55 / 165
第4章 シシーオ領にて
55
しおりを挟む
私が呆然としたままその場で硬直していると、ルーに口づけされているケータの身体がポーゥと金色の光に包まれた。同時にドクドクと流れ出ていた血液が次第に止まり、徐々に傷口が塞がり始める。
苦痛に顔を歪めていたケータの表情が、安らぎに変わっていくのが分かった。
「一先ず、もう安心です。癒しの息吹は直接吹き込むと、効果が最大限発揮すると聞いたことがあります」
ユイナがホッとひと息ついた。
それを聞いて、私の脳が仕事をし始めた。最初に訪れたのは「良かった」という安堵の気持ち。次いでルーへの感謝の気持ち。
しかし次の瞬間、ルーの口元がモゾリと動いた。途端にケータが目を見開いて顔中真っ赤になる。
私は考えるより先に体が動いた。
「ちょっと、ルー!アンタ何やってんの!」
ふたりに駆け寄ると、ケータからルーを引っ剥がした。その瞬間、ふたりの唇から唾液の糸がツーと延びる。ケータは口元を押さえ、落ち着かない様子でルーを見ていた。
こ、このエロガキ…、まさか、し…舌を入れたの?
私は立ち眩みで、目の前が真っ暗になった。
「何って、治療行為ですよ。私情なんてこれっぽっちも挟んでません」
ルーは素っ恍けた。コイツ、完全にクロだ。
「だ、だったら、そこのオジサンたちにもやってあげてよ!」
「え?フツーに嫌ですけど?」
私は倒れている3人の衛兵たちを指差すが、なんの躊躇いもなく、いけしゃあしゃあと即座に答えやがった。コイツ、完全に私情しか挟んでいないじゃないのよ!
その時、サトコがフラフラと、よろけるように歩き始めた。
「よくもケータくんを…。しかも、キスまで…。全部アイツのせいだ…。絶対ユルサナイ…」
まるで呪詛のように、ブツブツと呟いている。続いて自分のスマホからギンを呼び出すと、膝をついてギンの頭に右手を置いた。
「指示は私が出すから、あの毒虫を氷漬けにして」
サトコはギンの頭を鷲掴みにすると、強引に自分と目線を合わせた。
「分かってるよね、ギン。しくじったら一晩中ルーと一緒にいてもらうから」
サトコは光の全く宿っていない、深淵のような瞳でギンを見た。
「分かってるよ、サトコの姐御。だから、それだけは勘弁してくれ」
ギンは身震いした。この場合、ギンは何に怯えているの?サトコ?それとも、ルー?
しかしサトコの様子が完全におかしい。コレ絶対に闇堕ちしてる。
「ちょ、ちょっと、サトコ」
私は恐る恐るサトコに近付いた。その瞬間…
「見つけたっ!」
サトコが叫んだ。途端に「ギャーッ!」と背後の建物の屋根の上から悲鳴が聞こえた。
私は咄嗟に振り向いた。
そこには、両手両足の先からパキパキと凍りつき始める緑肌の小男の姿があった。
「ま、待ってくれ。俺が悪かった、助けてくれ!」
小男が懸命に命乞いをする。
「赦す訳ないでしょー」
サトコが真っ暗な瞳で小男を見上げた。口元には笑みをたたえているが、その瞳は恐ろしいまでに笑っていない。その間も氷の侵食は進み、小男の胸元まで凍りついていた。
「サトコ、落ち着いて!これ以上やったら死んじゃうって!」
しかし私の声はサトコに届かない。ケータに危害を加えたようなゴミ屑とはいえ、こんな形で相手を殺したら、きっとサトコは後で後悔する。だからサトコ、お願いヤメテ!
そのときケータがスッと現れ、サトコを背後からギュッと抱きしめた。
「大丈夫。ボクはもう大丈夫だから」
サトコの耳元で囁くように言った。その瞬間、サトコの瞳に光が戻る。
「ケ、ケータ…くん…」
サトコは気を失うように、ストンと脱力した。ケータはサトコの身体を支えると、お姫さま抱っこで抱きかかえた。羨ましい…
「西門隊のユイナさんが賊を捕まえてくれたぞー」
ケータが突然、周囲に向かって叫んだ。な、何が始まったの?
「警備隊でも歯が立たなかった相手を、西門隊のユイナさんが捕らえてくれましたー!」
ルーが察したように、後に続いた。
「ア、アナタたち、一体何を…?」
当のユイナは完全に困惑している。
避難をしていた領民たちが声を聞きつけ集まりだし、徐々に歓声が起こり始めた。
「こんなモノで足りるか分からないけど、今日一日のお礼だよ」
戸惑うユイナに、ケータは無邪気な笑顔を向けた。
苦痛に顔を歪めていたケータの表情が、安らぎに変わっていくのが分かった。
「一先ず、もう安心です。癒しの息吹は直接吹き込むと、効果が最大限発揮すると聞いたことがあります」
ユイナがホッとひと息ついた。
それを聞いて、私の脳が仕事をし始めた。最初に訪れたのは「良かった」という安堵の気持ち。次いでルーへの感謝の気持ち。
しかし次の瞬間、ルーの口元がモゾリと動いた。途端にケータが目を見開いて顔中真っ赤になる。
私は考えるより先に体が動いた。
「ちょっと、ルー!アンタ何やってんの!」
ふたりに駆け寄ると、ケータからルーを引っ剥がした。その瞬間、ふたりの唇から唾液の糸がツーと延びる。ケータは口元を押さえ、落ち着かない様子でルーを見ていた。
こ、このエロガキ…、まさか、し…舌を入れたの?
私は立ち眩みで、目の前が真っ暗になった。
「何って、治療行為ですよ。私情なんてこれっぽっちも挟んでません」
ルーは素っ恍けた。コイツ、完全にクロだ。
「だ、だったら、そこのオジサンたちにもやってあげてよ!」
「え?フツーに嫌ですけど?」
私は倒れている3人の衛兵たちを指差すが、なんの躊躇いもなく、いけしゃあしゃあと即座に答えやがった。コイツ、完全に私情しか挟んでいないじゃないのよ!
その時、サトコがフラフラと、よろけるように歩き始めた。
「よくもケータくんを…。しかも、キスまで…。全部アイツのせいだ…。絶対ユルサナイ…」
まるで呪詛のように、ブツブツと呟いている。続いて自分のスマホからギンを呼び出すと、膝をついてギンの頭に右手を置いた。
「指示は私が出すから、あの毒虫を氷漬けにして」
サトコはギンの頭を鷲掴みにすると、強引に自分と目線を合わせた。
「分かってるよね、ギン。しくじったら一晩中ルーと一緒にいてもらうから」
サトコは光の全く宿っていない、深淵のような瞳でギンを見た。
「分かってるよ、サトコの姐御。だから、それだけは勘弁してくれ」
ギンは身震いした。この場合、ギンは何に怯えているの?サトコ?それとも、ルー?
しかしサトコの様子が完全におかしい。コレ絶対に闇堕ちしてる。
「ちょ、ちょっと、サトコ」
私は恐る恐るサトコに近付いた。その瞬間…
「見つけたっ!」
サトコが叫んだ。途端に「ギャーッ!」と背後の建物の屋根の上から悲鳴が聞こえた。
私は咄嗟に振り向いた。
そこには、両手両足の先からパキパキと凍りつき始める緑肌の小男の姿があった。
「ま、待ってくれ。俺が悪かった、助けてくれ!」
小男が懸命に命乞いをする。
「赦す訳ないでしょー」
サトコが真っ暗な瞳で小男を見上げた。口元には笑みをたたえているが、その瞳は恐ろしいまでに笑っていない。その間も氷の侵食は進み、小男の胸元まで凍りついていた。
「サトコ、落ち着いて!これ以上やったら死んじゃうって!」
しかし私の声はサトコに届かない。ケータに危害を加えたようなゴミ屑とはいえ、こんな形で相手を殺したら、きっとサトコは後で後悔する。だからサトコ、お願いヤメテ!
そのときケータがスッと現れ、サトコを背後からギュッと抱きしめた。
「大丈夫。ボクはもう大丈夫だから」
サトコの耳元で囁くように言った。その瞬間、サトコの瞳に光が戻る。
「ケ、ケータ…くん…」
サトコは気を失うように、ストンと脱力した。ケータはサトコの身体を支えると、お姫さま抱っこで抱きかかえた。羨ましい…
「西門隊のユイナさんが賊を捕まえてくれたぞー」
ケータが突然、周囲に向かって叫んだ。な、何が始まったの?
「警備隊でも歯が立たなかった相手を、西門隊のユイナさんが捕らえてくれましたー!」
ルーが察したように、後に続いた。
「ア、アナタたち、一体何を…?」
当のユイナは完全に困惑している。
避難をしていた領民たちが声を聞きつけ集まりだし、徐々に歓声が起こり始めた。
「こんなモノで足りるか分からないけど、今日一日のお礼だよ」
戸惑うユイナに、ケータは無邪気な笑顔を向けた。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ?
――――それ、オレなんだわ……。
昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。
そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。
妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる