ヒト堕ちの天使 アレッタ

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初めてのおつかい 【山小屋編2】

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 アレッタの声は力強い。
 その目の輝きと、言葉の強さにシルファは思わず頷いた。

 だが、弟と同じぐらいのアレッタが自分たちを救えるなどとは思えない。
 頭ではわかっていても、心は助けてもらいたい。
 シルファの戸惑う心が視線の動きで見えてくる。

 アレッタは腰を改めて下ろし、男たちの動きを目で追いながら、ペンダントをシルファに掲げた。

「シルファ、このペンダントは私の居場所を伝えるペンダントだ。
 だからそう遠くないうちに大人が私を見つけてくれる。
 だがその遠くない、というのは30分後なのか、1日後なのかわからない。
 なぁ、このままだとジャンが危ないんだろ……?」

 シルファはこくりと頷いた。

「シルファ、私を信じてくれ。絶対にお前たちを外に出す」

「わかったけど……何をすればいいの?」

「私が声を出したら逃げてくれ。それだけで十分だ。
 シルファ、あの男たちが1人になるタイミングはあるか?」

「あるけど……
 私たちの食事を持ってくるとき、1人出ていくわ」

「食事の時間は?」

「多分、もうすぐ」

「わかった。そのとき逃げるぞ」

 シルファが言った通り、ぼーんと不釣り合いな振り子時計の音が響いた。

「ツブすのは、飯の後にするか」
「そうだな。汚れるしなぁ……」
「飯か……。俺、持ってくるわ」

 アレッタを盗んだ男が扉側だったからか、その男はすぐに席を立ち、部屋を出ていく。
 ドアが閉まったのを確認して、アレッタは腹を抱えてうずくまった。

「ちょ……アレッタ……? 大丈夫、アレッタ……?!」

 シルファの声に、腹を抱えながら見上げたアレッタはニヤリと笑い返す。
 そのとき、残った男が牢屋に近づいてきた。

「……お、おい、」

 アレッタはお腹を抱えながら、鉄格子にすがりついた。

「……ご、ごめんなさい。すごく、痛いのです……助けて……くださ……」

 渾身の力で自分のお腹をつねりながら、残った男に懇願する。

 本当に、すごく痛いっっ!!!!

 あまりの痛さに身を丸めてうずくまると、男の方は金になるアレッタが死ぬのはマズイと、すぐに牢を開けて中に入ってくる。

「お、おい……死なれたら旦那に殺されちまう……お前、ど、どこ痛いんだよ……おい……おいっ!」

 うずくまったまま動かなくなったアレッタを大きく揺すったとき、彼女に隠れていたエンが飛び出した。
 アレッタの背を蹴り飛び上がったエンは、男の顔面に前足を伸ばす。
 あまりの早業に男は仰け反りながらも、手で払いきれない。
 エンの爪は確実に目に向かって飛びかかった。
 そよ小さな手だが爪は長く、カミソリのように鋭い。
 切り裂かれた男の額からは血が溢れ、エンの爪が刺さった右目が引きずり出されている。
 男はもがき、わめき、かろうじて生き残った左目でアレッタを捉えると、アレッタを渾身の力で蹴り上げた。
 アレッタは壁に叩きつけられ、土壁とともに崩れるように床に落ちるが、その手にはトンファーがある。
 蹴り上げられた瞬間に奪い取ったのだ。

 アレッタは素早くかがみこみ、男の足にトンファーを絡ませた。もんどり打って転んだ男の首根に向けて、トンファーを握った腕を大きく振り下ろす。
 男の上げかけた頭が床にぶち当たり、二度の衝撃で鼻の骨を折った男は、そのまま気絶した。

 アレッタは血の唾を吐き捨てると、男から鍵を奪う。ジャンを抱えるシルファを手伝って牢を出るが、男が起き上がってきては困るので、鍵をかけ直したとき、そこに食事を持ってきた男が現れた。

 男は一瞬何が起こったのか理解ができなかったようだが、すぐに皿を放り投げ、声をあげようとする。
 
 だが、アレッタは瞬時に踏み込んだ。
 
 ───彼女の目が光る。それは彼女の微かな魔力が高まった証拠だ。

 彼女は自分の背ほどのテーブルにひと蹴りで飛び乗り、腕を伸ばした男の体に入りこんだ。真っ直ぐにトンファーを突き出すと、細い男の鳩尾にはまり込み、男は吐瀉物を撒き散らして、うずくまる。
 だが倒れるにはまだ弱いようで、涎を流しながらもアレッタを捕まえようと腕を伸ばす。

 だがアレッタは、トンファーで力一杯腕を殴り、テーブルに叩きつけた。
 それでも男は頭をもたげてもう一方の腕を振り上げてくる。アレッタはその手をヒールで踏みつけ、トンファーを顔面めがけて横振りした。
 男の頭が一周するのではという勢いで首が回ると、男は歯と鼻血を散らしながら、テーブルに体を撫でるように落ちていった。

「シルファ、出るぞ。私が守るっ!!」

 牢屋のある部屋からでた次の部屋は、赤と黒の部屋だった。
 見回した3人の男たちは革のエプロンを下げ、その手には大きな包丁がある。
 台には肉が刻まれ、それが何の肉だったのかはわからない。

 さらに奥を見ると、小さな椅子と棚があることから、そこでジャンとシルファは血を抜かれていたのだろう。

 このおぞましい地獄を眺めながら、延々と血を抜かれていたんだ………

 アレッタは包丁を掲げた男に対峙すると、踏ん張り、飛び出した。
 棒の先は重石がつけられ、遠心力に力が増す。

 包丁で向かってくる男の腕をトンファーで殴り、刃を蹴り割った。

「……シルファ、……行けっ!!!!!」

 アレッタの声に押されるように、シルファはジャンを抱えながら走り出した。
 彼らに伸ばされる腕をトンファーで殴り、落ちた包丁を投げつける。それは難なく避けられるが、エンの援護も頼もしい。
 台を蹴り上げ、飛び跳ねるエンはすばしっこく、さらに小さな幼女が殴りかかってくるのだ。
 3人の男の前には、1つずつ大きな台が置かれ、それが身動きの邪魔になり、思うように捕まえられない。

 棍棒を持った男の腕を叩きつけたとき、2人はようやくこの赤黒い部屋から飛び出した。
 まばゆい光が2人を包む。

 彼らが自由になった瞬間だ。

 アレッタが思わず微笑んだそのとき、腹部に衝撃が走った。

 蹴り上げられたのだ。

 再び壁に強く打ちつけられ、男たちの足がアレッタへと向けられる。
 慎重に近づく彼らだが、朦朧とする意識を奮い立たせ、アレッタは立ち上がった。

 怯む男たちに向かって、立ち上がった。


「絶対……生き抜いてやるっ!!!!」


 アレッタの怒号が湿った部屋にこだました。
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