悪役令嬢は呑んだくれ放浪の旅に出たい

はるみ

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1.まずは生っ!

未成年の飲酒は禁止されています

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う~・・・ん、にしても清々しい朝。
まるでキャンプに行った時の朝のよう。
こんな時はあれだよっ!そう、あれっ!!


「メアリー、朝ビしたいからビール頂戴っ!!」


作業の手を止め、訝しげにメアリーは訊ねた。
「ビールって何ですか?」


ぁあ、この世界はビールでは通用しないのか。

「エール!エール呑みたいっ!」

するとメアリーは呆れた感じでため息混じりにこめかみを押さえて言った。

「お嬢様、エールは酒類であり、未成年のお嬢様は飲むことができません。これまでもエールどころか、ワインもお飲みになられたことはまだ無いでしょう。そもそもエールなど貴婦人が嗜むようなお酒ではありません。どこでそんな言葉を覚えてきたのですか。」

おっと、つい自分が今、10歳侯爵令嬢カシス・コアントローだということを忘れていた。
そうだよね、10歳はまだ飲酒できないよね。


・・・・・・・・・

・・・・・っん?
・・・・・飲酒ができないだとっ!!!???



NO SAKE,NO LIFE.



現状の自分の立場を認識し、あまりの絶望に膝から崩れ落ちた。


そういえば自分は侯爵令嬢。
ただでさえ侯爵家という身分ゆえ、国外にはなかなか出られない。その上、嫡子となれば国外周遊旅行なんて家族が絶対に許してくれない。
この国に一生閉じ込められた未来しか無い。

お先真っ暗な人生を嘆き、頭を抱え床の上に丸まった。


「今朝のお嬢様は変ですねぇ。お熱でもあるのではないですか?これから旦那様がお見えになられるのに、本当に面倒くさいことを・・・。」


朝からメアリーの「面倒くさい」を貰いました。

この屋敷の使用人達はかねてよりカシスのモンスターっぷりに手を焼いていたが、カシスの家庭環境に同情し、モンスター・カシスを受け入れていた。
それはメアリーも同様だが、彼女だけはどうもカシスに対して敬う気持ちがかなり欠落しており、いつもカシスに手厳しい対応をしていた。
モンスター・カシスはそんなメアリーに苛立ちつつも、自分に対する愛情が感じられるメアリーにとても懐いていた。


溜息混じりに心配をしてカシスの額に手をあててくるメアリーに、慌てて問題無いことを伝え、急いで身支度を整え、食堂へ向かった。


食堂ではお母様が優雅に紅茶を嗜んでいた。
お母様はカシスを自分の分身のように可愛がるだけあって、外観がカシスとよく似ている。
瞳の色はブルーと違うが、カシスと同じアーモンド型の吊り目、カシスよりはちょっと深い赤紫色の髪。おそらく前世の自分と同じ年頃であろう。
カシスの顔に感じた前世の自分の面影は無いものの、前世で親戚に会った時の様な親近感がある顔であった。


「お母様、おはようございます。」

これまでのカシスで身に付けた、マナーのお手本通りの美しい会釈で朝の挨拶をする。

そんなカシスの姿にお母様は満足そうに微笑み、ふわりとカシスを抱きしめた。

「私の可愛いカシスちゃん。おはよう。今日も天使のように可愛いわぁ。あら、その髪留め今日のドレスとあまり合っていないわねぇ。そうだわ!朝食を済ましたら今日は街にそのドレスに似合う髪留めを買いに行きましょう!!」

「お待ち下さい、奥様。」

出かける計画をたて出したお母様を、執事のセバスチャンが制止した。


セバスチャン。

先代コアントロー侯爵の代から屋敷に勤める筆頭執事。年齢は50代半ばだろうか。外見、内面共に絵に描いた『THE 執事』である。


「本日お伝えしていた通り、旦那様がお帰りになられます。せめて旦那様がお見えになるまでは、屋敷に居ていただけますよう宜しくお願い致します。」

その言葉にむっとしたお母様が抵抗した。

「あら、そういえばそうでしたわねぇ。でも普段から居ない人に我々が気を使うことは無いわぁ。」

そんなお母様にセバスチャンも食い下がる。

「例え普段はいらっしゃらなくても、旦那様はこの屋敷のご主人様です。どうぞ今日のところは旦那様とのお時間を作って頂けますよう宜しくお願い致します。」

「はぁ、本当帰って来なくていいのに・・・。」

外出を諦めたお母様は、苦々しげに再び紅茶に口をつけだした。




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