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第9話 メンドクセぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!

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 ーー翌日


 唯は昨日の夜の見守りはしなかった。なぜなら、そんな気分にどうしてもなれなかったからだ。気分次第でストーカーをしてるのかよ、見守るのならしっかり見守れよ、等とツッコんではいけない。
 

 「ほんとーに、気持ちのいい朝だね。昨日までの疲れが嘘のようだよ。」

 
 朝の日差しを浴びながら、陽は今までのことを考えれば、気持ちの悪いぐらいの笑顔を顔に貼り付けて、唯と一緒に登校していた。昨日はきちんと寝ることが出来たので、心なしか機嫌がいい。これが善人なら文句等なかったが、残念ながら陽である。
 
 もちろん、普段の内心をおくびにも出さず、基本外面を良くしているコイツは、はたからみれば善人にみえる。

 しかし、醜悪等という言葉ですら足りない程、悪意と虚栄心に充ち満ちているその中身は、吐き気を催すぐらいおぞましい。そのため、その実情を知っている人間がいれば、ただひたすらこの笑顔を気持ち悪いものと捉えるだろう。最も、そんな人間が今のところ一人もいない訳だが。


 「あっ、陽君。よく見たら、昨日あげたブレスレット付けてくれてるんだね。」


 唯は、陽の制服に隠れてて分かりづらかった、首元に掛けられている鎖のブレスレットをみて、陽に感謝の意味を込めながら微笑んだ。


 「当たり前だろ。折角、唯ちゃんがくれたんだ、付けないでどうする。」


 陽は、昨日心の中で毒づいていたことと真逆の返答を返し、唯と同じように微笑んだ。しかし、当然そんな殊勝な志がある訳ではない。


 「(全く、ポイント稼ぐのも大変だぜ。外面を良くしないといけないってのも考えようだな。)」


 そう。コイツは、内心がバレるのも極度に怖がったため(要するにビビり)、外面だけはよくしようと決めたのだ。


 「あら。誰かと思えば、朝倉さんに玻座間君ではありませんか。おはようございますですわ。」


 学園の校門に辿り着いた二人は、真っ黒く細長い高級車、リムジンから降りてくる金髪のツインドリルヘアーの少女に話しかけられた。


 「お、おはよう高城さん。・・・すごい車だね。」


 唯はチラチラとリムジンを見ながら、高城に挨拶をした。リムジンは少々気になるが、しっかり笑顔で挨拶したのだ。普段は陽のストーカーだが、こうして見ているだけでは、十分まともといえるだろう。しかし、もう片方は・・・

 「(ふ、ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁ!!!!!!
この成金がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!)」」


 完全にプッツンしていた。余程、リムジンで登校したのが癪に障ったのだろう。にしても、挨拶もなくいきなり成金呼びとは酷い。ついでに言えば、さっきまでまあまあ機嫌が良かったのが、ここにきて一気に不機嫌になった。どんだけ、金持ち嫌いなんだよ。


 「高城さん高価そうな車だね。本当に羨ましいなぁー。(許さん。こいつだけは、こいつだけは許さんッ!!)」


 嫌み100パーセントの悪意しかつまっていない言葉。しかし、それもにこやかに話せばそう聞こえないから不思議だ。


 「これぐらい大したことありませんわ。・・・それよりお二人とも、教室でお話ししたいことがありますの。」


 「うん、分かったよ。」


 「(これぐらいだぁぁぁ!?このアマ、これぐらいって言いやがったぞ!!!)」


 いちいち面倒臭い男である。金持ちに対する嫌みを言えるだけ並べさせたら、コイツに勝てる奴は中々いないのではないだろうか。ある意味才能を感じる。もちろん、悪い意味でだが。


 ************************


 ーー教室にて


 「単刀直入にお聞きしますわ。ーー異能。この意味がお分かりになられますか?」


 この教室にいるのは昨日よりも少ない人数、四人だけである。陽や唯はなんだかんだ真面目であるため、きちんと学校に来ているが、本来、一週間に一度だけの登校でいいために、来ている生徒は少ない。そんな中で高城の机を中心に、高城が徐ろに口を開いた。


 「・・・もし、知らないって、言ったら?」


 「その場合は申し訳ありませんが、この教室から少しの間立ち退いてもらいたいですわね。」


 高城の言葉に唯は真剣に頷くと、陽に視線を送ってきた。当然これは、教室から出よう。という意味なのだが、陽はというと・・・


 「(は?異能?遂にコイツまで中二病になっちゃったの?しかも、唯までなんか視線を送ってくるし。・・・何この状況??)」


 全く状況を理解していなかった。それどころか・・・


 「(でも、なんだか知らんが、教室から出て行けとかスゲームカつくな。・・・よーし、知ったかぶりしてみるか。)」


 ど う し て そ う な っ た 。そして、これによりどんどん混沌を極めることになる。


 「異能か・・・。僕は少し、ほんの少ししか知らないけど、それでいいか?(ホントはそのほんのすら知らないがな。)」


 「え、陽君?な、何いって・・・」


 「知っておりましたの!?それなら話が早いですわっ。」


唯が陽の言葉を咎めようとしたが、高城の嬉しそうな声に阻まれた。
 

 「だから、陽君。知らな・・・」


 「今日の放課後、一緒に我が家に来てもらいたいのですわ!!」


 再び阻まれた唯の言葉。高城はテンションが急上昇してる所為で、全く気付いていない。


 「家?・・・臭うね。何かワケありかな?」


 何が臭うだよ。ワケありだよ。オマエ全然何も知らないだろうが。


 「わかるんですのっ!?・・・これは貴方に頼んで、正解でしたわね。過去の自分を褒めてやりたいですわっ!!」


 しかし、この知ったかぶりに高城は全く気付かない。


 「詳しくは私の家でお伝えしますわ。是非とも受けてもらいたい依頼があるんですの。もちろん、受けるかどうかは話を聞いてからでいいし、もし受けてくださったら報酬は弾ませてもらいますわ。」


 「その話本当か!?後で、やっぱりなしとかいうなよ。」


 「女に二言はありませんわっ!!」


 「よし、先ずは放課後高城の家に集合だな!!」


 「ええ、道案内はお任せくださいまし!!」


 その馬鹿と屑の様子を唯はひたすら半眼の所謂ジト目を作って、じぃーーーーーーーーーっと見ていた。やがて、ハアと呆れた溜め息を出して、陽に話しかけた。


 「陽君、ちょっとお話ししようか?廊下で?」


 唯はそういうと、陽の手を取り、有無を言わさず人が周りにいない廊下へ連れ出した。残された高城はその様子を見て、「少々取り乱してしまいましたわね。淑女たる者、いつ如何なる時も慌てるなかれ。・・・全く、今回は朝倉さんに学ばさせてもらいましたわね。」等と勝手に解釈していた。


 「唯ちゃん、どうしたの?そんな恐い顔しちゃって?(え?そんなにハブられたのがヤダったの?ザマぁぁぁ!!!!)」


 人の不幸は蜜の味。それを堂々と体現する男、玻座間 陽。幾ら最近彼の毒舌が酷くなったといっても、なぜここまで唯が不幸にあっているのを楽しめるのかというと、理由がある。

 実は幼少期、彼は唯の下僕になっていたことがある。友達ではない、下僕である。それをこの前までずっと忘れていたのだが、ここ最近になって思い出したのだ。それ以来、唯に対するアタリが酷くなったのである。最も、表面状は変わったようには見えないが。


 「陽君酷いよ。」


 プクーと擬音が出来そうな感じで頰を膨らませて、唯はプンスカ怒っている。そうだろう。そうだろう。何しろ異能を知っているとか知ったかぶりして、勝手に話を進めたのだから。おまけに忠告を明らかにシカトしてたしな。この怒りも最もといえるだろう。


 「私の前で、私を抜きにして、高城さんとイチャイチャするなんて!!!!私の気持ちを知ってる癖に!!!!」


    は ?


 「は?」


 コ イ ツ は 何 を い っ て い る ん だ 。もっと他に言うことがあるだろう。例えば、異能とか。コイツは天上天下 三千世界で陽以外に興味がないらしい。いや確かに、異能の存在自体は出来るだけ秘匿としか言われ、知らせては絶対ダメではなかったが、にしても普通は先に知ったかぶりを咎めたりするだろう。勝手に進めたことを怒ったりするだろう。だが、コイツはそれら全てのことをさしおえてまで、言いやがった。


 告白紛いのことを。そして、唯はここから更に爆弾を投下する。


 「陽君。私と高城さん、どっちの方が好きなの?」


 コイツ・・・・・・!!!!なぜ、なぜこのタイミングでそんな爆弾を投下するのか。それに対し陽は・・・


 「(メンドクセぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)」


 今世紀最大の絶叫を心の中でしていた。流石にこれには同情を禁じ得ない。陽にとっての一番の不幸はどうやら『朝倉 唯に目を付けられたこと』だったらしい。


 
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