88 / 90
第4章 紫禁編
門戸を叩く
しおりを挟む
『おい!東華門に侵入者だ!急げ!』
『畜生!何で俺たちがこんなこと………………!』
(門の警備をしてた人たちがどこかに行っちゃった…………今なら普通に入れるか)
なぜか東の方で爆発音が響いたと思ったら、門の警備員らしき人たちがそろってそちらの方に行ってしまった。どういう訳かは知らないが、可能な限り戦闘を避けたかったため、折角なのでその恩恵にあやかることにした。
「………………よし」
広場の物陰から走り出し、天安門傍の壁の一角に触れる。しばらくするとその脇にぽっかりと高さ2mほどの穴が開いた。
穴の向こうの様子を確認する。だが、逆に罠の可能性を疑うほど誰一人いなかった。やはり東から少しばかり喧噪が聞こえるし、黒い煙も上がっている。自分と同じように進入してきた人がいるのだろうか。
穴を塞いで、建物をつたって西の方へ移動を始める。
(待っててね、鈴麗……………)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
鈴麗は、歩き慣れた紫禁城の庭を踏み締めて歩き進んでいく。
武器を持って襲いかかってくる輩をなぎ払いながら───ではない。
彼女は門を叩き壊してから今まで、手持ちの槍を一度として振るってはいない。
そして、彼女に攻撃を仕掛けた者も一人もいない。
用いたのは、皇女としての威厳と存在感のみ。
それだけでも、衛兵達の心の葛藤をへし折るには十分すぎる破壊力だった。
まるで数多の観客に囲まれてレッドカーペットの上を歩くハリウッドスターように、槍だの剣だの武具一式を携えた衛兵群衆の間を、堂々と一歩を踏み出す。それだけで鈴麗の前の衛兵の壁が、震える足どりで道を空けた。
───そうして、障害も無く中枢・太和殿の前に行き着いた。彼女の背後は、逃げることも出来ずにじりじりと後をつけてきていた衛兵でごった返していた。
無数の視線を背に、鈴麗は漢白玉(白色の天然石)で出来た階段を、一歩一歩踏み締めながら上がっていく。
(私が目覚めたとき、そこに父上はいなかった。絶対にここにいるはず。大方、何かの大罪人として見せしめにでもするつもりなんでしょうね)
噛み締めた奥歯が痛い。
ゆっくりだった歩みは、底知れぬ怒りに急かされてその速度を上げていく。
踏み締めるような歩みから、駆け上がるような走りに。
(そんなこと、絶対にさせない!私の大好きなこの国も、大好きな父上も、全部私が救ってみせる!!)
あの時、心の中で決心したから。
強くなる、と。
人の上に立つプレッシャーに負けない皇帝になる、と。
そう。
いつも申し訳無さそうにヘラヘラ笑っている、あの気弱な少年のように。プレッシャーから逃げずに立ち向かう道を選べる、とある能力流派の若頭のように。
もう二度と、あいつの顔を見ることはない。
会えたとしても、こんな状態の自分を曝さらすわけにはいかない。
遊園地で決別の告白をしたあの日から、その意思は、堅く、大きく、強い。
自身の決心に応えるための第一歩として、駆け上った勢いそのままに、階段の最上段を踏みつける足により一層の力を込める。能力のアシスト付きで石段を蹴り、大きく前に跳んだ。
身体に打ちつけられる風を感じながら、片足に爆炎をまとわせる。
空中でバランスを維持しながら、膝が胸に付くほど足を引き寄せる。
そして、
炎の爆裂アシスト付きの跳び蹴りを、豪勢な扉のド真ん中に蹴り込んだ。
『畜生!何で俺たちがこんなこと………………!』
(門の警備をしてた人たちがどこかに行っちゃった…………今なら普通に入れるか)
なぜか東の方で爆発音が響いたと思ったら、門の警備員らしき人たちがそろってそちらの方に行ってしまった。どういう訳かは知らないが、可能な限り戦闘を避けたかったため、折角なのでその恩恵にあやかることにした。
「………………よし」
広場の物陰から走り出し、天安門傍の壁の一角に触れる。しばらくするとその脇にぽっかりと高さ2mほどの穴が開いた。
穴の向こうの様子を確認する。だが、逆に罠の可能性を疑うほど誰一人いなかった。やはり東から少しばかり喧噪が聞こえるし、黒い煙も上がっている。自分と同じように進入してきた人がいるのだろうか。
穴を塞いで、建物をつたって西の方へ移動を始める。
(待っててね、鈴麗……………)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
鈴麗は、歩き慣れた紫禁城の庭を踏み締めて歩き進んでいく。
武器を持って襲いかかってくる輩をなぎ払いながら───ではない。
彼女は門を叩き壊してから今まで、手持ちの槍を一度として振るってはいない。
そして、彼女に攻撃を仕掛けた者も一人もいない。
用いたのは、皇女としての威厳と存在感のみ。
それだけでも、衛兵達の心の葛藤をへし折るには十分すぎる破壊力だった。
まるで数多の観客に囲まれてレッドカーペットの上を歩くハリウッドスターように、槍だの剣だの武具一式を携えた衛兵群衆の間を、堂々と一歩を踏み出す。それだけで鈴麗の前の衛兵の壁が、震える足どりで道を空けた。
───そうして、障害も無く中枢・太和殿の前に行き着いた。彼女の背後は、逃げることも出来ずにじりじりと後をつけてきていた衛兵でごった返していた。
無数の視線を背に、鈴麗は漢白玉(白色の天然石)で出来た階段を、一歩一歩踏み締めながら上がっていく。
(私が目覚めたとき、そこに父上はいなかった。絶対にここにいるはず。大方、何かの大罪人として見せしめにでもするつもりなんでしょうね)
噛み締めた奥歯が痛い。
ゆっくりだった歩みは、底知れぬ怒りに急かされてその速度を上げていく。
踏み締めるような歩みから、駆け上がるような走りに。
(そんなこと、絶対にさせない!私の大好きなこの国も、大好きな父上も、全部私が救ってみせる!!)
あの時、心の中で決心したから。
強くなる、と。
人の上に立つプレッシャーに負けない皇帝になる、と。
そう。
いつも申し訳無さそうにヘラヘラ笑っている、あの気弱な少年のように。プレッシャーから逃げずに立ち向かう道を選べる、とある能力流派の若頭のように。
もう二度と、あいつの顔を見ることはない。
会えたとしても、こんな状態の自分を曝さらすわけにはいかない。
遊園地で決別の告白をしたあの日から、その意思は、堅く、大きく、強い。
自身の決心に応えるための第一歩として、駆け上った勢いそのままに、階段の最上段を踏みつける足により一層の力を込める。能力のアシスト付きで石段を蹴り、大きく前に跳んだ。
身体に打ちつけられる風を感じながら、片足に爆炎をまとわせる。
空中でバランスを維持しながら、膝が胸に付くほど足を引き寄せる。
そして、
炎の爆裂アシスト付きの跳び蹴りを、豪勢な扉のド真ん中に蹴り込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~
カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。
気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。
だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう――
――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる