ヒト堕ちの天使 アレッタ

yolu

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 その頃のエイビスは、フィアの想像通り、目の前の小さな蝶に悪態をついていた。

「精霊王、僕もう帰りたいんだけど」

 蝶は蓮の花の上に留まり、エイビスに頭を向けている。
 だが足元には水はなく、ただただ緑に染まった世界だ。
 どこもかしこも緑。
 この小さな空間一帯に植物がひしめき合い、蔦なのか木なのかもわからないものが、天井から床まで張り巡らされ、この空間を圧迫している。

『……そんな幼子のような言い草はないじゃろ』

 虹色の羽の蝶は、金粉を降らせながらエイビスに話す。
 だがその声は頭の中に直接届く不思議な声だ。
 明るい部屋で舞う金粉はチカチカと目に刺さるようで、エイビスはそれを塵ゴミのように手で払うと、再び催促した。

「今で2分も経ってる……早く、なに、精霊王っ!」

『全く……簡潔に言うと、ネージュに2つの魂が結ばれた。その理由はわかるか?』

「知らないよ。僕には関係ない。全くわからない。というか、意味がわからない」

 全く知りませんと言わんばかりのオーバーリアクションだ。
 それを見た精霊王はやれやれとでも言うように、羽を上下に揺らす。

『そのままの意味だ、エイビス。
 今ネージュは新たな者の聖剣となった。
 アレッタと繋がったままで、な』

 蝶が浮かぶと、蔓が伸びてエイビスの目の前に留まり、ゆるやかに羽を広げてみせる。

 だが、エイビスは固まっていた。
 その言葉の現実を見れないでいた。
 ようやく言った言葉は、

「……無理だ………」

 たった3文字だった。

 それでもエイビスはいくつかの可能性を考えてみる。
 いくら考えてもまとまらないその現実に、左右に頭が振られる。
 そしてもう一度、無理だと付け加えた。

『でもできてしまった……どうやったかは知らん。
 だが今頃ネージュは身を割かんばかりの痛みの中におるじゃろう……
 可哀想な我が娘……』

「そうだとして、何の得があるの」

『それは我の範疇ではない。下等な天使の考えなど、わかりたくもない。だからお主を呼び出した』

「でも、それじゃ聖剣の力はほとんど使えない状態じゃないの?」

『だろうな。力を使うたびに、ネージュの魂は削られる……』

「削られる……? そんな……」

 その言葉にエイビスは大きく反応した。

「……まずい」

 慌てだしたエイビスに、蝶はひらりと舞い上がる。

「早く帰らせて、精霊王。アレッタが……」

『なぜ、アレッタ……?』

「アレッタが今、ヒト堕ちで、僕のところにいて……」

『……なんと…』


 エイビスは精霊王に仮面を向け、低い声で言い放った。


「……襲撃が、来る…」
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