悪役令嬢は呑んだくれ放浪の旅に出たい

はるみ

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1.まずは生っ!

二日酔いを飛び越え異世界転生

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・・・チチチチチ・・・・



小鳥のさえずる声がする。目蓋越しに柔らかい光が入ってくる。どうやら朝のようだ。
普段ならこの朝の光は二日酔いの頭に直に響き、とても煩わしいもの。でも何故か今朝の光はいつもと違い、煩わしいどころか清々しい目覚めを助長させる。

あれ?
昨晩は確か4軒ほどはしごをしたはず。そんな日の翌日は絶対に二日酔いで、夕方まで起き上がれない状況になるはず。
なのにどうしてこんなに清々しく目を覚ませそうなのだろう・・・。0次会の「呑みの練習」前に飲んだ『ウコン1000倍の力』が効いたのかな・・・?
そんな自己問答をしていると被っていた布団をバッと剥がされた。


「カシス様、朝でございます。今日は旦那様が屋敷に
お戻りになられる日ですよ。早く起きて身支度をしてくださいませ。」


「っうっさい、母さん、今起きようとしてたとこー!!」


実家にいた頃の習慣でつい反射的に叫んでしまった言葉にハッとする。
だってここに実家の母は居ないはず・・・。
っていうか、ここはドコ・・・・?

そっと脇に視線を向けると、訝しげにジト目で自分を見つめる自分と同じ年頃(30代半ば)のメイドが居た。
濃いブラウンの髪を引っ詰めて結い上げ、眼鏡越しの鋭い眼差しからはキツい性格が伺える。


・・・っあ、私この人の名前を知っている・・・。


「メアリー・・・。おはよう・・・。」

「おはようございます。寝ぼけてないで、さっさと支度をしてくださいませ。」

「・・・・はぃ。」

すごすごとベットを降りた自分を横目に、メアリーはテキパキとベットのシーツを剥がしたりと私の身の回りの世話を始める。

自分はまず顔を洗おうと洗面台に向かう。
洗面台のボールにはられた冷たい水で顔を洗い、鏡で自分の顔を見た。鏡に映った顔は普段慣れ親しんだ35歳の自分では無かった。

そこにはまるで妖精のように美しい幼い儚げな少女が鏡の中にあった。

ちょっと吊り気味のアーモンド型で大きな目には、アメジスト色の意思の強そうな瞳が輝いている。陶器のように透き通り滑らかな肌の顔のキャンパスの上には、全てのパーツが絶妙なバランスで整っている。
その顔を縁取る髪は薄い赤紫色の緩やかなロングヘア。とても艶やかで朝の光を浴びてキラキラと輝き彼女の美しさを引き立てていた。
これまで見たことが無い絶世の美少女だったが、どことなく慣れ親しんできた自分の顔と似ているところが有るように感じ、違和感なく鏡に映る姿を自分の姿と受け入れることが出来た。

そう、私は「カシス・コアントロー」。ヴァレンタイン王国、侯爵コアントロー家のただ1人の子供にて嫡子。
コアントロー家は代々国の大臣を担っていて父カルーア・コアントローもしかり。母、ブラッディ・コアントローは公爵家から嫁いできており、私、カシス・コアントローは由緒正しきお嬢様で有る。

しかし、自分、カシスは一般的な父と母の愛情のもとではなく、一部貴族特有の特殊な家庭環境中で育てられてきた。

父と母は政略結婚だった。貴族社会ではよく有る話。
父には婚姻前から思い合っている女性が別にいた。母も父に全く気持ちが無く、ただ双方の一族繁栄の為、愛人がいるこを承知で結婚をした。

そして一族の血を継なぐ為に自分は産まれた。

父は無関心である母の娘であるカシスのことを、自分の娘でもあるのに物としか見ていなかった。

しかし一方、母は自分によく似ているカシスを自分の分身ように捉え、溺愛していた。
愛人の家に行っているのかほとんど家に寄り付かない父に、カシスを溺愛し砂糖菓子のような愛情で甘やかす母。

歪な家庭環境に育ち、10歳になるカシスは高慢でワガママに育ち周り人達をよく困らせていた。


鏡に映る妖精のような外観に反し中身はモンスターだった自分の姿を指でなぞった。

前世 真澄とこれまでのカシス、双方の記憶・心を持ち合わせているこの私。
これまでの私でもあり、そうでもない自分。


これから宜しく『NEOカシス』!

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