ヒト堕ちの天使 アレッタ

yolu

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激動

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 エイビスは精霊王にまともな挨拶を交わすことなく、ぐにゃりと伸びた光の渦に飛び込こんだ。
 すぐに懐中時計を取りだした。文字盤は夜の11時に差し掛かっている。
 それを見てエイビスは吐き捨てる。

「……4分もっ……!」

 息継ぎをするように目の前の景色にエイビスは飛び込んだ。
 そこはアレッタが眠る部屋のはず、だった。

「……くそっ」

 絨毯に散らばるのは、無数のガラス片に壁材の石屑だ。それらは月光に照らされ、妙に煌めきながら舞い上がる。
 すべてテラスに通じる窓が破られた結果で、大きく崩れた壁がどれほどの衝撃だったかを教えてくれる。
 不意に冷たい風がベッドの羽毛を舞い上げた。それにつられるようにベッドの布団をまくりあげるが、そこにはアレッタはいるはずもなく、ただ幾重にも突き刺した痕が残っている。

 把握しきれない現状を知らせるように、唐突に爆音が轟いた。

「…フィアの術……っ」

 エイビスが廊下に飛び出すと、そこには純白の鎧をまとった天使が2人、立っている。
 佇む姿からして、待っていたのだろう。
 エイビスは仮面越しに2人を睨む。
 金色の髪をかきあげ睨むのは、男の天使だ。その後ろで剣を構えるのは女天使である。
 どちらも2枚羽ではあるが、智天使としてはかなり腕が立つのが見てわかる。
 なぜなら金の腕輪をしている。それは上位戦士であることを示す腕輪である。
 その彼らの手には剣が握られ、ゆっくりとこちらに刃が向けられた。
 エイビスはそれに怯むことなく、腕を組んで対峙すると、小さく首を傾げてみせる。

「……君たちみたいのが、こんなところでなにしてるの……?」

 銀の仮面に、ふたりの姿が逆さに映るが、彼らも至って平然としている。
 大きく羽を広げ、威嚇とでもいうように音を立てて瞬かせた。

「神の右手ドゥーシャ様から、アレッタの抹殺を命じられている。
 すぐにアレッタを出せ」

「そんな理由? 不法侵入に器物破損までして?
 だいたい、わざわざヒト堕ちを殺しに来るなんて、死ぬの待てないの?」

「彼女は天界に魂として戻ることは許さないとのことだ。
 ……邪魔をしなければ、殺しはしない」

「殺しはしないってことは、半分は殺そうと思ってるんだよね……?」

 エイビスは床を小さく鳴らした。
 かつんという踵の音だ。

 だがその瞬間に彼の姿は消えていた。
 ただ強い風が2人の天使の頬を殴り、後ろに移動したのだと教えてくる。


 振り返った2人の天使が見たものは、2枚の羽。

 しかも根元から血が滴る、鮮血がほとばしる羽である────


「君たちもうすぐ死ぬけど、大丈夫……?」

 エイビスはその羽を床へと捨てた。
 さも汚れたもののように、腐った肉でも摘んだかのように、指先から落とし、手を払う。
 床へ落ちた羽からは雪の結晶のように煌めく羽毛が血とともに散らばった。

 その光景の一拍あと、2人の痛みがこだました。
 最初はただの熱が背を覆ったように思ったが、それは血の熱であり、傷の熱だったのだ。
 まるで花火の時差のようだ。
 痛みが脳天を突き上げるように後ろから追いかけてくる。


「よくも、私の羽をぉぉぉ……!!!!」


 野太い声で突進したのは、女戦士だ。
 玉の汗を流しながらレイピアを腰に構え、飛び出した。
 片翼ではあるが、それでもかなりのスピードである。
 壁に溝を描きながら突進する彼女は、瞬時にエイビスとの間合いを詰めた。

 先手必勝とばかりに突き出されるレイピアだが、決して闇雲に突き出しているわけではない。
 素早い突きの動きでありながら、的確にエイビスの心臓、首筋と急所を狙っている。

 だがそれは掠りもしない。

 エイビスは彼女の手首を的確に捉え、自身の横へと流していく。
 躍起になって攻める体は次第に前にのめり、息も上がり始める。
 血もだいぶ流れているのか、床が赤黒く染まり始めた。

 制止する男の声も聞かず、女戦士はさらにエイビスとの距離を縮めた。
 そのとき、彼女の体がぐらりと傾く。
 自身の血と羽に足が取られたのだ。

 エイビスは傾いた女の足をそのままつまずかせると、首根を掴み、床へと叩きつけた。

 すぐに埃はおさまったが、それでも木の床には穴が空き、それを覗き込むように女天使の体がある。
 エイビスはのそりと立ち上がって、ぼそりと言った。

「……後ろから頭を取るときは簡単。
 背骨を折ってから、肉を割けばいい……」

 女の首が、ぐるりと振り返る。
 白目をむいた女の顔と、男戦士の目が合った。
 男の顔が引きつるのをエイビスは仮面に映しながら、小さく肩をすぼめてみせる。

「生首ぐらいで、そんなに驚かなくても……」

 エイビスは真っ赤な手袋をはめなおすために女の頭を放り投げた。
 男の足元へと転がっていくが、動揺は隠せないようだ。
 彼の、鎧をも貫くファルシオンの剣が、無様に小刻みに震えている。



「……僕の守る領域を侵せばどうなるか、教えてあげるよ」



 エイビスは手袋の血を払い落すと、体勢を低く構え、足をゆっくり踏み出した。
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