悪役令嬢は呑んだくれ放浪の旅に出たい

はるみ

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5.日本酒入ります

乾杯ですかねっ!?

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メガネ君の屋敷の門内広場が開放され、街の多くの人々で賑わう。
広場の脇にはビッフェエリアが並ぶ。広間のセンターには今日の主役、マグロ?が火に炙られながら鎮座ましている。
生で食べたかったなぁー。
と思いながら、イカフライにかぶりつつマグロ?を眺める。

今日の主役を吊り上げたマティーニは街の人達に囲まれている。もとより常日頃人々に囲まれているマテニーらしい。

ギムレットはメガネ君と共に、地元有権者達の相手をしている。

ピニャ様は・・・・
ピニャ様は只今お篭り中である。
生牡蠣を食べ過ぎて、当たってしまわれていた。。。

・・・。

私はギムレットの婚約者ということになっているが、他人を決め込んでお一人様を楽しんでいる。

さて、イカフライを食べ終わった。
次はどうしようかな・・・?


・・・いっちゃう?
あれ、いっちゃう??

私の視線の先にはワイン樽の山がある。
今日はセルフで注ぎ放題である。

まだ、15歳。でもあと2ヶ月足らずで16歳。
外見的に未成年とバレることはまず無いはず・・・。


私は「いける!」と判断した。

私は周りに怪しまれぬよう堂々とワイン樽に近づいた。

私は成人女性よー。お酒飲んでもいいのよー。

あぁ、
待ちに待った飲酒がついに・・・
樽の栓に手をかけた、まさにその時っ


「まだダメですよー。」

キールに優しく制止され、樽にかけた手を払われた。


くっっそうっ!!!

「あと少しだったのに、もうっ!」

本当に心からの悔しさからの言葉が私からついて出た。


「常に見張ってますからね。」

「見張っているって。私ちゃんとしてるよっ!」

「そうですねー。ちゃんとしてくださいね。姉さんの保護者を卒業できる日を楽しみにしてます。」

まるでオイタをした子供を嗜めるようにキールが答える。

保護者って。
私は前世では先輩、今世では姉だぞ!
いつの間にこんな力関係に・・・。

「くそうっ、私がキールの面倒をみたいっ! キールに頼られたいっ!!」

つい悔しくて地団駄を踏んでしまった。

「姉さん、僕は姉さんが居るから『ちゃんと』しているんですよ。姉さんが居ないと『ちゃんと』してません。姉さん、ありがとうございます。」

優しく微笑みかけられ、愛しむように頭を撫でられた。

うぅ・・・、屈辱的なはずなのに何故か嫌ではない。
むしろもっと撫でてほしいとも思ってしまう。
不可解だっ!!

低く唸っている私の頭をキールが撫で続ける。


そんな感じでキールと談笑をしていると、街の有権者の御令嬢達らしき方々がやって来た。

「コアントロー侯爵家の御子息様方ですよね。お話しをさせていただけるお時間いただけないでしょうか?」

私にも話かけはしてくれている様だが、明らかにキール目当てである。まぁ、お茶会や、夜会で慣れてはいるが。

いつもの通り、私はさりげなくその場を引いた。もしかしたらキールの将来を共にしてくれる御令嬢かもしれないからね。


ある程度腹も膨れた為、屋敷の裏門から海際に出る。

明るい月明かりの下、海はとても穏やかで吸い込まれそうな程深紺をしており、その海面を撫でる夜風が高台のこの場所まで吹き抜けとても気持ちいい。

私はそんな夜風を全身に吸い込み、海を見つめ、今日のことを思い返す。


・・・何度考えても、
磯釣りで5m超えは無理だろ?

磯ちょい沖にどうして5m超えの巨大魚が居るんだよ。
どんなファンタジーだよ。
あつ森でも5mは無いぞ?!(やったことないけど

神秘的な美しさの海辺の夜景を見つめながら、真剣に「磯釣り5m」について考えていると・・・


「っお、居た! カシス、探したぞ!!」

振り向くと今日の主役、マティーニが居た。

「こんなところに来ちゃっていいの? みんなマティーニと話がしたいんじゃない?」

「俺は今カシスと話がしたくて、ここに来たんだ。周りの事などどうでもいい!」

マティーニがはあっけらかんと言い放ち、私の脇に腰を落とした。

こいつは常に色々な人達に囲まれているものの、何かとその場を抜け出し私の所にちょいちょいと来る。
いつからだろう・・・。
あの約束をした頃からだろうか・・・。


「今回、この土地に来て・・・、俺さ、色々と俺の中の世界が変わったんだ。王都の王宮では知り得なかった街の人達の生活とか、その体験とか・・・。全てが新鮮で、刺激的だった。みんな生き生きしてて、一生懸命で、自由なんだよ。」

マティーニは猛る思いを吐き出した。

「俺さ、世界がまだまだ広いって知った。地理的な話でなくて、何て言えばいいんだろう・・・。」

言い淀んで、どう表現すれば良いか悩んでいる。

わかる、その気持ち。
それが私が世界を放浪したい理由。
世界は無限大に広い!
旅は私の世界の『無限大のその向こう』があることを教えてくれる。


「・・・世界って広いでしょう? 無限大なんですよ?」

私の言葉にマティーニは暗い遠い海の向こうを見た。


「俺の夢、なんか掴めてきたような気が・・・する・・・。」


その後マティーニは無言で海の彼方を見つめ、私も一緒に海の向こうの国へ夢を馳せた。


どれだけ経っただろう・・。。
マティーニが呟いた。

「俺さ、とりあえず、サビキで5連全5mいきたい!」


・・・。
はぃ?

物理的に考えて!
糸切れるぞ!
どうやって引き上げるんだよ!?

とても賢い子のはずなのに、とても頭の悪い発言を本気な
顔をして言ってきた。


いや、「磯釣り5m超え」がありえたから、ありえるのか??


だんだん考えるのが馬鹿らしくなってきた。

「楽しみだねぇ。」

考えることを止めたら、マティーニの言葉に肯定的な言葉がついて出た。

「おうっ!」

マティーニが私の顔を見てニカッと笑う。

「でも俺の夢はそんなものでは終わらないぞ。まだ、お前に応援してもらうほど夢が見つかっていない。あの時の約束、忘れてはないよな?」

「えぇ、こちらこそ忘れられていては困ります。待ってますからね、マティーニ殿下の夢。」

「あぁ!!」


深い暗闇に月光が海面を照らし遠くの海面がきらめく中、目の前のマティーニの笑顔がやたら眩しかった。




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