bias: bent 貴方のために、嘘をつく。

帆足 じれ

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15.帰路

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 トゥクルカに肩を貸しながら応接用ラウンジを出たら、医療スタッフが車椅子を用意してくれていたのでありがたくお借りする。ただし、見送りは遠慮した。

 歩き始めてすぐ、僕の携帯端末に通知が入る。どうやら迎えが到着したようだ。

 エントランスで合流した新人連絡員リエゾンのアムミトは、僕ら──特に車椅子に乗せられた同僚トゥクルカ──の姿を見るなり、わかりやすく動揺した。

「アムミトさん、お疲れ様。急に呼び出して悪かったですね」

 僕が声を掛けると、彼は「全然っす」と首を振った後、「あの、お二人とも、大丈夫っすか……?」と不安げな面持ちで訊いてきた。

「大丈夫です。DMにも書きましたけど、命にかかわるとかそういうんじゃなくて、あくまで念のため診てもらった方がいいかなって感じなんでね」

 僕の説明にアムミトは「そっすか……良かった……」と小さく嘆息する。

「あれ? 心配しちゃいました? アムミトさんの顔色まで悪くなってきましたね」

「……いや、まあ……センパイがこんな目に遭ったら、ビビるっていうか……」

「あっはは! そっかー。ま、この業界にいる以上、避けては通れないんで、そのうち慣れますよ☆」

「あんま、慣れたくないっすね……」

 そんな遣り取りをする間に、アムミトがトゥクルカをすばやく後部座席に乗り移らせていて感心する。彼は介護業界でも即戦力になりそうだなーなんて考えながら、僕は玄関脇の専用スペースに車椅子を返却し、トゥクルカの隣に乗り込んだ。

「なんか、大変だったっすね……」

 車が発進してすぐ、アムミトが話し掛けてきた。

「というか、なんでこんなことになってんすか? 今日は副代表さんの処遇に関する話し合いで呼ばれたんすよね?」

「その予定だったんですけど、ちょっとしたトラブルに巻き込まれましてね」

 僕が概要を説明すると、バックミラーに映る運転手の表情が曇った。

「まじっすか。下手すりゃ、お二人、死んでたかも知れないってことっすよね……」

「はーい、アムミトさん、よそ見しなーい。ちゃんと前見てくださーい」

 彼があまりにも後部座席に視線を向け続けていることが気になってツッコミを入れたら、

「や、ちゃんと見てるっすよ。なんすか?」

 アムミトは急にムキになった。元々、仲間意識が強いタイプだから、身内を虐げられて気が張っているように見える。そう言えば、発端になった事件のアウトラインを伝えた時も、“副代表”の顔すら知らないのに強いショックを受けている様子だったっけ。

「まあ、確かにトゥクルカさんは典型的な博多美人ですけど、それで事故られたら貴方を呼んだ意味がなくなってしまうんでね……」

 冗談めかして注意を促すと、アムミトはハッとした様子で視線を戻した。

「いや……別にそういうんじゃないっすよ。ただ、トゥクルカさん、めっちゃ顔色悪くないすか……? あと、ベリトさんも。なんか、最初に聞いた話と違くてコワいんすけど……」

 おっと、僕の顔色も指摘されるレベルになってるのか。やたらと眠いだけで体調自体はそこまで悪くないし問題なさそうだと思ってたけど、一緒に診てもらった方が良いかも知れない。

 すると、

「……アムミト、さん……大丈夫、ですから……」

 沈黙を守っていたトゥクルカが口を開いた。

「え、あ……そっすか……」

「……ええ、ご心配おかけしました……くれぐれも、安全運転でお願いします……」

 いかにも彼女らしいコメントに、僕は思わず吹き出しかける。声の調子からして、そこまで深刻そうじゃないな。
 アムミトも安心したようで、バックミラーに映る目元が少しほころんだ。

「わかったっす。安全第一でぶっ飛ばしますんで、掴まっててください」

「……絶対にやめてください。あなたはまだ免許を取得したばかりでしょう……? それに、もし事故を起こしたり警察にとめられたりしたら、却って時間を取られます……」

「あ、そっすよね、サーセン。じゃ、前に走ったことある“抜け道メインの最短ルート”、爆速で突っ切ります!」

「……アムミトさん、私の話、聞いてましたか……?」

「ぶははは!」

 彼らの会話のずれがおかしくて、僕は盛大に笑ってしまった。

「っはは、やべー、さっきまでの緊張状態からの落差エグぅw 何か、今の遣り取り見てるだけで元気出てk──」

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