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22.根回し ② 【挿絵あり】
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「すまないねえ、こんな場所まで来てもらって」
某所にある公園の遊歩道で、ベルフェゴールの後見人・森久保さんと顔を合わせた。大方、セレブ感満載の成金っぽいフォルムなんだろうと思いきや、彼はシックなトラックスーツを着ていた。だけど大柄で恰幅が良く、濃い髭面も相俟ってどこぞのゴッドファーザーのようだ。オーラというか威厳が凄くて、ドアの隙間から覗くのと実際に相対するのとでは、迫力が全然違う。
彼の足元には2匹の小型犬がいて、どうやら散歩中だったみたいだ。こちらはふわっふわで毛艶が良く、愛嬌たっぷり。飼い主から大事にされているのが伝わってくる。緊張がちょっとだけ和らいだ。
「移動、大変だったろう。あとで足代を請求しておくれ」
森久保さんは怖そうな見た目にそぐわず優しい気遣いをしてくれるので面食らう。
「とんでもない。急なお願いにも関わらずお時間を割いていただき、ありがとうございます」
僕が頭を下げると彼は近くのベンチを指し、「あそこで話そう」と促した。
移動し始めてすぐ、少し離れた位置に“特有の気配”を漂わせた男達が立っているのに気が付いた。僕の知己はいないけど、森久保さんのボディガードに違いない。
「──さて、仁を転院させたいという話だったねえ。わけを聞こうか」
ベンチに腰掛け、犬達を待機させた森久保さんが問う。彼は仮にも“仁くんのパパ”だから、息子の身に何が起きているのか知りたいと思うのは当然のことだ。
こちらとしても、この機会に病院の悪行を洗いざらい暴露し、絶大な影響力を持つ後見人からの鉄槌が下されるよう仕向けたい気持ちがないわけじゃない。でも、彼を転院させたい直接の理由は、別の脅威から守るためだ。わざわざ無関係な情報を開示して不安がらせる必要はない。そう思い直し、差し迫った危険についてのみ、かいつまんで説明した。
「そうか……」
僕の話を聞き終えた森久保さんは表情を曇らせ、顎を撫でる。
「このまま放っておくと、あの子の命が脅かされる恐れがあるということだね。それも、組織内部の人間から」
「はい。つきましては、お力添えをいただけませんでしょうか」
「もちろんだ」
彼はうなずき、おもむろに口を開いた。
「長距離移動はあの子の負担になりそうだから、国内のほうが良いかねえ」
僕が同意すると、彼は足元の犬達を撫でながら続ける。
「一番安全なのは、ワタシのかかりつけ医に任せることだろうねえ。かれこれ20年来の付き合いで、スタッフは全員顔見知り。訪問診療も頼めるから、自宅や別荘といった落ち着いた環境で治療に専念させられるのはメリットだと思うよ」
「それは、間違いありませんね」
確かに日本屈指の大富豪の家ならセキュリティ面も堅いだろうし、安心感が抜群だ。“毎日会いに行く”という約束は守れなくなるけど、安全には代えられないから諦めてもらうしかないかな。
でも、しょんぼりするんだろうな、あの人……。ふと、哀しそうな彼の顔が浮かんで切なくなる。
「ただ……」
不意に森久保さんがつぶやいた。
「外部の人間との接触が断たれるのは考え物だねえ」
「はい?」
「親しい人と交流を続けるほうが、あの子にとって良い刺激になる気もする。お前さんは、どう思う?」
「お、おっしゃる通りです」
冷静な意見だ。てっきりワンマン社長のテンプレよろしく、一方的に話を進めるんじゃないかと思っていた。人一倍、“身内”を大事にする御仁との噂は本当らしい。
「さて、どうしたものかねえ……」
森久保さんは少し考えたあと、「×××にワタシの友人の病院があるから、ひとまずそこに移そうか」と提案してきた。
聞けば富裕層向けの医療機関で、プライバシー管理も徹底しているんだとか。しかも×××はLR×D本拠地の近県で、スクェア・エッダの最寄駅から片道1時間だ。ちょっと遠いけど、通えないことはない。
「まさに理想的な環境で、願ったり叶ったりです。ありがとうございます」
お礼を言いながら、つい口元が緩む。
すると森久保さんは目を細め、「それは良かった。ここなら、お前さんも通いやすいだろう」と言った。
「え……?」
思いがけない切り返しに固まっていると、彼が理由を話してくれた。
「あの子を気にかけてくれているんだってねえ。仁から聞いたよ。“いろいろなおもちゃを持って遊びに来てくれる優しいおにいちゃん”がいるって。それ、お前さんのことだろう?」
「あの方、そんなことをおっしゃってたんですか」
「ああ。一緒にパンダのブロックを作ったのが楽しかったと言っていたな」
ちょ……仁くん、いつの間にそんな話してたんだよw
新しく出来た“弟”をこっそり愛でてたつもりが、しっかり“パパ”にバレてるの、恥っず!!w
「あはは、私ですね。嬉しい限りです」
「フッフッ、やはりそうか」
混乱と感動で脳内がちょっとした祭り状態になっている僕に、森久保さんが畳み掛ける。
「仁はねえ、いつも優しくしてくれるそのおにいちゃんのことが大好きなんだとさ。あの子の記憶もだいぶ定着するようになった。これも、足繫く通ってくれる人達のおかげかも知れないねえ。心から感謝しているよ」
「こ、光栄です……」
やめてー! 照れが限界突破して言語野が仕事しなくなるからーw
批判も誉め言葉も、人づてに聞くと威力が倍増する気がする。
こちらの胸中を知ってか知らずか、森久保さんは続ける。
「今後とも、あの子の遊び相手になってやってくれるかい。大好きな人と一緒のほうが回復も早くなるだろうから」
「は、はい! お任せください」
気が付いたら僕は完全に森久保さんのペースに飲まれていた。だけど、結果的に文句なしの展開になったし、何の問題もない。
某所にある公園の遊歩道で、ベルフェゴールの後見人・森久保さんと顔を合わせた。大方、セレブ感満載の成金っぽいフォルムなんだろうと思いきや、彼はシックなトラックスーツを着ていた。だけど大柄で恰幅が良く、濃い髭面も相俟ってどこぞのゴッドファーザーのようだ。オーラというか威厳が凄くて、ドアの隙間から覗くのと実際に相対するのとでは、迫力が全然違う。
彼の足元には2匹の小型犬がいて、どうやら散歩中だったみたいだ。こちらはふわっふわで毛艶が良く、愛嬌たっぷり。飼い主から大事にされているのが伝わってくる。緊張がちょっとだけ和らいだ。
「移動、大変だったろう。あとで足代を請求しておくれ」
森久保さんは怖そうな見た目にそぐわず優しい気遣いをしてくれるので面食らう。
「とんでもない。急なお願いにも関わらずお時間を割いていただき、ありがとうございます」
僕が頭を下げると彼は近くのベンチを指し、「あそこで話そう」と促した。
移動し始めてすぐ、少し離れた位置に“特有の気配”を漂わせた男達が立っているのに気が付いた。僕の知己はいないけど、森久保さんのボディガードに違いない。
「──さて、仁を転院させたいという話だったねえ。わけを聞こうか」
ベンチに腰掛け、犬達を待機させた森久保さんが問う。彼は仮にも“仁くんのパパ”だから、息子の身に何が起きているのか知りたいと思うのは当然のことだ。
こちらとしても、この機会に病院の悪行を洗いざらい暴露し、絶大な影響力を持つ後見人からの鉄槌が下されるよう仕向けたい気持ちがないわけじゃない。でも、彼を転院させたい直接の理由は、別の脅威から守るためだ。わざわざ無関係な情報を開示して不安がらせる必要はない。そう思い直し、差し迫った危険についてのみ、かいつまんで説明した。
「そうか……」
僕の話を聞き終えた森久保さんは表情を曇らせ、顎を撫でる。
「このまま放っておくと、あの子の命が脅かされる恐れがあるということだね。それも、組織内部の人間から」
「はい。つきましては、お力添えをいただけませんでしょうか」
「もちろんだ」
彼はうなずき、おもむろに口を開いた。
「長距離移動はあの子の負担になりそうだから、国内のほうが良いかねえ」
僕が同意すると、彼は足元の犬達を撫でながら続ける。
「一番安全なのは、ワタシのかかりつけ医に任せることだろうねえ。かれこれ20年来の付き合いで、スタッフは全員顔見知り。訪問診療も頼めるから、自宅や別荘といった落ち着いた環境で治療に専念させられるのはメリットだと思うよ」
「それは、間違いありませんね」
確かに日本屈指の大富豪の家ならセキュリティ面も堅いだろうし、安心感が抜群だ。“毎日会いに行く”という約束は守れなくなるけど、安全には代えられないから諦めてもらうしかないかな。
でも、しょんぼりするんだろうな、あの人……。ふと、哀しそうな彼の顔が浮かんで切なくなる。
「ただ……」
不意に森久保さんがつぶやいた。
「外部の人間との接触が断たれるのは考え物だねえ」
「はい?」
「親しい人と交流を続けるほうが、あの子にとって良い刺激になる気もする。お前さんは、どう思う?」
「お、おっしゃる通りです」
冷静な意見だ。てっきりワンマン社長のテンプレよろしく、一方的に話を進めるんじゃないかと思っていた。人一倍、“身内”を大事にする御仁との噂は本当らしい。
「さて、どうしたものかねえ……」
森久保さんは少し考えたあと、「×××にワタシの友人の病院があるから、ひとまずそこに移そうか」と提案してきた。
聞けば富裕層向けの医療機関で、プライバシー管理も徹底しているんだとか。しかも×××はLR×D本拠地の近県で、スクェア・エッダの最寄駅から片道1時間だ。ちょっと遠いけど、通えないことはない。
「まさに理想的な環境で、願ったり叶ったりです。ありがとうございます」
お礼を言いながら、つい口元が緩む。
すると森久保さんは目を細め、「それは良かった。ここなら、お前さんも通いやすいだろう」と言った。
「え……?」
思いがけない切り返しに固まっていると、彼が理由を話してくれた。
「あの子を気にかけてくれているんだってねえ。仁から聞いたよ。“いろいろなおもちゃを持って遊びに来てくれる優しいおにいちゃん”がいるって。それ、お前さんのことだろう?」
「あの方、そんなことをおっしゃってたんですか」
「ああ。一緒にパンダのブロックを作ったのが楽しかったと言っていたな」
ちょ……仁くん、いつの間にそんな話してたんだよw
新しく出来た“弟”をこっそり愛でてたつもりが、しっかり“パパ”にバレてるの、恥っず!!w
「あはは、私ですね。嬉しい限りです」
「フッフッ、やはりそうか」
混乱と感動で脳内がちょっとした祭り状態になっている僕に、森久保さんが畳み掛ける。
「仁はねえ、いつも優しくしてくれるそのおにいちゃんのことが大好きなんだとさ。あの子の記憶もだいぶ定着するようになった。これも、足繫く通ってくれる人達のおかげかも知れないねえ。心から感謝しているよ」
「こ、光栄です……」
やめてー! 照れが限界突破して言語野が仕事しなくなるからーw
批判も誉め言葉も、人づてに聞くと威力が倍増する気がする。
こちらの胸中を知ってか知らずか、森久保さんは続ける。
「今後とも、あの子の遊び相手になってやってくれるかい。大好きな人と一緒のほうが回復も早くなるだろうから」
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