ヒト堕ちの天使 アレッタ

yolu

文字の大きさ
53 / 56

9日目に至るまで 2

しおりを挟む
 この幼女問題を解決したのは、魔女だった───

 5日目の朝、魔女が来客として訪れたのが、解決の糸口となる。
 館の保険が使用されたので、今月にまた記録をしておくか、それとも来月までそのままでいいかの確認に来たのだそう。

 フィアと魔女の会話を聞きながら、アレッタは途方に暮れていた。

 いつ幼女になり、大人になるかわからないアレッタは、布を体に巻きつけるしかない。
 転がるエンをあやしながら、幼女アレッタのままの体をどうしたらいいかと思っていたのだ。

 話が終わった魔女はアレッタの姿に笑い、

「まぁ、感情の高ぶりで魔力が溢れるのよ。だから簡単に幼女になるし、落ち着けば大人に戻るのね」

「……へ? そんなことで……?」

 確かにこうなったのも、朝起きたら大人アレッタだったが、朝食を食べて興奮したら幼女アレッタへと変わっていたのだ。

「まぁ、私は空間魔法が使えるから、そこにお洋服をしまっておいたらどう? 腕輪かなにかで創ってあげられるわ。魔力の動き方さえ読めれば、簡単に変身し放題。アレッタちゃんなら、簡単に習得しちゃうと思うの」

 そのとおり、魔女の監修のもと、アレッタは魔法幼女になるべく、腕輪を使っての変身の仕方を5日目は学ぶ時間となった。

 だが魔女の言う通り、それほど苦労することはなかった。

 魔力の力加減と似ているところがあるようで、コツさえわかれば、言う通りに変身し放題。
 幼女アレッタから、大人アレッタへ。
 さらに服も6枚収納可能なので、メイドアレッタから、戦闘アレッタ、農業アレッタまで変身し放題となった────



 翌日6日目はデイビーズが謝罪に訪れた。
 ヒトの裁判にかけられ、脚を焼かれたそうだ。それでも死ねないのは、やはり、魔族だから。
 あまりの酷い状態にアレッタが言葉を失くすが、デイビースの顔は終始笑顔だ。

「あのヒト堕ちで、しばらく食っていけそうです」

 その方法については聞きたくなかったので、アレッタはエンと一緒に中庭のガゼボへと出かけていた。
 少しの時間彼ら親子は滞在し、そして、再び頭を深々と下げて歩いていく。
 その姿を見るに、フィアが回復魔法をかけたようだ。
 何か条件にそれを行なったのかもしれないが、腕も目も足も元に戻っているのは、さすがとしかいいようがない。

 視線で見送ったアレッタの元に、エイビスが現れた。
 こうしてふたりきりで話すのは本当に久しぶりだと、少し体が緊張する。
 ここにネージュがいればとも思うが、ネージュは今魔女の元に行き、氷の魔術の幅を広げに行っている最中だ。
 どう切り出していいのかわからず、アレッタはエンの頭を撫でてごまかしてみる。

「アレッタ、明日で7日目だね」

「……そうだな。長かったのか、短かったのかわからない7日目だな」

 エイビスはあの夜のように遠くを見たままベンチに腰掛けた。
 アレッタもその隣に腰をおろし、同じように遠くを見つめる。
 あのときのエンは膝の上ですやすやと眠っていたのに、今のエンは大型犬並みだ。
 アレッタの足元で丸まり、ふんと息をつく。

「アレッタ、僕は君を眷属としたことを後悔していない。だがアレッタ、君の気持ちを聞いていなかった」

「あのときにそうしてくれていなければ、私は今頃、ただの悪霊になってたはずだ」

「その結果を見ないで教えて欲しい。
 君は永遠ともいえる時間、僕とともに過ごすことになるんだから」

 なぜかその声は悲しそうにも聞こえる。
 どうしてかはわからない。
 アレッタはいまだに刻まれる左手首の青い輪を眺め、

「エイビス、あなたがヒト堕ちになる前日、私の手首に刻んだのはなぜです?」

「……君とずっと一緒に居たかったから。
 だけど、君の気持ちを僕ははっきり聞いていなかった」

 アレッタはその言葉に思わず笑ってしまった。
 なぜ笑うのかと彼は不思議な顔でこちらを見ている。
 アレッタはひとしきり笑ったあと、手首を見せた。

「嫌いな相手に、これを刻ませると……?」

 アレッタに恋心を抱く男は少なくてもいた。
 だが隣に腰を降ろさせ、楽しく話をさせたのは、このエイビス、天界ではルシファーしかいなかった。
 確かに彼は神の右手と左手。最強の天使だ。
 だがそれ以上に彼はアレッタを鍛え、成長を促した張本人でもある。

「私はあなたを尊敬し、何より、大好きだった。
 エイビスとなったあなたも、大好きになった。
 朝日に誓ってくれたあのとき、私はドキドキしていた。
 私にはルシファーがいるのにと思いながらも、ドキドキが止まらなかった。
 もしかしたら、薄々気づいていたのかもしれない……
 だって、ルシファー以外、こんなにドキドキしたこと、なかったから」

 アレッタは素直な気持ちを言葉にした。
 それ以外、話す言葉を選べなかったからだ。

 言い終わるや否や、エイビスはアレッタをしっかりと抱きしめた。
 抱き寄せた力は優しくはない。
 だけれど、それがエイビスの気持ちなのだとアレッタは受け取った。

 ぴったりとくっついたふたりの足元にエンは移動すると、再び丸くなって、眠り始める。
 それは幸せな黄昏時だった───
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...