空を唄う少女

愁仁

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第一章

05.歌う少女

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 ジムニーは大通りに来ていた。この辺りであれば珍しい楽器を扱う楽団や大道芸人達が多くいるからだ。唄う石は音色や音に反応するとロンベルクは言っていた。音の溢れる大通りならば反応する音が見つかるかもしれないと考えたのだった。

 工房へ向かう為に駆け抜けた時と変わらず大通りは賑わっていた。
 商業都市アルミラは各国の交易の中継地点でもある。どの国家にも属すことがない為、近隣諸国が戦争で不安定な時期であってもその活気を失わない。
 扱うものも様々だ。塩や砂糖などの調味料を始め、麻や絹など生地の類。ガジェットなど機械類を扱う商店も多くあるし、薬品もこの都市には各国から集まる。

 この街ではありとあらゆる物が手に入る。

 何も集まるものは物品だけには留まらない。労働を求めてやって来る者、己の技術を磨く為にやって来る者、戦争で行き場を失った者、理由は様々だが人も多く集まる。この街はどんな人間も拒まない。

 ジムニーはいくつもの楽団や楽器を扱う大道芸を巡った。そしてその度に音を奏でる楽士や芸人に奇異の目で見られた。それもその筈である、ジムニーは音が奏でられる度にビー玉の様な小さな石を取り出しては、あらゆる角度から楽士や芸人に掲げるものだから楽士達はジムニーを物乞いか何かの類だと勘違いしてしまうのだった。

 いくつもの楽団などを回ったが一向に石が反応する様子は見られなかった。

「反応無しか……。それならっ」

 ジムニーは楽器がダメならと今度は鍛冶屋や家具屋などを回ることにした。楽器では反応しなかったが金属や木材の音で唄う石が反応するのではないかと考えた。
 大通りから裏道に一本入ると職人の店が並ぶ通りがある。ジムニーはそこへと足を運び片っ端から店を訪ねた。トンカントンカンと鉄の奏でる音、あるいは木材を切る音、機織りで布を織る音など様々な音を唄う石に聴かせたがやはり反応は無い。

「一体何の音に反応するんだろう……。見当もつかないや。音色じゃない音にも反応するなんて探しようがないよ」
 ジムニーは肩を落とし、しげしげと石を見つめながら街の外れにある広場へ向かって歩いた。
「適当にそこら辺を叩きながら歩けば何か反応するかも。……よしっ」
 近くにあった木の枝を一つ折るとジムニーは歩きながらそこらじゅうの物を叩いて回った。
「せいっ……うりゃっ……うーん」
 街灯、ブロック塀、窓ガラス、給水パイプ、街路樹、目に付くありとあらゆる物を叩くが一向に石は反応する素振りを見せない。
「はぁ……そんな簡単には行かないか……。えいっ」
 手に持った木の枝を投げる。枝は回転しながら宙を舞い、弧を描くようにそのまま地面へと落ちた。すると近くに居た猫が落ちた枝に反応し「ニャー」と鳴き声を上げる。

 その時であった。ジムニーの手にする石が仄かな光を発したように見えた。

「え!?石が光った?もしかして反応したの?……まさか猫に!?」
 驚きの声を上げるジムニー。急いで猫を捕まえようと近付くがそれに驚いた猫はすぐに駆け出す。後を追うようにジムニーも駆けるが中々追いつけず広場を離れ小高い丘を登っていく。

 丘の中腹でやっとの事で猫に追い付き、飛び付くように捕まえると猫はまた「ニャー」と鳴き声を上げる。その鳴き声を聞き急いで石に目を向けるが石は先程のように光る様子は無かった。
「あれ?違ったのかな?」
 一体何に反応したのかと猫を抱えたまま辺りを窺う。だが特にそれらしい物を見つける事は出来ず、気のせいだったのかもしれないと半ば諦めて元の場所に戻ろうと足を進めた瞬間。

 ――歌声が響いた。

 澄んだ歌声は風に乗るように丘の頂上から流れて来ているようだった。ジムニーは丘の頂上に目を向ける。
 歌声の所在はすぐにわかった。丘の頂上に立つ一本の大木、その根元から歌声は運ばれてきた。
 ふと石に目をやると、石は歌声に反応するように淡い光を発している。
「……歌声に反応してる?……まさか!?」
 ジムニーは抱いていた猫を放り投げ丘の頂上まで一気に駆けた。

 大木の根元に辿り着くとそこには一人の少女がいた。

 年の頃はジムニーと同じくらいで、肩まで伸びた髪はさらさらと風に舞う。みすぼらしい格好をしているが、凛とした顔立ちは少女の意志の強さをそのまま物語っているようだった。
「ハァハァ……。ね、ねぇ、君」
 呼吸を整えながら少女に声を掛けるとその少女は歌うのをやめジムニーを見つめた。
「……誰?」
 歌声が止むのと同時に石から放たれていた淡い光は消える。
「……やっぱり、石の反応が消えた。……すごいっ!すごいよっ!まさか歌声に反応するなんて!」
 ジムニーは興奮したまま今しがた会ったばかりの見ず知らずの少女の手を取りブンブンと勢いよく振り回す。
 いきなりの事に困惑した少女は為すすべもなく呆然としていた。
「あ!ごめんっ、僕の名前はジムニー。君は?」
 呆然としている少女に気付き慌てて手を離すと自分の名を名乗り今度は少女の名を尋ねた。
「……アイシャ」
 アイシャと名乗った少女は不思議そうにジムニーを見つめている。
「何をそんなに喜んでいるの?」
 アイシャは素朴な疑問をぶつけた。初めて会った少年が自分の手を取り大はしゃぎで喜んでいる。アイシャからしてみれば全く理解の出来ない事だった。
「石が、石が君の歌声に反応したんだ!」
 興奮のあまり一切の説明を省いてジムニーは答えた。
 一層の疑問符を浮かべてアイシャはジムニーを見つめた。
「石?……何の事?」
「あー、えーっと、説明すると長くなっちゃうんだけど……。そうだ!ちょっと見せたいものがあるんだ!それと先生にも会ってもらわなきゃ!さあ、付いてきて!」
「え?ちょ、ちょっと」
 ジムニーは興奮冷めやらぬままアイシャの手を再び取ると返事も待たずに駆け出した。


 ――そのやりとりを木陰で見つめる男達がいた。

 醜悪な顔した身なりの整った太った男、そしてそれに付き従うように寄り添う甲冑を纏った女。
「ホホホ、ゴミ溜めでゴミ漁りかと思っていましたが、どうやらとんでもない掘り出し物もあったようですね」
 薄気味の悪い笑みを浮かべ、ジムニーとアイシャを目で追う。
「奴らの後を付けなさい」
 笑みを浮かべたまま甲冑の女に指示を送ると女は頷きその場を離れた。
 残された男はなおも笑みを浮かべたままロンベルクの工房があるであろう裏路地の方面を眺めた。

「ホホホ、ロンベルクさまさまと言ったところですかね」
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