21 / 90
第2章 饗宴編
開祭宣言
しおりを挟むー2012.10.06ー
ウエイトレスの練習やら能力の練習やらで時は流れ、白宴祭の初日がやってきた。
フォートレス能力専門高等学校は、既に過ぎた残暑に負けないくらいの熱気に包まれ、普段はただの通り道である校舎の間もどこのクラスともしれない出店でごった返しとなっていた。
「みなさん、いよいよ本番ですが、その前に、特別指導に来ていただいたゴートンさんとセリカさん、何か一言お願いできますか?」
時刻は白宴祭開催前の早朝、一通りの仕込みを終えた1-Dクラスの全員が集まっている。その視線を一心に受けて、つきっきりで給仕のノウハウを指導してきたゴードンさんとセリカさんが喉を鳴らした。
「そうですね……………とりあえずみなさんには最低限必要なことは一通り伝えました。あとはやるべき事を、しかるべき時にやり遂げてください」
「それと、女子のみなさんは恥ずかしがらずに思い切ってやることです。がんばってくださいね!」
「では、もう少し準備を整えてから開会式に向かいましょう!」
「ただ今より、第12回フォートレス能力専門高等学校白宴祭、開祭式を執り行います。司会進行は、生徒会副会長、江ノ元 密季が勤めさせていただきます。初めに、魁ヶみ…………玄ちゃん校長先生にご挨拶をいただきます」
「魁ヶ峰丘 玄呉柔郎じゃ!勝手に略すでないわい!以上!!」
((((挨拶短ッ!?))))
「続きまして、沢村 豪生徒会長の挨拶です」
「全く、ミッちゃんはいつも堅いよー」
「そんな事はいいので続けてください。あと『ミッちゃん』はやめてください」
「校長をあだ名で読んだミッちゃんの言えることではないな。それはそれとして───」
そういって、沢村生徒会長は
スゥーーッ、と大きく息を吸って、
「元『キィィィィン』ァァァァァァふぐゥ!?」
((((……………………??))))
何か叫んだ。あのマイクの音特有のキーンで全く理解できなかったが。
ちなみに最後の音はうるささにキレた副会長が、会長の側頭部に氷の塊をねじ込んだときの声である。
「……………………まあそんな事はいいとして」
((((あ、復活した))))
「俺から言えることは一つだ!お前らでこの白宴祭を全力で盛り上げろ!そして…………全『キィィィィィィィン』ェェェェごふォ!?」
((((…………………………………))))
ちなみに、今度は横の脇腹である。
「…………い、以上………です」
((((力尽きた…………))))
「以上を持ちまして、開祭式を終了します」
((((スルーした!?))))
2年生と3年生は毎度の事のように会場から出て行くが、初見の1年生は副会長の指示で生徒会長がステージの奥に連行されているのを口をぽかんと開けながら見送り、放送がかかるまでの間もぬけの殻となったステージを見つめていた。
「お帰りなさいませ、ご主人様っ!」
時間は午前11時ごろ。
1-Dでは、現在このメイド喫茶にやってくるお客さんを捌くのに大わらわになっていた。
開店当初はやはり外見的に近寄り難かったのか、さほどお客さんはいなかった。しかし少ないお客さんがその物珍しさを言い広め、噂を聞きつけて入店した新たなお客さんがまたリピーターに…………というねずみ算方式でどんどん客足が増え始め、今では校内でトップを争う繁盛ぶりとなっている。
「まさかこんなにアタるなんて…………はい、コーヒーとカップケーキ!」
「全くよ!やっぱり『お嬢様』っていう響きがイイのよね!っと……………………お、お待たせしましたーご主人様」
鈴麗はまだおぼつかない感じなようだが、相手のオッサンにはどストライクなようだ。どうやらリピーターが増えそうである。
この白宴祭の二日間の間は、例の城門が解放されて校外の一般客も学校内に入る事が出来る。もちろんその分犯罪が起こりやすくなるのだが、それを監視及び取り締まるのがダイアナ・ルベール先輩率いる風紀委員会である。その委員長がかなり癖のある人なのだが、それはまた後の話。そういえば、生徒会の中でまだ名前が出てない人がいたような気がするが、多分気のせいだ。
そんな話は別として…………。
そんな一大イベントが全世界に7ヶ所しかない能力専門学校の一つで行われるので、全国のマスコミが本校に集まってくる。そんなマスコミ達が学校内でトップを争う繁盛ぶりを魅せる出店にカメラを向けないはずも無く、1-Dの催し物がきっかけで日本中でメイド喫茶ブームを巻き起こすことになるのだが、そこで働いている1-Dはそんな事など知る由もなかった。
そして、その喧噪の中で一つの闇が動いていることも。
「…………もしもし、こちら『梟』。予定より混雑が激しいため捜索は難航中。引き続き───あ、チョコクレープひとつ。───失礼、目標の捜索を実行します。」
0
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる