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チートで妻子を捨てる

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突然、ノエルに呼び出された。
付近を入念に確認していたので、きっと真剣な話なのだろう。


「メリッサが妊娠したの。
急いで逃がします。
事後承諾で悪いけど、エレノア様に脱出の手配を依頼しました。
一旦中継ポイントまで運び屋に運ばせます。」


『え?
いや、そんな急に。』


エレノア?
ドレークさんの奥さん?
女子アテンドの元締めをしてる人だったか?


「チートさんは動かないで!
糸の動きで勘づかれる!」


糸の動き?
ああ、ベスおばに悟られない様にメリッサを逃がしたいってこと?


俺が事態を理解出来ずに呆然としていると荷物を纏めたメリッサがやって来る。
既に旅姿だ。


「今までありがとう。
チートとの子供は… 全力で守るから。
名前、チートが授けて。」


『待ってくれ!
状況が飲み込めない!』


「チートさん。
後で説明するから。
私の判断で50万ウェン渡しました。
もう時間が無い。
メリッサ、急いで。」


何だ?
女同士で
どういうこと?


「チート。
急に名前なんて言われても困るよね。
前に聞かせて貰った貴方のお父様の名前、頂くね?」


『に、ニート。
あまり良い名ではないよ?』


「うふふ。
実は前から決めてたんだ。
もしもチートの赤ちゃんを産めたら
…って

本当に感謝しているから。
私、貴方との楽しかった生活を決して忘れません。」


メリッサはそれだけ言い捨てると、玄関の馬車に素早く乗り込み、その瞬間に馬車は動き出した。
俺がノエルに問い出そうとしているうちに馬車の姿も見えなくなった。


呆然としていた俺にノエルが状況を説明する。
メリッサの妊娠をヴィルヘルム家が知ったら必ず母諸共にその子を殺しに来るという。
ベスおばが俺の子を産んだ際の障害となる可能性が極めて高いからである。
少なくとも、貴族が平民の妾の子を殺すのは今でもよくある話であり、ヴィルヘルム家の暴慢な家風を鑑みれば、手出しして来ないと考える方がおかしいらしい。
仮にヴィルヘルム家が自重しても、ベスおばは絶対に妥協しないタイプである。
あの女自身が追手となる事も十分想定出来るとのこと。

メリッサとノエルは以前から自分達が妊娠してしまった場合の打開策を密かに練っており、ドレーク夫人のエレノアとも綿密に打ち合わせをしていたようだ。


『いや…
百歩譲ってそれは理解出来るとして…
何故、ドレーク夫人に?』


「あの人も貴族の追手から逃げてきた人だからよ。」


『そうなのか?』


「見て解からなかった?
あの人は貴族の理不尽な追手から逃げ切る事に成功して、今も戦っている人よ。」


『わからないよ。
女同士ならわかるのか?』


「余程勘の鈍い子以外は、みんな察してると思うよ。
少なくとも私やメリッサは初対面で大体察したし。」


わからん。
俺が男だから理解出来なかったのか。
それとも地球人だからなのか…


「チートさんゴメン。
メリッサの妊娠に気付くのが少し遅れた。」


『いや…
俺も全然わからなかったし。』


「今のお腹の膨らみはマズいの。
女なら誰だって解るレベルだから。」


そ、そんなものなのか?
いや、俺にはさっぱりわからなかったが。


その後、ドレーク夫妻から簡単な説明を受ける。
メリッサはエレノアの考案した逃亡手法によって安全圏に逃れる、と。
そうしなければ母子が確実に殺害される状況だそうだ。

『50万ウェンは大金だが、妊婦が安全を買える額だろうか?』

と俺が尋ねると
「私が生きている間であれば養育費を届ける方法を考えます」
とエレノアが答えた。
彼女も独断で200万ウェン程の冒険者ギルド公費を渡していたらしいので、とりあえず俺が穴埋め代を支払う。


念の為、これからエレノアと俺は直接会わない事に決める。
ドレーク夫妻とノエル、俺の4人で手短に口裏を合わせて解散した。




数日。
ベスおばはメリッサが消えた事に気づきもしなかったが
ふとメリッサの話題になった。

俺は打ち合わせ通りに
『役立たずだから離縁した。
手切れ金に小銭をやったら喜んで他の男と出て行った。』
と答えた。


その台詞を聞き終わるよりも早く、ベスおばは満面の笑みでメリッサの悪口を嬉々として並べ立て始めた。
キャリア志向のベスおばに言わせれば、メリッサの様な保守的な専業主婦志向には納得出来なかったらしい。
ましてや、自分より遥かに身分の低い下層民のメリッサが奥方然とした振舞をしているなど、到底許せるものではなく、憎々しく感じていたとのことである。



この女のこんな爽やかな笑顔を見るのは初めてである。
ベスおばは上機嫌で、世の保守的女性を貶め、自分が如何に進歩的で有用な女であるかを朗々と語り続けた。


なるほど。
女の人生も結構大変なんだね。

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