人間だから、彼女がいてくれると安心感がハンパないんだよね。僕より年下なのに、あの落ち着きようはヤバいな、まじで。
極まれに4~5歳で「ブッダかよ」って突っ込みたくなるくらい達観してる子いたりするけど、彼女もそんなイメージ。むしろ、タイムリープしてるって言われた方が説得力ある。こりゃ、子供の頃からさぞ生意気なマセガキだったんだろうなー。
凌遅といい、バーデン・バーデンの処女といい、フツウの幼少期過ごしたヤツ、いないんかいw ま、そんなまともな人間は、初めからウチに来たりしないか。
閑話休題。
受付で話し合いに来た旨を伝えたら、本日は対応できる職員がいないので出直して欲しいと返された。事前にアポを取っていたはずだと言ったんだけど、記録がないと断言された。
このままだとずるずる引き伸ばされた挙句、有耶無耶になるに違いない。そこで「代理の方で構いません」と食い下がったら、しぶしぶ例の小部屋に通してくれた。
「あれ、今回はこっちなんですね。てっきり、先日のラウンジかと思ってました」
手始めに前回の復習を兼ねて、以前通された部屋の話を振ってみたら、「こちら以外にご案内したことはございませんが」と言ってきた。
「ん? まあ、あなたに案内していただくのは今日が初めてですがね。×月×日、僕と連れが旧館の個室に連れて行かれて、毒殺されかけた日の話ですよ。その後、応接ラウンジに通されたはずなんですが……ちゃんと情報共有されてますよね?」
悪意を込めて発言したのに、相手は平然としている。それどころか「そんな情報は入って来ていない」など、明らかに虚偽の返答をする。
「いや、前回、病棟長補佐ってネームプレートを付けた方と話して、だいぶ煮詰まったと認識してるんですけど。本当にお聞きになってませんか?」
相手は困惑の表情を浮かべて「把握していない」を繰り返すので、病棟長補佐と話したいと伝えたところ「ただいま休職中でして」と言われた。
極めつけは、“当該時間帯の入退室記録”が存在しないときた。つまり、例の毒ガス事件が発生した日、僕らが病院を訪れた証跡はないって言い張るわけだ。
おやぁ? この人がしらばくれているのか、それとも記録を抹消するような真似をした“裏側の連中”がいるのか……。高確率で後者だな。
トゥクルカがいれば違ったかも知れないが、これ以上つついても病院側は惚けるだけだろうし、今日のところは出直すしかなさそうだ。
「また来ます。決着が付くまで何度でもお邪魔しますよ。LR×Dは逃げ得を許しませんので。その旨、周知徹底しておいてくださいね」
僕の捨て台詞に、先方は苦笑いを浮かべるばかりだった。
忙しい中、時間を作ってきたというのに、また不完全燃焼で終わってしまった。面白くないことこの上ない。これが片付かないうちは他の業務も宙に浮いたままだから、とっととケリを付けたいんだけどな。
僕は大きく息を吐きながら足早に廊下を進む。そうやって気持ちを徐々に切り替えていき、彼の病室に着く頃には笑顔を作れるようにしておく。
ノックのあとにドアを開けると、彼はぼんやりとした表情でベッドに横たわっていた。
「失礼しまーす。仁くーん、こんにちは」
僕が声をかけると、その目に光が宿った。
「……あ、おにいちゃん、こんにちはぁ」
言いながら上体を起こした彼は、少しやつれているように見える。
「仁くん、調子悪い?」
「……ううん、だいじょぶやで」
本当かよ。この人は僕とはベクトルの違う嘘吐きで、大丈夫じゃない時も大丈夫って言うからな。
「なら、いいんだけど。今日もお土産持ってきたからねー」
言いつつ、僕は持参した袋を手渡す。中身は猫型のもちもちスクイーズとポップチューブ、たまごボーロだ。
「わあぁ、これ、ぜんぶもろてええの?」
「もちろん、いいよ」
「めっちゃうれしぃ。ありがとぉ」
彼はいつ見ても惚れ惚れする笑顔でお礼を言ってくれた。今のでHPが半分近く回復した気がする。
「いーえ、どういたしまして。たまごボーロ、食べる?」
うなずく彼に袋の口を切って渡そうとすると、両手を差し出してきた。そこで手の平にいくつか出してやったら、嬉しそうに食べ始めた。
「美味しい?」
「うん。ボク、たまごぼーろ、すっき」
だよね、知ってる。前にもらったことあるから。
あれ、食べるのもったいなくて、未だにバッグの中に入ってるんだ。賞味期限はとっくに切れてるけど、どうせ食べる予定ないし、縁起物として携帯してもバチは当たらないよね。
「おにいちゃん、いっしょにたべへん?」
彼が勧めてくる。せっかくなので、一粒だけもらって口に運んだ。こんなの食べるの、幼稚園以来かも知れない。何だか懐かしくて不思議と美味しかった。
たまごボーロを食べ終えた彼は、「ごちそぉさまぁ」と挨拶してから、新しいおもちゃを手に取った。今回のおもちゃはどちらも手触りが独特だから、気力や体力が落ちている時でも感覚的に楽しめるんじゃないかと思って選んだ。どうやら僕の目論見は当たったらしく、彼はいきいきと遊んでいた。
それを見ながら、僕は思考を巡らせる。
この分だと、彼の身にも危険が迫る恐れがある。ピカナの話では、“情報システム部”部長のアガリアレプトはベルフェゴールを過去の人として見ている。それは即ち、処分の対象ってことだ。
まだ“裏側の連中”が彼らだと決まったわけじゃないが、可能性は十分にある。となれば、うかうかしていられない。
事態のおおよそは確認済みということもあり、あとは詳細を詰めていく予定だけど、今回は状況が状況なだけに冷静に事を運ぶ自信がない。身内を穢されて自分達の命まで狙われたとなりゃ、さすがの僕も腹立ちますって。
その点、トゥクルカは一切の私情を挟まずに動ける種類の人間だから、彼女がいてくれると安心感がハンパないんだよね。僕より年下なのに、あの落ち着きようはヤバいな、まじで。
極まれに4~5歳で「ブッダかよ」って突っ込みたくなるくらい達観してる子いたりするけど、彼女もそんなイメージ。むしろ、タイムリープしてるって言われた方が説得力ある。こりゃ、子供の頃からさぞ生意気なマセガキだったんだろうなー。
凌遅といい、バーデン・バーデンの処女といい、フツウの幼少期過ごしたヤツ、いないんかいw ま、そんなまともな人間は、初めからウチに来たりしないか。
閑話休題。
受付で話し合いに来た旨を伝えたら、本日は対応できる職員がいないので出直して欲しいと返された。事前にアポを取っていたはずだと言ったんだけど、記録がないと断言された。
このままだとずるずる引き伸ばされた挙句、有耶無耶になるに違いない。そこで「代理の方で構いません」と食い下がったら、しぶしぶ例の小部屋に通してくれた。
「あれ、今回はこっちなんですね。てっきり、先日のラウンジかと思ってました」
手始めに前回の復習を兼ねて、以前通された部屋の話を振ってみたら、「こちら以外にご案内したことはございませんが」と言ってきた。
「ん? まあ、あなたに案内していただくのは今日が初めてですがね。×月×日、僕と連れが旧館の個室に連れて行かれて、毒殺されかけた日の話ですよ。その後、応接ラウンジに通されたはずなんですが……ちゃんと情報共有されてますよね?」
悪意を込めて発言したのに、相手は平然としている。それどころか「そんな情報は入って来ていない」など、明らかに虚偽の返答をする。
「いや、前回、病棟長補佐ってネームプレートを付けた方と話して、だいぶ煮詰まったと認識してるんですけど。本当にお聞きになってませんか?」
相手は困惑の表情を浮かべて「把握していない」を繰り返すので、病棟長補佐と話したいと伝えたところ「ただいま休職中でして」と言われた。
極めつけは、“当該時間帯の入退室記録”が存在しないときた。つまり、例の毒ガス事件が発生した日、僕らが病院を訪れた証跡はないって言い張るわけだ。
おやぁ? この人がしらばくれているのか、それとも記録を抹消するような真似をした“裏側の連中”がいるのか……。高確率で後者だな。
トゥクルカがいれば違ったかも知れないが、これ以上つついても病院側は惚けるだけだろうし、今日のところは出直すしかなさそうだ。
「また来ます。決着が付くまで何度でもお邪魔しますよ。LR×Dは逃げ得を許しませんので。その旨、周知徹底しておいてくださいね」
僕の捨て台詞に、先方は苦笑いを浮かべるばかりだった。
忙しい中、時間を作ってきたというのに、また不完全燃焼で終わってしまった。面白くないことこの上ない。これが片付かないうちは他の業務も宙に浮いたままだから、とっととケリを付けたいんだけどな。
僕は大きく息を吐きながら足早に廊下を進む。そうやって気持ちを徐々に切り替えていき、彼の病室に着く頃には笑顔を作れるようにしておく。
ノックのあとにドアを開けると、彼はぼんやりとした表情でベッドに横たわっていた。
「失礼しまーす。仁くーん、こんにちは」
僕が声をかけると、その目に光が宿った。
「……あ、おにいちゃん、こんにちはぁ」
言いながら上体を起こした彼は、少しやつれているように見える。
「仁くん、調子悪い?」
「……ううん、だいじょぶやで」
本当かよ。この人は僕とはベクトルの違う嘘吐きで、大丈夫じゃない時も大丈夫って言うからな。
「なら、いいんだけど。今日もお土産持ってきたからねー」
言いつつ、僕は持参した袋を手渡す。中身は猫型のもちもちスクイーズとポップチューブ、たまごボーロだ。
「わあぁ、これ、ぜんぶもろてええの?」
「もちろん、いいよ」
「めっちゃうれしぃ。ありがとぉ」
彼はいつ見ても惚れ惚れする笑顔でお礼を言ってくれた。今のでHPが半分近く回復した気がする。
「いーえ、どういたしまして。たまごボーロ、食べる?」
うなずく彼に袋の口を切って渡そうとすると、両手を差し出してきた。そこで手の平にいくつか出してやったら、嬉しそうに食べ始めた。
「美味しい?」
「うん。ボク、たまごぼーろ、すっき」
だよね、知ってる。前にもらったことあるから。
あれ、食べるのもったいなくて、未だにバッグの中に入ってるんだ。賞味期限はとっくに切れてるけど、どうせ食べる予定ないし、縁起物として携帯してもバチは当たらないよね。
「おにいちゃん、いっしょにたべへん?」
彼が勧めてくる。せっかくなので、一粒だけもらって口に運んだ。こんなの食べるの、幼稚園以来かも知れない。何だか懐かしくて不思議と美味しかった。
たまごボーロを食べ終えた彼は、「ごちそぉさまぁ」と挨拶してから、新しいおもちゃを手に取った。今回のおもちゃはどちらも手触りが独特だから、気力や体力が落ちている時でも感覚的に楽しめるんじゃないかと思って選んだ。どうやら僕の目論見は当たったらしく、彼はいきいきと遊んでいた。
それを見ながら、僕は思考を巡らせる。
この分だと、彼の身にも危険が迫る恐れがある。ピカナの話では、“情報システム部”部長のアガリアレプトはベルフェゴールを過去の人として見ている。それは即ち、処分の対象ってことだ。
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