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014.師
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「待てぇい!」
街灯もまばらの細い路地を隠れながら走る。追手の声が静まり返った夜の街に響く。しわがれた声にも関わらず、追手の脚力は若者の物そのもので、立ち止まればつかまってしまいそうな気迫が迫る。武者震いか酸欠か、細胞がびりびりと震える感覚を覚えながら必死に脚を動かす。
賊に刺されたわき腹から血が滲んでいた。傷に手を当てて庇う。事の発端はその傷だった。
先週、反自治会勢力の抗争に巻き込まれた下っ端の俺は、組織の重役の盾になって怪我を負った。そこまではこの街では珍しい話ではない。
運び込まれた病院は組織ご用達の物ではなかった。思いの外傷は深く、急患を診てくれる個人医院へと搬送されたのだ。応急処置を受け、数日後には移送される手はずだったのだが……。
「まだ直っておらんぞ!」
老医者が頑として転院を許さなかった。ここでは医者の診察が絶対。動かせない患者は動かさないのだと主張し、てこでも動かなかった。
民間の医院にいて、いつ何時襲われるかもわからない。末端のメンバーといえ、組織の情報を持っている人間だ。他の勢力に拉致されるわけにはいかない。
無理やりに組員を伴って転院させる手筈が整えられた。夜中、人手が少ない時間を狙って秘密裏に脱するのである。
決行の日。
廊下は薄暗い。休日で院内の人間が少ないのは調査済みだった。逃走経路も把握している。簡単な脱出計画のはずだった……。
搬入口から出ようとしたところで、けたたましいサイレンが鳴る。当直の看護師がガチャンガチャンと音を立てながら走って角を曲がって来た。手には銃器がある。病院の職員の躊躇ない攻撃。迎撃する間もなく発砲され、半分の付き添い組員の身体が吹っ飛んでいく。
「にげろ!」
襲われたという感覚のまま、逃走車が置いてある駐車場まで駆ける。直すならともかく、退院しようとしたら襲ってくるなんて。この病院は異常だ。
とにかくこの場所から逃げなければ……。
車の陰から現れた人物がいる。あの老医である。
「直すまで逃がすか!」
用意された車からはガス臭い臭いが漂っている。老人の足元にはいくつもの薬瓶が転がっている。手には捕縛するための物騒な猿轡が握られていた。
「ひっ」
悲鳴を上げた後、どこをどう通って逃げているのか全く分からない。
老いているとは思えない勢いで老人が迫る。機関車のような速さ。あっという間に背中に追いついた。
「待て、待て、待て! アハハ!」
脇腹に痛みが走る。賊に刺された所であった。そこに老人の手刀が刺さっていた。
「治ってもいないのに病院から逃げるなんぞ笑止千万!」
壊れたように笑いながら、老人が俺の身体を引きずっていく。先には看護師がストレッチャ―を用意して待っていた。
撃ち殺された同輩たちも一緒に収容されて、なかなか退院することができない。
街灯もまばらの細い路地を隠れながら走る。追手の声が静まり返った夜の街に響く。しわがれた声にも関わらず、追手の脚力は若者の物そのもので、立ち止まればつかまってしまいそうな気迫が迫る。武者震いか酸欠か、細胞がびりびりと震える感覚を覚えながら必死に脚を動かす。
賊に刺されたわき腹から血が滲んでいた。傷に手を当てて庇う。事の発端はその傷だった。
先週、反自治会勢力の抗争に巻き込まれた下っ端の俺は、組織の重役の盾になって怪我を負った。そこまではこの街では珍しい話ではない。
運び込まれた病院は組織ご用達の物ではなかった。思いの外傷は深く、急患を診てくれる個人医院へと搬送されたのだ。応急処置を受け、数日後には移送される手はずだったのだが……。
「まだ直っておらんぞ!」
老医者が頑として転院を許さなかった。ここでは医者の診察が絶対。動かせない患者は動かさないのだと主張し、てこでも動かなかった。
民間の医院にいて、いつ何時襲われるかもわからない。末端のメンバーといえ、組織の情報を持っている人間だ。他の勢力に拉致されるわけにはいかない。
無理やりに組員を伴って転院させる手筈が整えられた。夜中、人手が少ない時間を狙って秘密裏に脱するのである。
決行の日。
廊下は薄暗い。休日で院内の人間が少ないのは調査済みだった。逃走経路も把握している。簡単な脱出計画のはずだった……。
搬入口から出ようとしたところで、けたたましいサイレンが鳴る。当直の看護師がガチャンガチャンと音を立てながら走って角を曲がって来た。手には銃器がある。病院の職員の躊躇ない攻撃。迎撃する間もなく発砲され、半分の付き添い組員の身体が吹っ飛んでいく。
「にげろ!」
襲われたという感覚のまま、逃走車が置いてある駐車場まで駆ける。直すならともかく、退院しようとしたら襲ってくるなんて。この病院は異常だ。
とにかくこの場所から逃げなければ……。
車の陰から現れた人物がいる。あの老医である。
「直すまで逃がすか!」
用意された車からはガス臭い臭いが漂っている。老人の足元にはいくつもの薬瓶が転がっている。手には捕縛するための物騒な猿轡が握られていた。
「ひっ」
悲鳴を上げた後、どこをどう通って逃げているのか全く分からない。
老いているとは思えない勢いで老人が迫る。機関車のような速さ。あっという間に背中に追いついた。
「待て、待て、待て! アハハ!」
脇腹に痛みが走る。賊に刺された所であった。そこに老人の手刀が刺さっていた。
「治ってもいないのに病院から逃げるなんぞ笑止千万!」
壊れたように笑いながら、老人が俺の身体を引きずっていく。先には看護師がストレッチャ―を用意して待っていた。
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