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第一章
07.団欒
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ロンベルクの工房では大掃除が始まっていた。工房の奥で今まで使われず倉庫になっていた部屋を人が住めるように片付ける。
使い道の分からないガジェットや謎の道具の数々。ジムニーから見ればガラクタとしか思えないようなものばかりだったが、ロンベルクは尽く捨てる事を拒んだ。ジムニーは捨てるべきだと何度も主張したのだが最終的にはロンベルクの懇願に負け、ガラクタまがいの品々は二階の廊下に収まることになった。
アイシャは工房をを片付けていた。工房の真ん中には大きな長テーブルがあるのだが本や設計図が山積みになっており使えるスペースはほとんど無かった。
工房にある本棚に本を綺麗に整理し、設計図の類も分かりやすい様にまとめて棚に仕舞った。
約半日を掛けて物置小屋の様に散乱した工房は見違えるように綺麗に片付いた。
アイシャを工房に住まわせて欲しいというジムニーの願いは拍子抜けする程あっさりと快諾されたのだが、ロンベルクはジムニー達にその代わりの条件を出した。
――条件は二つ。一つはジムニーも一緒にこの工房に住むこと。そしてもう一つは当分の間、ロンベルクから離れて行動しない事。
ジムニーには何を意図したものなのか分からなかったが、それほど難しい話では無かった為、その条件を飲んだ。
そしてその話し合いが終わり、居住区を確保の為に大掃除に臨んでいたのであった。
片付けの終わった三人は工房の長テーブルを囲み夕食を取っていた。献立はジムニーの作った羊の肉を使ったシチューに野菜たっぷりのサラダ。それにヤギのチーズとパン。
ジムニーは一人での生活が長い為に料理はお手の物であった。そもそもロンベルクは料理が出来ない為、いつもは家で作った食事をロンベルクの元に届けていた。
アイシャは出来たでまだ湯気のたったシチューを口に運び「美味しい…」と思わず口に出した。それを見てジムニーは得意気な表情をして微笑んだ。
「技師としての腕前は上達しない割に料理の腕前だけはどんどん上がっていくな」
ロンベルク皮肉を聞き、ジムニーはバツが悪そうにパンをかじった。
「そういえば先生、随分あっさりとアイシャを受け入れてくれましたね」
話しをはぐらかすようにジムニーはロンベルク訊ねた。
普段のロンベルクではあれば話を聞いて結論出すまでにそれこそ夕食の時間まで掛かりそうなものだった。
それが即断するようにアイシャを受け入れた事をジムニーは少し不思議に思っていた。
ロンベルクは質問に「ふむ」と思案の表情を浮かべるとアイシャとジムニーを交互に見つめた。
「私とて野宿をしている少女を見放すほど冷たい人間ではない」
その言葉を聞いてアイシャはお辞儀をするようにぺこりと頭を下げた。
「先生にしては珍しいですよね。そんなに心良く返事をくれるなんて。いつもならうんと長い時間ごねてからやっと承諾するのに」
ジムニーが軽口を挟むとロンベルクは不服そうにジムニーに視線を向ける。
「別に私も悪人ではない。少女を放っておくなんていう行為は、君の言う道徳的というものにも反するのだろう?それに……」
そう言ってロンベルクは天井を見上げたが、言葉は続かなかった。
「それに?」
ジムニーはロンベルクの言葉を繰り返す。だが、ロンベルクは答えなかった。アイシャも不思議そうにロンベルクを見つめる。
「いや、何でもない。……そうだ、アインホルンの事だが起動は少し待ってくれないか?お前達には少し間私の仕事を手伝ってもらおうと思っている」
ロンベルクは言葉を濁すように話題を変えた。ジムニーそれに違和感を感じながらも了承した。
本当ならばジムニーはアインホルンをすぐにでも動かしたいと思っていたが、アイシャを住まわせてくれる事を受け入れてくれた手前もあって口にすることは出来なかった。
「アイシャもそれでいいよね」
「……この工房にお世話になるんだし……私は大丈夫」
アイシャもそう言って頷く。
「先生、手伝いって言っても一体何をするんですか?」
最後のパンを口に放り込みながらジムニーは訊いた。ロンベルクは考えるように顔を俯けると「ふむ、それはまた明日話そう」そう言ってこの話を閉め切った。
食事を終えるとロンベルクは早々に自室へ戻っていった。そして工房に残ったジムニーとアイシャは食事の片付けを済ませるとテーブルに向かい合って座った。
沈黙が続いた。まだお互いをよく知らないというのもあってジムニーは少し緊張していた。
と言っても一方的にジムニーが緊張していただけなのだが。
しばらく時間を掛けて、ジムニーはようやく言葉にする決心を付けた。
「ねぇアイシャ。覚えている事は名前とあの歌だけなの?」
ぼーっと、虚空を見つめるアイシャにジムニーは訊いた。アイシャはジムニー視線を向けてこくりと頷く。
口数の少ない彼女はそれにも況して表情が少ない。どこかぼーっとしたような表情は何を考えているのかほとんど読み取ることは出来なかった。
そんなアイシャの事をジムニーはもっとよく知りたいと思った。
「アイシャは……記憶がなくて不安じゃない?」
ジムニーは訊いた。記憶を失ったまま街に放り出され、たった一人で何日もの夜を明かした少女。一体、今日まで何を考えて過ごして来たのだろうか。
アイシャはジムニーを見つめは答える。
「不安……はなかった。……と思う」
自分の事だというのに曖昧な答えを返すアイシャ。「思う?」ジムニーはアイシャの言葉を繰り返すように疑問で返した。
「気付いたらこの街にいて、この街にいる理由も……目的もわからなかったから。だからあの丘にずっと一人で居たの……何をしたらいいかずっと考えた」
淡々と答えるアイシャの言葉をジムニーは理解できなかった。そんな状況でどうして不安が無かったと言えるのか、どうしてそんなに落ち着いていられるのか。その全てに疑問に感じた。
繰り返し考えたらその答えは出るのだろうか。疑問ばかりが頭に浮かぶ。
ジムニーはまた問いかける。
「……答えは出たの?」
ジムニーの問いにアイシャは初めて微笑みながら答えた。
「――今日……その理由をもらった」
使い道の分からないガジェットや謎の道具の数々。ジムニーから見ればガラクタとしか思えないようなものばかりだったが、ロンベルクは尽く捨てる事を拒んだ。ジムニーは捨てるべきだと何度も主張したのだが最終的にはロンベルクの懇願に負け、ガラクタまがいの品々は二階の廊下に収まることになった。
アイシャは工房をを片付けていた。工房の真ん中には大きな長テーブルがあるのだが本や設計図が山積みになっており使えるスペースはほとんど無かった。
工房にある本棚に本を綺麗に整理し、設計図の類も分かりやすい様にまとめて棚に仕舞った。
約半日を掛けて物置小屋の様に散乱した工房は見違えるように綺麗に片付いた。
アイシャを工房に住まわせて欲しいというジムニーの願いは拍子抜けする程あっさりと快諾されたのだが、ロンベルクはジムニー達にその代わりの条件を出した。
――条件は二つ。一つはジムニーも一緒にこの工房に住むこと。そしてもう一つは当分の間、ロンベルクから離れて行動しない事。
ジムニーには何を意図したものなのか分からなかったが、それほど難しい話では無かった為、その条件を飲んだ。
そしてその話し合いが終わり、居住区を確保の為に大掃除に臨んでいたのであった。
片付けの終わった三人は工房の長テーブルを囲み夕食を取っていた。献立はジムニーの作った羊の肉を使ったシチューに野菜たっぷりのサラダ。それにヤギのチーズとパン。
ジムニーは一人での生活が長い為に料理はお手の物であった。そもそもロンベルクは料理が出来ない為、いつもは家で作った食事をロンベルクの元に届けていた。
アイシャは出来たでまだ湯気のたったシチューを口に運び「美味しい…」と思わず口に出した。それを見てジムニーは得意気な表情をして微笑んだ。
「技師としての腕前は上達しない割に料理の腕前だけはどんどん上がっていくな」
ロンベルク皮肉を聞き、ジムニーはバツが悪そうにパンをかじった。
「そういえば先生、随分あっさりとアイシャを受け入れてくれましたね」
話しをはぐらかすようにジムニーはロンベルク訊ねた。
普段のロンベルクではあれば話を聞いて結論出すまでにそれこそ夕食の時間まで掛かりそうなものだった。
それが即断するようにアイシャを受け入れた事をジムニーは少し不思議に思っていた。
ロンベルクは質問に「ふむ」と思案の表情を浮かべるとアイシャとジムニーを交互に見つめた。
「私とて野宿をしている少女を見放すほど冷たい人間ではない」
その言葉を聞いてアイシャはお辞儀をするようにぺこりと頭を下げた。
「先生にしては珍しいですよね。そんなに心良く返事をくれるなんて。いつもならうんと長い時間ごねてからやっと承諾するのに」
ジムニーが軽口を挟むとロンベルクは不服そうにジムニーに視線を向ける。
「別に私も悪人ではない。少女を放っておくなんていう行為は、君の言う道徳的というものにも反するのだろう?それに……」
そう言ってロンベルクは天井を見上げたが、言葉は続かなかった。
「それに?」
ジムニーはロンベルクの言葉を繰り返す。だが、ロンベルクは答えなかった。アイシャも不思議そうにロンベルクを見つめる。
「いや、何でもない。……そうだ、アインホルンの事だが起動は少し待ってくれないか?お前達には少し間私の仕事を手伝ってもらおうと思っている」
ロンベルクは言葉を濁すように話題を変えた。ジムニーそれに違和感を感じながらも了承した。
本当ならばジムニーはアインホルンをすぐにでも動かしたいと思っていたが、アイシャを住まわせてくれる事を受け入れてくれた手前もあって口にすることは出来なかった。
「アイシャもそれでいいよね」
「……この工房にお世話になるんだし……私は大丈夫」
アイシャもそう言って頷く。
「先生、手伝いって言っても一体何をするんですか?」
最後のパンを口に放り込みながらジムニーは訊いた。ロンベルクは考えるように顔を俯けると「ふむ、それはまた明日話そう」そう言ってこの話を閉め切った。
食事を終えるとロンベルクは早々に自室へ戻っていった。そして工房に残ったジムニーとアイシャは食事の片付けを済ませるとテーブルに向かい合って座った。
沈黙が続いた。まだお互いをよく知らないというのもあってジムニーは少し緊張していた。
と言っても一方的にジムニーが緊張していただけなのだが。
しばらく時間を掛けて、ジムニーはようやく言葉にする決心を付けた。
「ねぇアイシャ。覚えている事は名前とあの歌だけなの?」
ぼーっと、虚空を見つめるアイシャにジムニーは訊いた。アイシャはジムニー視線を向けてこくりと頷く。
口数の少ない彼女はそれにも況して表情が少ない。どこかぼーっとしたような表情は何を考えているのかほとんど読み取ることは出来なかった。
そんなアイシャの事をジムニーはもっとよく知りたいと思った。
「アイシャは……記憶がなくて不安じゃない?」
ジムニーは訊いた。記憶を失ったまま街に放り出され、たった一人で何日もの夜を明かした少女。一体、今日まで何を考えて過ごして来たのだろうか。
アイシャはジムニーを見つめは答える。
「不安……はなかった。……と思う」
自分の事だというのに曖昧な答えを返すアイシャ。「思う?」ジムニーはアイシャの言葉を繰り返すように疑問で返した。
「気付いたらこの街にいて、この街にいる理由も……目的もわからなかったから。だからあの丘にずっと一人で居たの……何をしたらいいかずっと考えた」
淡々と答えるアイシャの言葉をジムニーは理解できなかった。そんな状況でどうして不安が無かったと言えるのか、どうしてそんなに落ち着いていられるのか。その全てに疑問に感じた。
繰り返し考えたらその答えは出るのだろうか。疑問ばかりが頭に浮かぶ。
ジムニーはまた問いかける。
「……答えは出たの?」
ジムニーの問いにアイシャは初めて微笑みながら答えた。
「――今日……その理由をもらった」
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