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今日の昼食も普段通り、せわしないランチになった。
水野学が大学に入学して二年が経つが、食堂を利用する際に落ち着いて食べられた試しがない。まず、食堂に入ってから悲鳴のようなざわめきが起こる。献立のメニューを選んでいる時には食券機を後ろから伺われる。ラーメンの列に並べば後に続く学生が増え、定食の列に並べば学が選んだ小鉢はすぐに売り切れになっていた。
決して学が命令をしてそのように行動するよう、差し向けているわけではない。理由は別にあった。
学が現れたことによって、学生は心も行動も乱されているのだ。学へと関心を惹きつけられ、自分の判断力を失った結果、先を行く学と同じ選択しかできなくなるのであった。
そのため、学がいるときの人が多い昼の食堂は妙にぼんやりとしているし、様子を遠巻きに眺めている学生からは一挙一動をじっとり観察されて、ねっとりとしたため息をつかれる始末だった。
理由は簡単、水野学の顔はこの世で一番美しいのである。
誰もが認め、称賛するほどの天使のように整った顔立ちが今、学食でどんぶりAセットを食べていた。
親子丼を食べている学は食堂に来るんじゃなかったな……と、内心思っている。ほとんどの学生の視線は食堂の端のテーブルに座った学に注がれていた。慣れてはいるが、じろじろと見られたくない気分の日はある。周囲の学生の視線が不思議と熱を帯びている日もある。今日はどうもその両方のようだった。
学は早めに学食を出ようと、どんぶりをかきこんだ。その些細な行動でさえ周囲の人間には非常に強い刺激らしい。あぁ……、という声が聞こえたのを無視して、学は食事を終えると逃げるように食堂から出て行った。
水野学。二十歳。私立大学の二年生。共生学部、人間関係学科。趣味は音楽を聴くことと、ベースを弾くこと。勉強はあまり得意ではないが、手を付け始めると集中できるタイプで、どうにか大学にも合格できた。人間関係学部を選んだのは付属する研究室でアルファベータオメガの社会構造と人間関係について取り扱っていたからだ。いたって普通の文系大学生である。
類まれなる美貌をもって生まれてきたことを除いて。
子供の頃の話をしよう。幼稚園に通っていた時、好きな男の子ナンバーワンだった。それくらいなら大したことのない経験だが、学にとってはそれが最初だった。
小学生の頃、学年が上がるにつれて女子は勿論、男子からも好きな男の子ナンバーワンだったのは、学を取り巻く奇妙な環境の前触れだったのかもしれない。クラスのほとんど、それから他のクラスの名前だけ聞いたことがある子も学のことが好きだという。
アルファベータオメガの垣根がなく、開かれた校風で子供たち同士の関係も良好だった。学はその中でも目立つ存在だったと思う。運動もできたし、勉強への意欲もあった。よく手を上げて返事の大きい子供であった。
学が授業で手をあげると、同級生たちはきゃーと歓声をあげた。それだけのはずだった。しかし、学年が上がるにつれて学が授業中に手をあげると、授業が進まないことが起こり始めたのだ。
授業だけではなかった。学が注目を集めると、皆一様に黙り込み固まりことが増え始めたのである。バスケットボールをすれば学のパスは受け取られず、社会科見学の発表をすれば質問はされない。いずれも、じっと顔に注目され、そして、誰か急に目を覚まし、時間が動き始める。
徐々に周囲の変化に気味が悪くなり、学は授業で手をあげるのを止めた。
中学生に上がり、学の周囲はますます騒がしくも、静かになった。小学生からの付き合いがある友達が一緒に遊んでくれなくなり、どこかよそよそしい態度をとり始めたのが最初だ。違う学校から来た生徒は、学を前にして口をきいてもくれない。学の周りには何か線が引かれたような感じで、人一人分の壁が築かれていた。女生徒に関しては付き合いがなかったものの、口をきけば一瞬で誰々と話したといううわさが瞬く間に広まり、辟易することとなった。
しかし、周囲から一線が引かれ、壁が築かれているにも関わらず、その視線は熱っぽくなる一方だったのである。学を見ると他の生徒は固まり、頬を赤くして目をそらし、そそくさとその場を離れてしまう。用事があれば話はする。しかし、学の話を聞く相手は上の空で要件が通らないことも多かった。
……たぶん、いじめられているわけではない。しかし、周囲の様子は次第に変化していっている。おそらく、悪い方向に。悩んで、教師に相談したものの、先生もぼーっと学を見ているばかりで肝心な話にならない。
なぜ、自分がこれだけ距離を置かれているのか、それにもかかわらず、自分が人に注視されているのかわからないまま、学は人間不信だけが深くなっていた。
水野学が大学に入学して二年が経つが、食堂を利用する際に落ち着いて食べられた試しがない。まず、食堂に入ってから悲鳴のようなざわめきが起こる。献立のメニューを選んでいる時には食券機を後ろから伺われる。ラーメンの列に並べば後に続く学生が増え、定食の列に並べば学が選んだ小鉢はすぐに売り切れになっていた。
決して学が命令をしてそのように行動するよう、差し向けているわけではない。理由は別にあった。
学が現れたことによって、学生は心も行動も乱されているのだ。学へと関心を惹きつけられ、自分の判断力を失った結果、先を行く学と同じ選択しかできなくなるのであった。
そのため、学がいるときの人が多い昼の食堂は妙にぼんやりとしているし、様子を遠巻きに眺めている学生からは一挙一動をじっとり観察されて、ねっとりとしたため息をつかれる始末だった。
理由は簡単、水野学の顔はこの世で一番美しいのである。
誰もが認め、称賛するほどの天使のように整った顔立ちが今、学食でどんぶりAセットを食べていた。
親子丼を食べている学は食堂に来るんじゃなかったな……と、内心思っている。ほとんどの学生の視線は食堂の端のテーブルに座った学に注がれていた。慣れてはいるが、じろじろと見られたくない気分の日はある。周囲の学生の視線が不思議と熱を帯びている日もある。今日はどうもその両方のようだった。
学は早めに学食を出ようと、どんぶりをかきこんだ。その些細な行動でさえ周囲の人間には非常に強い刺激らしい。あぁ……、という声が聞こえたのを無視して、学は食事を終えると逃げるように食堂から出て行った。
水野学。二十歳。私立大学の二年生。共生学部、人間関係学科。趣味は音楽を聴くことと、ベースを弾くこと。勉強はあまり得意ではないが、手を付け始めると集中できるタイプで、どうにか大学にも合格できた。人間関係学部を選んだのは付属する研究室でアルファベータオメガの社会構造と人間関係について取り扱っていたからだ。いたって普通の文系大学生である。
類まれなる美貌をもって生まれてきたことを除いて。
子供の頃の話をしよう。幼稚園に通っていた時、好きな男の子ナンバーワンだった。それくらいなら大したことのない経験だが、学にとってはそれが最初だった。
小学生の頃、学年が上がるにつれて女子は勿論、男子からも好きな男の子ナンバーワンだったのは、学を取り巻く奇妙な環境の前触れだったのかもしれない。クラスのほとんど、それから他のクラスの名前だけ聞いたことがある子も学のことが好きだという。
アルファベータオメガの垣根がなく、開かれた校風で子供たち同士の関係も良好だった。学はその中でも目立つ存在だったと思う。運動もできたし、勉強への意欲もあった。よく手を上げて返事の大きい子供であった。
学が授業で手をあげると、同級生たちはきゃーと歓声をあげた。それだけのはずだった。しかし、学年が上がるにつれて学が授業中に手をあげると、授業が進まないことが起こり始めたのだ。
授業だけではなかった。学が注目を集めると、皆一様に黙り込み固まりことが増え始めたのである。バスケットボールをすれば学のパスは受け取られず、社会科見学の発表をすれば質問はされない。いずれも、じっと顔に注目され、そして、誰か急に目を覚まし、時間が動き始める。
徐々に周囲の変化に気味が悪くなり、学は授業で手をあげるのを止めた。
中学生に上がり、学の周囲はますます騒がしくも、静かになった。小学生からの付き合いがある友達が一緒に遊んでくれなくなり、どこかよそよそしい態度をとり始めたのが最初だ。違う学校から来た生徒は、学を前にして口をきいてもくれない。学の周りには何か線が引かれたような感じで、人一人分の壁が築かれていた。女生徒に関しては付き合いがなかったものの、口をきけば一瞬で誰々と話したといううわさが瞬く間に広まり、辟易することとなった。
しかし、周囲から一線が引かれ、壁が築かれているにも関わらず、その視線は熱っぽくなる一方だったのである。学を見ると他の生徒は固まり、頬を赤くして目をそらし、そそくさとその場を離れてしまう。用事があれば話はする。しかし、学の話を聞く相手は上の空で要件が通らないことも多かった。
……たぶん、いじめられているわけではない。しかし、周囲の様子は次第に変化していっている。おそらく、悪い方向に。悩んで、教師に相談したものの、先生もぼーっと学を見ているばかりで肝心な話にならない。
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