7 / 33
7.トラウマ
しおりを挟む
なんやかんやで無事パンダは完成した。形になった時、僕らの一体感は最高潮だった。
「やったー! やりましたよ、副代表っ!」
「うん、うれしぃわぁ」
「最後までよく頑張りましたね。素晴らしいです」
「ありがとぉ。みんな、てつどぉてくれたから、がんばれた……」
出来上がったパンダを見ながら嬉しそうに笑う彼の頭を、トゥクルカとピカナが交互に撫でている光景は平和そのものだ。
「そうだ、仁くん、ハイタッチしよ!」
僕はちょっと違ったアプローチをしたくなったので、両手をかざしながら提案してみる。
すると、彼は首を傾げて「はいたっち、てなに?」と返して来た。
あー、そうか。やったことない勢か。仲間と感動を分かち合った経験とかなさそうだもんなー。
一人納得した僕は、ピカナを見本に実演して見せることにした。
「ほら、こうやって手を合わせて、やったー! 大成功~ってみんなで幸せを分け合うんだよ」
「ふーん、そーなんや……」
「ほら、仁くんも、手をこうして」
「? え、と、こう……?」
彼は不思議そうに、そっと同じポーズを取る。
「そうそう! うぇーい!」
僕がぱちんと音を立てて手の平を打ち付けた途端、彼はびくりと身を震わせて固まった。
「あはは、びっくりしちゃった?」
軽い調子で返したけど、すぐに様子がおかしいことに気が付いた。彼の両目からぼろぼろと涙がこぼれている。
「……っ、仁くん、どうしたの? 痛かった?」
驚いて訊いてみた。トゥクルカとピカナも不安そうに顔を見合わせる。でも彼自身、自分に何が起こっているのか理解できていないように見えた。
「……あれ、なんやろ……なんで、ボク……」
彼の手や肩は小刻みに震えている。
「……みんなとパンダつくれて、うれしぃ、はずやのに……」
やがて彼の身体はガクガクと震え出し、徐々に前かがみになる。
「……う、ぅ……はあっ…はあぁ…っ」
「副代表っ!? どうしたんですか、大丈夫ですか!?」
狼狽するピカナの横で、僕も呆然となっていた。
え? 今のハイタッチのせい? あの軽い刺激で、そんな怯えるとかある……?
それとも、なんか思い出したのか。
まさか、さっきの──
「落ち着いて」
トゥクルカが短く言い放つのを聞き、はっと我に返る。
彼女は彼の肩に毛布を掛けて優しくさすり始めた。
「大丈夫ですよ。ここは安全で、みんな優しい人達です。あなたを傷つけたりしませんから……」
すると少しして、彼がおもてを上げる。その表情は、僕の想像していたものとは別物だった。
彼は、微笑んでいた。なのに眉根を寄せ、両目からは涙がとめどなく溢れている。きっと、感情が制御できていないんだ。
「……ごめん、なさい。せっかく、みんな、ええかんじやったのに……しんぱいかけて……」
震える声で、彼は言った。
「……ボク、おかしなってもうたみたいや……」
「そんなことない!!」
次の瞬間、僕の腕が勝手に動いて、彼を抱き締めていた。
「仁くんはおかしくないっ、どっこもおかしくないから、謝んなくていい!」
「おにいちゃ……」
彼はさらに身を固くしていたが、かまわず続ける。
「ただ、ちょっとびっくりしちゃっただけ。驚かせた僕が全面的に悪いから、謝るべきは僕です! ごめんなさいでしたぁ!」
僕は自分史上、最大級の声量で謝罪した。こんな声出るんだと軽くビビるレベルw
女性陣は思いっきり呆気に取られていたが、彼は覚束ない手付きで僕の背中を撫で始めた。
「……や、そんな……あやまらんといて。ボク、きにしてへんから。だいじょぶやから……」
嘘吐け。大丈夫じゃないでしょーが。今も震えてんじゃん。さっきのクソ野郎にヤラれたの、しっかりトラウマになってんだろうが。
なに、他人のこと気遣ってんの。人が良すぎんだよ、ガラス細工みたいにすぐヒビ入るくせにさぁ……。
「ボク、おにいちゃんのこと、すっきや……」
何も言えずにいる僕の耳が、彼の柔らかな声を捉える。
「……やさしゅうしてくれて、ほんまうれしぃ……せやから、なかんといて……」
は? 泣いてないしw ちょっと目頭が熱い気がするだけ。これくらいで感動するほど、僕、人間できてないんで。
あと、簡単に好きとか言うなよ。貴方の場合、それが誤解を生むんだぞ、まったく。
脳内ツッコミを入れるうち、波立つ心はすぐに凪いだ。我ながら、冷淡だと自覚せざるを得ない。
でもさ、LR×Dみたいなとこにはこういうタイプが適任なんだと思う。
「あっはは、ごめんね、仁くん。ありがとねー。ほんと、ありがとー。仁くんが優しいから、おにいちゃん元気出たよー」
「ほんまに……?」
「うん。また楽しいおもちゃとかゲーム見つけてくるから、一緒に遊ぼうね。よし、指切りしよ!」
僕が笑いながら小指を立てると、彼は涙が滲んで破壊力の増した両目を細めて、嬉しそうにうなずいた。
「仁くん、小指立てられる?」
「……え、と……」
彼の手はまだうまく動かない。そこでこちらから指を絡ませた。
「じゃ、いくよー?」
「ええでー」
何年振りだろ。こんな風に誰かと約束を交わすのは。
「♪ゆ~びきり げんまん う~そついたら は~りせんぼん の~ます ゆびきった!」
僕らが指切りする様子にピカナは歓喜し、トゥクルカも表情を緩めていた。
皆が安堵して、ムードが和むのを感じる。
だけど、僕は腹の中でまったく違うことを考えていた。
「やったー! やりましたよ、副代表っ!」
「うん、うれしぃわぁ」
「最後までよく頑張りましたね。素晴らしいです」
「ありがとぉ。みんな、てつどぉてくれたから、がんばれた……」
出来上がったパンダを見ながら嬉しそうに笑う彼の頭を、トゥクルカとピカナが交互に撫でている光景は平和そのものだ。
「そうだ、仁くん、ハイタッチしよ!」
僕はちょっと違ったアプローチをしたくなったので、両手をかざしながら提案してみる。
すると、彼は首を傾げて「はいたっち、てなに?」と返して来た。
あー、そうか。やったことない勢か。仲間と感動を分かち合った経験とかなさそうだもんなー。
一人納得した僕は、ピカナを見本に実演して見せることにした。
「ほら、こうやって手を合わせて、やったー! 大成功~ってみんなで幸せを分け合うんだよ」
「ふーん、そーなんや……」
「ほら、仁くんも、手をこうして」
「? え、と、こう……?」
彼は不思議そうに、そっと同じポーズを取る。
「そうそう! うぇーい!」
僕がぱちんと音を立てて手の平を打ち付けた途端、彼はびくりと身を震わせて固まった。
「あはは、びっくりしちゃった?」
軽い調子で返したけど、すぐに様子がおかしいことに気が付いた。彼の両目からぼろぼろと涙がこぼれている。
「……っ、仁くん、どうしたの? 痛かった?」
驚いて訊いてみた。トゥクルカとピカナも不安そうに顔を見合わせる。でも彼自身、自分に何が起こっているのか理解できていないように見えた。
「……あれ、なんやろ……なんで、ボク……」
彼の手や肩は小刻みに震えている。
「……みんなとパンダつくれて、うれしぃ、はずやのに……」
やがて彼の身体はガクガクと震え出し、徐々に前かがみになる。
「……う、ぅ……はあっ…はあぁ…っ」
「副代表っ!? どうしたんですか、大丈夫ですか!?」
狼狽するピカナの横で、僕も呆然となっていた。
え? 今のハイタッチのせい? あの軽い刺激で、そんな怯えるとかある……?
それとも、なんか思い出したのか。
まさか、さっきの──
「落ち着いて」
トゥクルカが短く言い放つのを聞き、はっと我に返る。
彼女は彼の肩に毛布を掛けて優しくさすり始めた。
「大丈夫ですよ。ここは安全で、みんな優しい人達です。あなたを傷つけたりしませんから……」
すると少しして、彼がおもてを上げる。その表情は、僕の想像していたものとは別物だった。
彼は、微笑んでいた。なのに眉根を寄せ、両目からは涙がとめどなく溢れている。きっと、感情が制御できていないんだ。
「……ごめん、なさい。せっかく、みんな、ええかんじやったのに……しんぱいかけて……」
震える声で、彼は言った。
「……ボク、おかしなってもうたみたいや……」
「そんなことない!!」
次の瞬間、僕の腕が勝手に動いて、彼を抱き締めていた。
「仁くんはおかしくないっ、どっこもおかしくないから、謝んなくていい!」
「おにいちゃ……」
彼はさらに身を固くしていたが、かまわず続ける。
「ただ、ちょっとびっくりしちゃっただけ。驚かせた僕が全面的に悪いから、謝るべきは僕です! ごめんなさいでしたぁ!」
僕は自分史上、最大級の声量で謝罪した。こんな声出るんだと軽くビビるレベルw
女性陣は思いっきり呆気に取られていたが、彼は覚束ない手付きで僕の背中を撫で始めた。
「……や、そんな……あやまらんといて。ボク、きにしてへんから。だいじょぶやから……」
嘘吐け。大丈夫じゃないでしょーが。今も震えてんじゃん。さっきのクソ野郎にヤラれたの、しっかりトラウマになってんだろうが。
なに、他人のこと気遣ってんの。人が良すぎんだよ、ガラス細工みたいにすぐヒビ入るくせにさぁ……。
「ボク、おにいちゃんのこと、すっきや……」
何も言えずにいる僕の耳が、彼の柔らかな声を捉える。
「……やさしゅうしてくれて、ほんまうれしぃ……せやから、なかんといて……」
は? 泣いてないしw ちょっと目頭が熱い気がするだけ。これくらいで感動するほど、僕、人間できてないんで。
あと、簡単に好きとか言うなよ。貴方の場合、それが誤解を生むんだぞ、まったく。
脳内ツッコミを入れるうち、波立つ心はすぐに凪いだ。我ながら、冷淡だと自覚せざるを得ない。
でもさ、LR×Dみたいなとこにはこういうタイプが適任なんだと思う。
「あっはは、ごめんね、仁くん。ありがとねー。ほんと、ありがとー。仁くんが優しいから、おにいちゃん元気出たよー」
「ほんまに……?」
「うん。また楽しいおもちゃとかゲーム見つけてくるから、一緒に遊ぼうね。よし、指切りしよ!」
僕が笑いながら小指を立てると、彼は涙が滲んで破壊力の増した両目を細めて、嬉しそうにうなずいた。
「仁くん、小指立てられる?」
「……え、と……」
彼の手はまだうまく動かない。そこでこちらから指を絡ませた。
「じゃ、いくよー?」
「ええでー」
何年振りだろ。こんな風に誰かと約束を交わすのは。
「♪ゆ~びきり げんまん う~そついたら は~りせんぼん の~ます ゆびきった!」
僕らが指切りする様子にピカナは歓喜し、トゥクルカも表情を緩めていた。
皆が安堵して、ムードが和むのを感じる。
だけど、僕は腹の中でまったく違うことを考えていた。
5
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる